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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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70 黒龍との決戦! 2

僕は亜空間収納から、剣を取り出した。

あの魔法剣である。

普段は魔力をなるべく込めず、単なる剣として使っている。

魔力を込めると威力が大きすぎるからだ。

それでも切れ味だけでとんでもないが。


「あいつは火龍だ。こいつを氷剣にして、口の中に放り込む!」

口の中は柔らかい。さすがに喉の奥まで鱗がある訳ではない。たぶん。

『判った。チャンスは一度だ!抜かるなよっ相棒!』

「了解!」

シンハはぐるりと円を描くように回り込むと、今度は一気に龍に向かって走り出した。

「肉体強化!クロックアップ!並列思考!」

それを僕とシンハにかける。

シンハは一層加速する。


龍はにやりと笑ったような気がした。

ブレスの準備に入る。

凄まじい殺気が、正面の黒龍から発せられている。

気が遠くなりそうだ。

僕はシンハにしがみつきながら、防御魔法を強くする。

「イ・ハロヌ・セクエトー!シールド!!」

シールドは敵を防ぎ、かつこちら側から敵への攻撃は何の抵抗もなく通り抜ける、非論理的異世界仕様。そして僕のは極上のもの。


「出でませ!氷剣!」

手にした魔法剣が、ぱああっと白く霜がつきさらに大型に変化する。

とほぼ同時にブアアア!とすさまじい業火が二人を包んだ。黒龍のブレスだ。

僕が氷剣の作用でアイスシールドにしようとするより一瞬はやく、なぜか火の精霊サラマンダが大きな真っ赤な龍の姿で現れ、黒龍の攻撃から僕とシンハを守るように黒龍の前に飛び出す。

「(!サラマンダ!?)」


ふっと真空のようになり、火は僕たち二人を避けて両側に流れた。サラマンダの幻?が見えたのは一瞬だった。と同時にシンハが龍に向かって高くジャンプした。

サラマンダが放ってくれた業火が、目くらましになっていた。

「イ・ハロヌ・アイシクル・ラ・ソー!!」

同時に僕は詠唱を完了する。

『今だ!!相棒!!』

「アイシクル・ソ――――ド!!!」

僕は炎の中で、龍の口の中に、魔法に包まれ強化された氷剣を、投げ槍の要領で思いっきり投げ入れた!

「いっけえええええ!!!!!!!!!」

もちろん、すさまじい魔力をぶち込んで、黒龍の結界とブレスに絶対に負けないと、口中を突き抜けるようにと、強く強く念じて!


バリィィィン!

黒龍の分厚い結界は無事超えた。

「よっしゃあ!!」

じゅわっっっ!

とすさまじい水蒸気をあげながら、氷剣は龍の口に飲み込まれていく。

「フライ!」

自由落下をはじめたシンハに、飛行魔法をかけると、さすがシンハ。空中を自在に駆け抜け、素早く安全な場所までの空中離脱走行に入る。

一方黒龍は目の前の氷剣をはじき返そうとブレスを吐いた。

ブワアァァァァァァ!!!

すさまじい黒龍のブレスに、氷剣は押し戻されそうになる。


「氷剣!威力アップ!」

僕たちはまだ黒龍の真正面の空中にとどまり、氷剣に魔力をさらにつぎ込み、押し戻されまいと踏ん張る。離脱したいが、できるだけ氷剣に近い方が、パワーを渡しやすいからだ。

熱い!氷剣に阻まれているとはいえ、僕たちのところまで、ブレスの熱気が届き、炎に包まれる。

そのど真ん中で、氷剣が、がたがたと震えている。黒龍の魔力にはじき返されまいと抵抗しているのだ。


「くそっ!頑張れ!!」

と氷剣に向かって叫ぶ。氷剣についた氷が成長し始めた。氷で覆われたショートソードはすでに大剣の長さと太さの2倍、いや、それ以上になっている。

すさまじい水蒸気!

水蒸気爆発を狙う手もあるが、ここはあえて氷剣をシールドで護る。剣が口元で爆発で吹っ飛んでも、頑丈なあいつにはかすり傷しか付けられない可能性さえあるからだ。

力は拮抗していて、氷剣は黒龍の口の最奥まで入っていない。これでは喉まで到達できない。フライ魔法に魔力を回すのはもう無理だ。地上に落下しはじめたが、必死に氷剣を喉奥へと送り込む。

だがそうさせまいと黒龍が魔力でシールドしようとする。

くそっ!ここまでか!ここまでなのか、サキ!考えろ!


