54 剣をつくろう!
ちょっと長めです。
今日はいよいよ剣を作る。
カタナも考えたけれど、此処の魔獣は堅いのが多いから、たびたび「つまらんものを斬ってしまう」斬鉄剣クラスでないと、すぐに刃がかけてしまうだろう。
だから両刃の剣にした。
先日、トータスグラトニアと対峙したとき、突き立てることができる武器がなかった。魔法で作った氷槍でなんとか倒したが、長剣があればそれに氷魔法を通し、もっと効果的に戦えたかもしれない、と反省。
僕は華奢なのであまり重い剣は振れない。魔法で自分を強化すればそれなりに振り回せる、とは思うけれど。
魔力切れの場合とか、魔力が使えない時のことも考え、結局自分の体力でとりまわせる、頑丈なやつを作ることにした。
あまり長いのもきっと使いにくいだろう。
見た目かっこいいのと、実際のとりまわしやすさは違うものだ。
僕は実利をとった。
でかい大剣をしょって歩くのも一応考えたけど、その目立つ剣に自分が振り回されてちゃかっこ悪いよね。将来行くだろう冒険者ギルドで、物笑いの種になるのはごめんだ。
ということで、自分に見合った大きさや重さについて、長い間考えてきたが、結局まずは背丈に合った長さ、重さ、太さの剣を作ろうと決めた。僕の今の身長だと、ショートソードというやつになる。見た目は地味だがそれでいい。
さて、自分で作った「異世界版たまはがね」から、やわらかめの鋼と硬い鋼を、それぞれ折り返し鍛錬をして作った。さらにミスリル板とアダマンタイト板も作った。硬い鋼、ミスリル板、アダマンタイト板などを何枚も層状に重ね、叩いて伸ばし魔力を加えながら板を作る。これを混合鋼と呼ぶことにする。これはいろいろ考えた結果だ。混合鋼は各層が剥がれないよう注意して作る。
カタナは切れ味重視。製法は外側に硬い鋼、内側にやわらかめの鋼となるように包み込んで一体化するのが原則だ。これに対し西洋剣は、刺突力とともに力でたたき切ることが求められたため、頑丈さが求められる。材料も、日本刀は砂鉄だが、西洋剣は良質の鉄鋼石のため、叩いて伸ばすだけでいい剣になったという。量産品は鋳物だったとか。
これらの知識を踏まえ、僕は西洋剣と日本刀の両方のいいとこ取りをすることに。
つまり、折れず曲がらずよく切れて、頑丈な剣が良い。
そのため製法は、日本刀的なものを取り入れてみることにした。つまり柔らかめの鋼を芯鉄とし、その上下を硬い混合鋼でサンドイッチして作ってみることにしたのだ。
すでに和式の包丁が複数と、適当にまぜた地鉄の鍬や斧を作っているが、今度はなんといっても長身だし、両刃で構造が違うから、注意が必要だ。
均一に延びない場合は魔法で調整することに。
まずは芯鉄と混合鋼がよく接着しなじむよう気をつけた。
素材を重ねて火に入れてやわらかくしては槌で打って延ばし、また火に入れてを繰り返す。叩くことで雑味がたたき出され、より強靱な剣になっていく。
火加減はもちろんサラマンダが手伝ってくれている。
火に入れた時も、打つ時も、魔力をたっぷり流し込みながら調整。
さらに軟鉄と硬鉄だけでなく、複数の地鉄を使っているから、対応温度がビミョウに違う。それも加味しつつ、あとは魔力で未熟な技術を補って、各地鉄が複雑に絡み合うようにする。
長さや厚みなど形状は、いつもシンハとの訓練で使っている木剣を参考に作っていく。
何十年もかかる職人技を、数日でなんとかしようというのだ。しかも一本目のショートソードだし。魔力を惜しむわけにはいかない。僕にできるのは、魔力を流すことだけなのだから。
まあ、失敗してもがっかりはするだろうが、また作ればいいだけだ。
結局3日3晩、僕はサンドイッチ片手にあるいはエリクサーを飲みつつ、ひたすら剣を打ち続けた。
