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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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83 森の旅 2 雨の森とペルメア大渓谷の怪

森の奥を出発して15日目。

朝から雨だ。

それでも僕たちは進んでいる。

作っておいたリバーシブルな黒龍のローブや、黒龍のズボンが、まじに役に立った。

雨を一切寄せつけない。

シンハにも着せたら、今日はさすがに大人しく着てくれた。

やはり濡れるのは嫌なようだ。


「作っておいて良かったよ。黒龍のローブ、最高!」

『確かに。だが本当に奴を倒すとは、思わなかった。お前はとんでもない奴だな。』

「そうお?シンハが居てくれたからだよ。あ、そういえばさ、黒龍って呼ばれる龍は、何匹かいるの?」

『ん?いや、一匹のはずだが。何故だ。』

「ふうん。…いや、昨日、たまたまアカシックレコードにアクセスしていたら、龍の情報に行き当たってさ。」

『ふむ。』

「人間の国をひとつ滅ぼした黒龍が居るってなっていたんだけど、別のことを調べていたから、あまり詳しくは見なかった。でもそれって前にシンハが言っていた、黒龍が国を滅ぼした話のことかなと思って。」

『おそらくそうだな。俺の知る限りでも、龍が国を滅ぼした話はいくつかある。だが、1匹の龍が、単独で国を滅ぼしたというのは、あいつ以外聞いたことがない。まあ、大昔ならエンシェントドラゴンというのが居たから、あったかもしれんが。』


「シンハが知っている、黒龍が国を滅ぼした話って、どんなだった?」

『俺たちが向かっているケルーディア王国の隣を統治していたザイツ王国を滅ぼした話だ。まあ、人間たちも愚かなものだ。龍を捕まえ、調教して戦力にしようとしたのだ。

そのころ、黒龍はザイツに近い場所をねぐらにしていた。すでに黒龍は龍の中では一、二を争う好戦的な龍だった。それを生け捕りにして調教など、馬鹿としか思えん。』

「なるほど。で、返り討ちにあったと。」

『そうだ。黒龍は魔法で捕獲され、王都に連れていかれた。しかしあいつはそこいらの魔術師の呪縛など、引きちぎってしまうほどの魔力を持つ。頭もいい。おそらくわざと捕まったのだろう。そして王城で暴れ、国王とその一族を食い殺して去っていったということだ。』

「ぐへ。凄いねえ。」

『ああ。凄い。王族をすべて失ったザイツは、結局内乱で滅びた。

それ以来、あいつは何度か人間を襲った。人間の味が忘れられなかったのかもしれん。人間も討伐隊を出したりもしたが、黒龍にはかなわなかった。

だがやがて、黒龍の方が面倒になったのか、森の奥へと居場所を変え、どうやら最近はあの黒い山に住み着いていたという訳だ。』


「シンハは黒龍とは戦わなかったの?」

『戦ったぞ。母が存命中には何度か出くわすことはあったが、まだ俺も小僧だったからな。

その頃は母が追い払っていた感じだ。

1対1で戦ったのは俺が成獣になってから1度だけだな。無論、俺が勝った。とどめは刺せなかったが。

俺が気に入っているあの洞窟あたりをわざとあらしに来たのだ。おそらく、母がみまかったのを感じて、俺を挑発に来たのだろう。

あの時は俺もあいつの所業に頭にきていたからな。徹底的にしつこく追いかけて、かなり東にあるドワーフの村まで追いかけ、喉元にかみついてやった。さすがに奴も瀕死の重傷で、以来二度と俺の縄張りには来なくなった。』