ふと、トータスグラトニアの時に氷で作った槍を超回転させたことを思い出した。咄嗟に剣をドリルのように高速回転させる。

「スクリューソードォォォォォォ!!!!!!!!!」

魔力をたっぷり受けている氷剣を回すのは重たい。さらに魔力を使う。だがもはや一か八か。躊躇しているヒマはない。

ほぼ停止していた氷剣は、とたんにすさまじい速さで回転を始め…そして黒龍の魔力を、切り裂くように進み始めた。

「いっけえ!!!!!!!!!!!!!!!」

黒龍は口中に入ってきた氷剣を、かみ砕かんとしたが、回転する氷剣が起こす風の障壁のために口を閉じることができないようだ。

ああ、でももう、僕の魔力が…。

気が遠くなる。いや、まだだ!まだ気を失うわけにはいかない!

シンハが僕を乗せたまま火だるまで着地した。残っていたシールドはわずかに2枚!それも着地の瞬間に1枚消えた。着地の衝撃がなかったのは、シンハが風魔法で衝撃を吸収してくれたからだ。


と、突然、

GAOOOOOOOOOOOOONNNNN!!!!!!!

シンハが吠えた。すさまじい魔力を吐いている。

僕の氷剣に風を送ってくれたのだ。

それで氷剣がさらにとんでもない高速回転した。

ここまではまるでスローモーション。氷剣を投げつけた動作からわずか5秒ほど。クロックアップの効果だろう。


一瞬、黒龍が隻眼を見開いた気がした。やばいっと思ったのだろうか。

とその次の瞬間、氷剣は黒龍の喉奥にぶっすりと到達した。

GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!

とたんにスローモーションが切れたみたいになった。

鼓膜をつんざく悲鳴と共に、黒龍が氷剣の威力に負けて後ろに吹っ飛ぶ。

同時に

ボガァン!?と黒龍は自分の吐こうとしたブレスで水蒸気爆発を起こし、下顎が吹っ飛んだ。


黒龍のブレスの炎の余波はまだ僕たちを包み、残った1枚のシールドごしで熱気がすごい。

熱い!でもまだだっ!

僕は右手を一杯に前に伸ばし、ひねるような仕草をしつつ、周囲から魔素をありったけ取り込み、夢中で魔力を氷剣にそそぎこむことに集中し続けた。魔力を伸ばした右手から必死に氷剣に送り込む!

「まだだ!回れ!!スクリューソード!!凍れ!!ギガ・フローズン!!」

キイイイイイン!!!!

氷剣は龍の口中奥で、さらに高速回転をしながら黒龍に深く深く刺さっていく。喉の奥は脳幹。そこを破壊すれば、奴は終わりだ。

氷剣を回転させ続けながら、同時に火龍であるはずの黒龍を、口中から、内臓から、凍らせていく。

「スクリューソード!!!!!!(回れ!回れ!!超回転!!!)ギガ・フローズン!!!!(頭だけでいい、脳幹だけでもいい!胃袋からでもいい!凍れ!凍ってくれ!)凍れぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

GIYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!

大地も大気もつんざくような凄まじい断末魔の悲鳴。

悲鳴ということは、まだあいつは生きている!

だめだ。此処で倒しきらないと!


「凍れ!!!」

黒龍はまるで自身の内臓が凍っていくことに抵抗するかのように一瞬また飛び上がり、そのまま空中でのたうち回り、そしてズズウウン!!と、すさまじい音を立てて、眼前に落下した。

魔法剣は、黒龍の後頭部を突き刺して切っ先を飛び出させていた。

そしてまだ回り続けていた。

そしてそこからピキピキと、首元だけでなく全身を、すさまじい勢いで凍っては溶け、また凍ってを繰り返しつつ、凍らせていく。

シュウシュウと氷が一瞬で蒸発して水蒸気を放っている。

「凍れ!凍れぇぇ!」

ああ、もう目がかすむ。でもまだあいつは生きている。心臓の音が、聞こえる…。

心臓を…凍らせないと。止めないと。あいつの心臓を…。

「凍れ…心臓…ギガ…フローズン…ごふっ!」

『!サキ!』


血の味がする、と意識の片隅で感じながら、ダメ押しの魔法をもう一発を黒龍の心臓めがけて打ち込む。打ち込むと同時に、僕は右手で拳を握りしめた。まるで龍の心臓を、握りつぶすかのように。