そして。
サラマンダがクエーと啼いた。
「できた…。」
ようやく粗研ぎまでいった。
一見、なんの変哲もないノーマルなショートソード。長さもほどほど。太さも厚みもノーマル。重さもほどよい。だが地鉄はよく見ると縞模様の層になって美しい。
うん。
一本目だからこれでいい。
とにかく丈夫には作れたし、地鉄も均一にできたと思う。
あとは仕上げの研ぎだけ。
それは亜空間に任せることにした。
「づがれだー。」
僕はふらふらしながら洞窟に戻り、ぐびぐびと桃ドリンクとエリクサーを飲み、ぱたりと寝床に倒れ込む。あとは覚えていないから、ぐっすり眠ったのだろう。
ふと。
目を醒ましたら、夜だった。
傍にはシンハ。
心配そうにグルグル、とくぐもった声を出した。
『心配したぞ。サキ。』
「シンハ。あーうん。ごめん。でも大丈夫。」
むくっと起き上がり、
「おなかすいた。」
と言うと、台所でごそごそと料理をはじめた。
料理と言っても、温めるだけのシチューとか、あぶればいいだけのナンとか、新鮮なリンゴとか。
そんなものらを手製の食器に盛りつけて、囲炉裏の傍に座る。
「シンハ、ポムロル食べる?」
『ああ。いただこう。』
「ん。」
亜空間からリンゴを出して与える。
「僕がお籠りしてた間、ちゃんと食べてた?」
『ああ。シチューとか肉とか、お前はちゃんと準備していってくれたからな。』
「でも、あったかいもの食べられなかったんじゃない?」
『いや、火妖精が、ほどよくあっためてくれたからな。大丈夫だ。』
「そか。良かった。…火妖精さんたち、ありがとね。」
パチリと囲炉裏の火の粉がはぜた。
サラマンダはずっと僕と一緒に刀剣造りをしていたけれど、サラマンダは強い妖精なので、多くの火妖精を子分にしている。
その子たちがいい仕事をしてくれたようだ。
『去年までは、あたたかいものなど食べられなかったから、ひたすら眠って、時折狩りをして生肉をくらっていた。それを考えると、とんでもなく極楽だよ。』
「なるほどね。」
『…できたのか。』
「うん。まだ研ぎが完成していないし、鍔とか鞘はこれからだけど。」
そう言って、僕は食器を置いて亜空間から剣を取り出した。
「地鉄の模様にはこだわったんだよー。ダマスカス鋼っていってね、マボロシのハガネがあってさあ、それを目指してみたんだ。」
と僕は子供がおもちゃを自慢するようにご満悦。
まだ剣は研ぎきっていないので、全体に鈍色に光っている。
両刃で尖端はそれなりに尖っている。刃の部分は研ぎさえすれば鋭い刃になるが、指が切れるのは切っ先から三分の二くらいまで。柄に近い残り三分の一くらいは、刃をつけずにわざと斬れ味を悪くしておく。
これは手を添えた時に手が斬れないようにするための工夫。
ただし横になぎ払えば、ちゃんと斬れるはずだ。
刃の中央部くらいから柄までは、刀身の峰部分を削って樋とし、装飾性とともに軽量化をはかっている。唐草でも入れればもっと装飾性は増すが、飾り剣ではないからシンプルなまま。
剣の根元はくびれている剣もあるが、これはそのままストレートに鍔と接触するタイプ。
鍔は今回は日本刀的に分離方式で別材で作る予定。
鍔が緩まないようにする鎺金具(刃の根元につける金具)は、西洋剣にはあまり付かないが、補強用にこれも別材で作る予定。
刀身は柄頭まで貫通した構造なので、あとでここに魔法が通りやすい魔石や宝石をセットできるように細工するつもり。
地鉄は全体にダマスカス鋼のように波模様が見えて美しい。黒い層はアダマンタイト。やけに白いのはミスリル層。技巧的に高低差のある山形に作った波ではないので、素直に切っ先に向かって穏やかにうねっている。これはこれで本当に美しいシマシマだ!