「うへえ。さすが森の王様。」

『だが本当のとどめを刺したのはお前だ。サキ。』

「…」

『あいつがお前に退治されたおかげで、森はかなり住みやすくなったと思う。礼を言う。』

「いや、シンハが居なかったら、倒すなんてできなかったから。こちらこそ、ありがとう。」

シンハに聞いて、あらためて黒龍がとんでもない奴だと判って、僕は内心ぞっとした。

返り討ちにあわなくて良かったー。


20日が過ぎた。

「あ、川だ。水浴びしよっかな。」

『やめておけ。此処はクロコダイラスがいるはずだ。』

「げ。ワニですか。魔獣だよね。」

『そうだな。魔鰐だ。それから水蛇もいるはずだ。金○をかまれるのは、たとえ再生できても嫌だろう?』

「う。確かに。やめておくよ。」

男の象徴をがぶりは、どんなに治癒魔法が使えても、絶対に嫌だ。いろいろな意味で痛過ぎる。


川沿いに河原をしばらく行くと、次第に川の両側が高くなってきた。

『いよいよ「ペルメア大渓谷」だ。瘴気を吸い込まぬように気を付けろよ。』

「うん。結界と風魔法使うけど、念のためシンハもこれつけて。」

旅に出る前にシンハ用の高性能マスクをアラクネ布で作っておいた。それをシンハに装着するが

『俺はいらん。いつもこんなのナシで通っている。』

「そうかもしれないけど、走り抜けられるけどふらふらになるって言ってたじゃん。お願いだからつけて。」

『キバが使えん。』

「爪があるでしょ。とにかくつけて。錯乱したシンハに殺されるのはやだから。」

『むう。しかたない。』

少し大きくなったマスク姿の超レアシンハの背に乗り、石をポンポンと軽快に渡っていく。

時折川からピラニアに似たでかい魚-キラピア-が襲ってくるが、スタンガン方式で瞬殺し、即刻亜空間に収納している。身は白身魚で鯛よりこっくりしていて美味いそうだから。