『サキ!大丈夫かっ!』

「ごほっ。だいじょぶ…。」


やばい。僕のほうが血反吐を吐いた。肺が焼かれたか。それとも魔力を使い過ぎたか。口中に血の味がさらに広がる。僕の心臓が締め付けられる。魔力欠乏のせいだ。この世界に来て初めて、前世で味わった心臓発作と同じ痛みを胸に感じた。

ちょっとやばい?いや、まだこれくらいなら大丈夫。死ぬ時の発作はこんなもんじゃ無かった。その記憶はある…。

ここで手を抜くことはできない。

僕が死んでも、相打ちにしてでもあいつを討たないと。

あいつはたくさんの命を奪った。誰に聞かずとも、僕にはわかる。

たくさんの悲しみが。無念が。奴の鱗のひとつひとつから聞こえてくる気がした。

僕の魂を、多くの魂の悲鳴が、悲しみが、突き刺し、通り過ぎていく…。


生きて逃がすわけにはいかない。それに、ここで倒しきらないと、絶対あとで僕たちに報復に来る。僕とシンハを、殺しにくる。僕の相棒を!大切な相棒を、死なせる訳にはいかない!いかないんだ!!

頼む。死んでくれ。


『お前は己の死をもって、償わねばならぬ』

厳かな声を聞いた気がした。

ああ。それは誰の言葉?

カミサマ?世界樹?それとも…僕自身?

『お前はやり過ぎた。自らの命で、償わねばならぬ』

……


『サキ!』

シンハの声にはっとする。ああ、一瞬僕は気を失っていたのか。

こんなもんで2度目の人生、終わらせるもんか。

「だいじょ…ぶ。」

シンハに乗ったままの僕は、右手はまだ魔力を氷剣に送りつつ、左手でぽんぽんと、シンハの首を軽く叩いて合図する。

耳が。音がくぐもってしか聞こえない。耳に水が入った時のようだ。

心臓は、まだちょっと痛い。

たぶん、黒龍の断末魔の心臓の痛みとシンクロしたのかもしれない、などと、並列思考が冷静に判断している。


その黒龍は?どうなってる?

「ギギギ…ギ…」

関節の凍る音か。はたまた断末魔か。黒龍から聞こえた。

ピキピキと、黒龍の胸が凍る。全身から湯気を立てつつ凍っていく。

たしかに奴の脳は死んだと思う。だがまだ、奴の心臓は…。

僕はまだ、気を失いかけても魔法を行使していた。


『もういい!やつはもう。だから魔法を止めろ!』

シンハがあせった声で言う。大丈夫。まだ僕は死なない。

火龍の黒龍を凍らせるということは、それだけ凄まじい魔力量を必要とする。

シュウシュウと全身から凄まじい水蒸気をあげて黒龍の体は凍っていく。

僕はさらに周囲から魔素を集め、魔法をかけ続ける…。細く。長く…。

どれほど経ったことだろう。

ものすごく長い時間にも、一瞬だったようにも思えた。

黒龍は、ビクッと一瞬大きく動いたのを最期に、動かなくなった。

全身が水蒸気と霜まみれになって。

ふっと空気が軽くなり、殺気が失せた。


そうして。

黒龍の体から、真っ黒い靄を纏わり付かせた光の粒が、たくさん空へと昇りはじめた。

魂が、肉体から離れていくときの状況だ。

それでも靄の黒さが半端ないが。

ああ、やっとか。やっと死んでくれたか。ああ…つかれた…。

僕はようやく魔法を放出するのを止めた。


燃え盛る煙が雲を呼んだのか、雨が一気に降り出す。

ザァァァァ…

狂ったように、土砂降りになった。

草原と森に燃え移った炎は、瞬く間に鎮火していく…。

黒龍の体や光の粒にまとわりついていた黒い靄は、雨にあたるとようやく少しずつ消えていった。

聖属性の雨、「聖雨」なのだろう。僕が放った自覚はないが。

急激に失われ真空状態のようになった周囲の魔力も、この聖なる雨でようやく元にもどりつつあった。魔力による暴風にでもなるかと思ったが、そうはならず、比較的穏やかに魔素量が戻っていくのを感じた。

「やった…よね。」

『ああ。…やったようだ。』

僕は重力に耐えられず、シンハの上から、焼け焦げかつ泥だらけになった草の上に、ずりりと落ち、大の字に転げた。


ふう…疲れた。続きは明日。

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