64 マンティコア 3 対マンティコア魔道具
「さてと。楽しい夕食も終わったことだし。さっそく石化防止魔法反射サングラスを作るよ。」
『はあー。まるでおもちゃでも作るみたいに簡単に言うんだな。』
「まあ、構想はあるからね。
蛇の目を見ると石になる、ということは、おそらく蛇の目からなんらかの魔法か、呪いビームが出ていると思うんだ。
シンハが魔力で解除できるということは、魔法だろうと呪いだろうと、おそらく聖なる魔法の系統で防げるはず。でもただ防ぐのもシャクだから、反射して相手を石にしちゃおう、というワケ。」
と言いながら、僕は亜空間収納から水晶を取りだし、魔力を込めて短剣で結晶を輪切りにした。
魔力を込めると、石でも魔石でも、まるでケーキでも切るようにこの短剣で切れるということは、すでに経験でわかっている。
切ったレンズを亜空間収納にぶち込んで、少し湾曲させつつ長い楕円形に変形させる。それを亜空間収納内で色を付けていく。おそらく色は染料とともに金属粉を使うだろう。とにかく仕上がりをイメージして、虹色になるよう、今までに採取した鉱物から亜鉛とか銅とかアルミとかさまざまな金属粉を取りだし、染料も駆使して視界を妨げないナノレベルの薄さでコーティングをする。と、あーら不思議。ミラーレンズのできあがりである。
「どうお?土台ができたよ。」
と取りだして目視で確認しつつシンハに見せる。
『ほう、不思議なものだな。虹色だ。これで向こう側が見えるのか?』
「大丈夫。片側しか加工していないからね。こちら側から見れば…ほら。ちゃんと見えるだろ?」
『ほうほう、多少暗いが、見えるな。不思議なものだ。』
「まだこれは土台だよ。これに魔法陣もコーティングするよ。」
そう言って、僕は作ったばかりの『魔法反射』と『物理反射』魔法陣を空中に展開し、合体させ、それを縮小して虹色の表面に付けた。
「念のため、内側には『破壊防止』も書き込んでおくね。」
僕はさらにレンズが壊れないよう、内側にも魔法陣を付けてみた。
「さらに石化が呪いだといけないから、『解呪』もかけておくよ。」
『解呪』は僕も魔力を込めながら祈ると発することができる。シンハはもともと聖獣だから、祈らなくとも魔力を込めただけで解呪ができるらしいが。
「さてと。実験だ。このレンズを石に立てかけて…と。バレットで攻撃してみるよ。」
そして
「バレット!」
僕はまずは魔力だけのバレットでレンズを攻撃してみた。
バレットは全弾レンズに命中したが、攻撃を反射し、かつキズ一つついていない。
「大成功だね。じゃ次。」
次はウィンド・バレット、アイス・バレット、ファイア・バレット、ストーン・バレットを順に試す。魔法反射ですべてのバレットをはじき返し、かつ破壊防止が効いていて、レンズは壊れない。むしろ反射された自分の攻撃を躱すことに神経を使ったほどだ。
「問題なしだね。じゃ、いよいよラスト。闇魔法『カースト』!」
カーストは相手を意のままに操る幻惑魔法だ。強さによりその効果は一瞬から数年までいろいろある。
カースト魔法を受けたレンズは一瞬ぱああっと光り、黒い靄を反射してきた。僕たちはその靄を避ける。黒い靄は木にぶつかってジュッと木肌を黒くさせて消えた。
「おっと。闇魔法も反射した。もし石化が呪いだったとしても、たぶんこのレンズで弾くことができるだろう。成功だね。」
『ちょっとまて。お前、いつの間に闇魔法など習得したんだ!?』
「え、つっこむところ、そこ?僕、とっくに『影縫い』とか『影渡り』とか使ってたじゃん。」
『影縫い』は誰かの影をその場に縫い付けることで、自由を奪う闇魔法、『影渡り』は影に入って影から影へと渡り歩き移動する闇魔法だ。
『む、むむ…。(気づかなかった…)』
「今日も併走で遅れそうな時とか、ちょこちょこ『影渡り』使ってたんだけどな。」
『お前…走るのをサボったな!』
「えー、魔法の訓練だよう。(まあ、サボりともいうが。)」
『まったく。無駄に器用な奴め。』
「無駄ってことないでしょ。いざという時、使えないといけないからねえ。」
『まったく。許可なく俺の影に入ることは禁止だ。鍛錬にならん!』
「ちぇ。言わなきゃよかった。」
『何か言ったか?』
「べっつにー。」
とかどうでもいいような会話をしながらも、僕は手を動かしていた。
「さてと。ふむ。こんなもんかな。」
手元にはできたてほやほやのミラーレンズ入りのゴーグルが2つできあがっていた。一つは普通にゴーグル。もう一つはシンハにあわせて少し変形版ゴーグルだ。レンズを固定するフチはアルミとスライムゴム。ツル部分はアラクネ糸を編み込んだ紐。アラクネ紐は魔力を流すと自在に伸縮するので、装着者にフィットさせやすいのと、シンハが変身して大型になった時でも問題ないはずだ。レンズの形はシンハが大型化しても目を保護できるように、長めの楕円形にした。
「戦闘中に外れないよう、ゴーグルタイプにしたよ。つけてみて。」
『俺もつけるのか!?』
「当たり前じゃん。さ、つけてあげる。おお!かっこよか!なんだかウルト○マンの変身グッズみたいだ!」
『なんだ?それは』
「ウルト○マンはねえ、僕のいた世界のヒーロー…悪い怪獣をやっつける正義の味方だよ。ああ、シンハ、マジかっこよかよー。」
『むう。耳に違和感が。』
と言って前足で耳をすりすりしようとする仕草がなんだかかわいい。でもゴーグル、取らないでよね。
「耳にかけてもいるからね。慣れてね。痛くはないでしょ?さあ、これで石化はばっちり防げるハズ。」
『うう。仕方ない。つけてやる。』
「相変わらず上から目線だねえ。まあ、慣れたけどさ。」
そんなこんなで石化防止グッズも完成し、ようやくテントの中へ。
「あ、魔毒の霧対策グッズも作らないと。シンハは必要?」
『俺はいい。以前もあいつの作る毒の霧は俺にはまったく効かなかった。』
「聖獣さまだもんね。じゃあ、ぼくの分だけ…。できた。」
『早すぎないか?』
「え、だって石ころに浄化魔法を込めるだけだもん。これをブローチにしよう。」
石ころと言ったけど、サファイア入りの石粒だ。魔法を強化してくれる。それをあらかじめ精製しておいたミスリル台に埋め込み、ピン止めも亜空間収納で作る。時短のためだ。亜空間収納さん、万能!
これと結界魔法を組み合わせれば、僕の周囲は無毒化完了だ。
「ふぁーあ。今日はいっぱい走ったから、さすがに眠いや。明日は何時頃出発?」
『日の出とともに。』
「じゃあ、朝食は日の出前だね。わかった。見張り、どうする?」
『いらん。俺は何かあればすぐ目が覚める。眠っていいぞ。』
「だよねー。一応結界石もセットしてあるし。じゃあ、おやすみ。シンハ。」
『おやすみ。』
僕たちは洞窟に居た時と同じように、身を寄せ合って目を閉じた。