瘴気が濃くなった。

「シンハ、そろそろだよ。」

『わかっている。』

と、

「「「フォォォォォ!!」」」

変な声が聞こえたかと思うと、現れたのはアンデッド!しかも群れだ。ゴブリンやコボルト、オークもいる。ゲーム初期のザコ敵として有名な面々だ。

『少々やっかいだな。』

とシンハは言うが、僕は

「わあ!ゴブリンにコボルト、オークもいる!初めて見たかも!異世界っぽいー!」

と大感激。

そう。奥地では見ないからね。


『…こほん。そろそろ倒したいのだが。』

「ああ、そうだった。アンデッドだから食べられないしねっ。まずは数を減らす!エリアハイヒール!!」

アンデッドには回復魔法が弱点なのだ。

僕はありったけの範囲にエリアハイヒールをかけた。光のシャワーがアンデッドたちに降り注ぐ。

「「「フォォォォォォォ!!…」」」

「あとはシンハに…って、あれ?」

きらきらの光の粒子があたり一面にふりそそいだあと、アンデッドの大群は、あとかたもなく消えていた。


『サキ。』

「はい。」

『やりすぎだ。』

「そ、そう、かな?ま、まあいいじゃない。シンハ様のお手を煩わさずに済んだし。あははー。」

まがまがしい瘴気も、消え去っていた。

シンハがなぜか深いため息をついていた。

特製マスクの出番はもうなかった。

アンデッドの魔石が無数に落ちている。

それを風魔法で拾い集め、亜空間収納に納めた。


アンデッドが出れば僕がハイヒールで退治。

ちょっとでも瘴気が残っていたところには、エリアハイヒールを打つ。

瘴気はもうほとんどなく、風魔法で遮れる程度。

どうやら多くのアンデッドが固まっていたことにより瘴気が強くなっていたのだろう。

シンハの背に乗り、シンハが谷底を疾走する間、そうやって浄化し続けた。

『ここが最難関と言われたところとは思えんな。』

「はは。まあいいじゃん。アンデッドもいなくなって、すっきりしたし。空気もきれいになった。」

『まあな。』

「うん?シンハ、ちょっと止まって!」

『どうした!新手かっ!?』

「違う。なんか、あそこの洞窟、気になる。」


蔦がからまりカーテンのようになった奥に、洞窟があった。

僕はシンハから降り、用心しつつシンハと洞窟に入っていく。

少し先をライトの魔法球で照らしつつ。

不穏な気配がするが、アンデッドかどうかなぜか確証がもてない。

少し行くと、行き止まりだった。

でも、石の扉だと幽かにわかる。

「扉、だね。」

『ああ。瘴気で隠されていたのだろうな。』

「ダンジョンかな。」

『…。』

扉には全体に唐草のような植物模様が刻まれており、その中央部分は円形だった。魔法陣だ。

僕にはなぜか読める。開扉の魔法だ。

『読めるか?』

「うん。なぜか読める。扉を開く呪文だな。開けるよ。」

『瘴気があふれるかもしれん。注意しろ。』

「うん。」

僕はそこに書かれていた呪文を唱える。古代魔法語で。

「エル・ハーダ・トレビストレマノス・エ・ッケートールゥ・マノ…」

ゴゴゴゴ…。

石の扉が開く。

確かに瘴気が噴き出そうとしていた。それだけではない。

飛び退きながら

「シールド!」

カカカカッと何かがシールドに当たる。

矢か、短刀。だがすべて錆びて戦力とはいえないシロモノだ。

とっさに

「エリアハイヒール!」

岩陰に隠れながら、身を守りつつ中の浄化を試みる。

すると中から

「フォォォォオ…」

という何者かの『魂』の浄化される声が聞こえた。


開けたとたん、ぐっさりという罠。しかも瘴気が噴き出して打ち損じなし、ということか。

落ちた短刀はもはやシールドに当たって砕けてしまうほど朽ちていた。

だが古い呪詛と毒の気配がする。

少しでもこれで怪我すれば、体内に怪しいものが入り込むという寸法だろう。

「ふう。もう瘴気はないね。」

ライトボールを中に入れてみる。

そこは「家」のような部屋だった。

人が暮らしていた形跡がある。


テーブルの上には本のようなものが広げられていた。

そのそばで、椅子に座って、ぼろぼろの服をまとった人…の遺骸があった。

すでに住人は白骨化しており、アンデッドでもなかった。

首には鉄の首輪があり、かつ短剣が首に突き刺さっていた。

「死後二百年以上はたっているよね。」

『それ以上だろう。なにもかもが、朽ちている。』

「…これは日記みたいだな。」

読んでみる。


「帝国暦、206年緑月5日。

この森に迷い込んで1年。私はまもなくここで死ぬ。森を出ることはとうにあきらめた。

この不思議な部屋の周囲数百メルの範囲にいる限り、魔獣は襲ってこない。瘴気もこない。おそらくこの部屋にある「光の球」のおかげだろう。しかしこの部屋からはどうしても持ち出せない。


この渓谷から脱出するには崖を登るしかないが、上にはワイバーンがいる。何度も試みたが、崖の途中で襲われてしまう。

これまでなんとか命をつないできたが、もうだめだ。「光の球」も弱くなってきている。

どうしてこうなってしまった?わかっている。これは天罰だ。

世界樹を手に入れ、この森を手に入れ、この世界を手に入れようとした。

私は驕っていた。

私の強力な魔法さえあれば、この世を支配できると。

だが、私の身近で計画されていたはかりごとを見抜けず、政争に敗れ、私の魔力は封印された。奴隷として生きることなどできるはずもなく、なんとか逃げ出すことに成功はしたが、今度は森に囚われてしまった。仮にこの渓谷から出られたとしても、魔力無しでは到底生きられない。


相変わらず魔力はほとんど戻らない。だが魔法の知識はある。だから、いつか誰かがこの部屋を見つけ、扉を開けた時、私はその者を殺し、憑依してよみがえる。それだけを生きがいに、ここにひとまず我が命を終えよう。 トレイル・フォン・ガーランディア」


僕は読み終え、なんとも言えない気持ちになった。

『救いのない大馬鹿だな。』

「…。僕、大昔の魔術師に殺されるところだった。」

『ああ。命があって、良かったな。』

「うん。」

『死んだ者に唾を吐きかける趣味はないが、俺は腐れ外道のこいつがよみがえるより、俺のために美味い飯を作ってくれるお前がいたほうがずーっとうれしい。』

「ありがと。」

シンハの宣言に僕は苦笑し、シンハを何度もなで、抱きしめた。


光の球は、すでに影も形もなく、ただ台座だけが残っていた。

それももう、錆びてぼろぼろだ。


僕は魔力封じというのが気になった。

その刻印だろう。魔術師の手の甲の骨にまで染みこんだ奇妙な印がある。

魔術師は必死にこの印を削り落とそうとしたらしく、一部が欠けている。さぞ痛かっただろう。

でもそれで、少しだけ魔力が使えるようになり、最期に蘇りの魔法を我が身に施せたのだと推測できた。

僕はその印を、羊皮紙に魔法で転写した。


日記は、他のページが虫食いなどで朽ちていて、ほぼ読めなかった。

他に見るものはなにもない。


『行こう。ここは燃やしたほうがよかろう。』

「そうだね。…あ、ちょっと待って。」

ひとつだけ気になるものを見つけた。

緑の葉っぱだ。

部屋の隅で光っていた。

それをとりあげたとたん、とてもいい気持ちがした。すがすがしくどこか懐かしい、いい香りがした。それにこの形。もしかして!

『ん?世界樹の葉か?』

「これが?やっぱりそうなの?」

『たぶんな。お前と同じいい匂いがする。ケガレはないな。』

「…。」

僕と同じ…はちょっといやだけど、たしかに、魔剣やジャンビーヤに装飾した時、心に浮かんだ世界樹の葉っぱの形だった。しかしなぜこんなところにこれが?

「…これ、もしかして光の球の正体とか?」

『かもな。それはここにはもういらんだろう。持って行け。いや、お前こそが持つべきだ。』

「…わかった。」


僕たちは部屋と洞窟を出ると、サラマンダにお願いして、業火で焼いてもらった。


あの魔術師の最大の失敗は、光の球が世界樹の葉だと気づけなかったことだ。

目が曇った者には、本質が見えなかったのだろう。欲したものはすぐ近くにあったというのに。

恐ろしい企てをした魔術師は、もう絶対によみがえらない。その灰すら残さず、サラマンダは焼いてくれた。

それでもなお、僕はあえて祈ろう。

「今度こそ、よき魂になって、生まれ変われますように。」


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