僕の技量というか魔法の腕が、なかなかのものであることを物語っている。我ながらこれが一本目のショートソードとは思えない、かなり上質の仕上がりだ。魔力だけはいっぱい使ったからね。
気にしていた魔力を通す時の音も、キィィィィンという感じ。
まるで金属のベルみたいに、良い響きだよ。
『ほう。なかなかの剣だな。』
「でしょでしょ!一本目にしては上出来かと。僕もそう思ってるよ。」
『…。サキ。』
「ん?」
『お前それ、鑑定してみたか?』
「え?まだだけど…なん…で…って…え?」
ふうーっとシンハがため息。
シンハに言われて鑑定しはじめた僕は、目を丸くしていた。
鑑定が言うには
「魔法剣。極上の魔力と極上の地鉄で作られた伝説の剣。基本的になんでも斬れる。持ち主の魔力によって、強弱が変わる。付与した魔力の性質によって、聖剣、魔剣、火剣、水剣、氷剣、雷剣、風剣、緑剣、土剣になる。しかし作者の魔力の性質により、特に聖なる魔力が込められたので、属性魔力を込めない場合は聖剣というべきである。」
「おおっとー。ちょおっと待って!?ナニコレ!」
僕が奇妙な声をあげた。地鉄のシマシマに目を奪われて、鑑定なんてしてなかったよ。
「ふつうのノーマル剣を作ったはずなんだけどなー。あははー。」
ひきつり笑いでごまかす。
『俺は鑑定はできないが、その剣の放つ魔力というか、聖気というか、まとった雰囲気で並みの剣ではないと判ったぞ。サキ。それを鑑定させないよう、妨害の魔法をかけておけ。できるだろう?』
「えーっと…。うん。まあ、できる。たぶん。うん。できそうだ。」
『誰にも盗まれぬように注意しろよ。それはもう、伝説の魔法剣だからな。』
「ふえーい。」
普通のショートソードを作ったはずなに。変だな。
「魔力を込めなくとも聖剣?どけん(土剣)ってなんだよ。りょっけん(緑剣)?そんなもん作った覚えないぞ。うう…。」
と僕はぶつぶつ言いながら、剣を亜空間に収納し、残っていたシチューを平らげた。
翌日からは気分を変えて、剣の部品を作る。いわゆる刀装具だ。
西洋風の剣で刀身は柄頭まで通っているが、日本刀式に目釘でも止める方式にしてある。
この世界でも柄頭には宝石を埋め込むので、柄頭を別材とし、柄の中で刀身が動かないように固定しているタイプがよくあるらしい。
鍔は鉄…と思ったけど、魔法が通りやすいように刀身と同じ混合鋼に変更。重さバランスを見ながら細めに仕上げる。
まあ、少し使い込んだようにヤスリでもかけて鈍色にしておけば、目立たないだろう。形はシンプルな一文字タイプ。シンプルすぎるので、ちょっと唐草を彫ってみた。
西洋剣にはあまり付かない鎺も同じ素材にしておく。ここも古色仕上げ。家紋の代わりに、イメージで世界樹を彫って、ここだけは金銀象眼にしてみよう。
見たことないはずなのに、頭の中には樫の木に似た樹形と葉っぱの形が想像できる。
柄はワイバーンの骨で包み、滑り止めにワイバーンの革巻にしておこう。血塗れになっても手が滑らないように。
目釘を固定する目貫金具は小さな世界樹の葉っぱ。ミスリル製の葉っぱに、丸い青いサファイアを露に見立てて置き、さらに小さな露として周囲にも散らしてと。
なぜか青をいれないとと思う。
青とかサファイアは僕のテーマカラー、テーマ宝石なのかもね。
刀身は柄頭まで通っている。その頭は中に石を入れられるように、ワイングラス状に立体的にして、ネジを切っておく。
中の石は、僕の魔力を馴染ませた大粒サファイアを仕込んだ。石を入れるとさらに剣に魔力を通しやすくなった。
柄頭の蓋は平らにし、混合鋼に世界樹を彫って、金銀象眼。
このネジ蓋は、戦いの最中に緩んだり外れたりしないように長めのネジとし、かつ最後にカチッと嵌まるからくりにした。開ける時は魔力を流し込みながら引っ張りつつ開ける方式。わかるひとしか開けられないだろう。
シンハの話だと、貴族は柄頭にでかい宝石を付けて見せびらかしたりするらしいけど、剣ごと盗まれたくないし僕のシュミじゃない。外側を平らにして世界樹を彫る案は、シンハも賛成してくれた。
ちなみに目貫金具に光り物を使うのは、庶民でもお守りとかでよくあるらしい。使う宝石はあくまでちっちゃく。目立つのはよくない。
いろいろと細工物していたら、あっという間に日が暮れた。
いけない。シンハがおなかすかせてる!
サキくん、職人としても人外のようです!