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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第十一章 魔塔生活 授業とS級授与式編
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532 王宮へ下見 東屋の仕様について

広い中央廊下をしばし歩くと、大扉の前に来た。衛兵が二人、扉の前を守っている。謁見の間だ。

侍従が合図をすると、衛兵によって扉が開かれた。

「どうぞ。」

中に入る。誰もいる気配はない。

ほう。

謁見の間はさすがにとんでもなく広かった。

奥のほうに階段が数段あって、玉座がある。そこに向かって赤い絨毯が敷かれていた。

「当日はここが貴族でいっぱいになります。」

「はあ。」

えー。言わなくてもいいじゃん。


師匠がふっふと笑い

「そうだろうなあ。みんなおまえを見たくて仕方ないだろうな。」

ちっ、師匠までいらんことを。

それから少し、謁見の時の作法を言われた。

名前を呼ばれたら、赤絨毯のこのあたりまで進み、貴族の礼をとること。シンハは一緒に進んでよいが、必ず手綱をつけ、僕の横でお座りをすること、陛下から証書を授与される時は、僕一人がさらに進み、陛下から証書をいただいて同じ位置まで下がること、などなど。

まあ予想した範囲の作法だった。


僕がスムースに貴族の礼をとったり、シンハがおとなしく僕に従うのを見て、ラウエルさんは安心したようだった。

「では中庭にご案内いたします。」

いよいよ中庭。僕としては下見の本命はこっちだ。


中庭は、謁見の間のすぐ脇だった。

謁見の間の脇は白い扉と窓がたくさんあって、中庭を取り囲む回廊に出られるようになっている。

今日は管理のために中庭側の扉はどれも施錠されていたが、ガラスがはまった窓が並んでいて明るい。向こう側は庭だろうな、とは思っていた。


その扉のひとつを開けて、案内されたのが中庭。

「かなり広いですね。」

そうなのだ。中庭、というが、普通に庭だ。

「回廊は散策で一巡りするのにワイン1本でも済まない長さ、と言われております。」

どうやらこの回廊がこの城の自慢のひとつらしい。

人工的な小川が流れていて、中央の位置に噴水がある。さらに奥は下りの階段があって、別棟にはその階段を降りていく。回廊は平面ではなかったのだ。

謁見の間近くを「上の中庭」と言い、階段を降りたエリアは「下の中庭」と呼ばれているという。

さらに、回廊の角にあたる4カ所には東屋が設置され、ベンチが設置されている。

中庭としてはもちろんこれで完成形だ。


「それで…、僕はどこに壁を建てるのでしょう?」

「はい。…あの噴水から横に造っていただければと。」

そこは、今は細長く花壇になっている。色とりどりの鑑賞用の草花が植えられていた。

「花壇、潰しちゃいますね。」

「あとでまた造りますからお気になさらず。」

「…。それで、東屋は?」

「はい。この「上の中庭」の中心にと、陛下からのご要望です。」

うへえ。

めっちゃ目立つじゃんか!


噴水近くに、誰かいる。がっしり体型の中年男性で、こちらに向かって歩いて来つつ、お辞儀した。

「王宮付きの建築師を呼んでおります。」

近くに来ると、彼は人なつこい笑みを浮かべ、まず

「ご無沙汰しております。」

と師匠に挨拶し握手した。

「おう。ロイド。元気だったか?」

「はい。魔術師長こそ。」

「今はもうしがない教師だよ。」

「どこが「しがない」んです?泣く子も黙る魔塔のヌシだと聞いていますよ。」

とにやにや。

「こほん。紹介しよう。こいつが俺の弟子で、今回Sクラスになったサキ・エル・ユグディオだ。サキ。こいつはロイド・フォン・エックハルト。昔から建築屋をしている。」

「建築師、ですよ。ロイドです。お噂はかねがね。今回はよろしくお願いします。」

「サキです。よろしくお願いします。」

僕とロイドさんは握手した。


「さっそくですが」

とロイドさんは図面を広げた。東屋の設計図だ。

設計図と言っても、ざっくりしたラフスケッチだ。この世界の人たちは、これくらいざっくりした図面だけで、精緻な王宮も建ててしまうらしい。もっとも、王宮の場合は装飾も多いから、それは別の絵師とかがスケッチを起こして造るらしいが。

「柱は8本。八角形の東屋で、屋根はこんな感じのカーブで既存のものと調和をとりたいと思いますがいかがでしょう。」

とロイドさん。

「わかりました。高さや屋根の奥行きなどは、角の東屋と合わせればよいですか?」

「そうですね。少し大きめでもいいかと。数字を出しておきます。」


「ロイド。ちょっといいかい?」

とラウエルさん。

「なんでしょう。」

「陛下から、サキ様には自由に造ってもらえと言われている。調和も大切だが、記念に造るのだから、ある程度個性的なものをと。」

「「個性的なもの…。」」

皆、うなった。

「確かに、没個性ではつまらんが、さりとて突飛すぎるのもなあ。」

と師匠も首をひねる。


僕もどうしようか、と一瞬戸惑ったが、ぱっとひらめいた。

「あ、こんな感じはどうでしょうか。」

と言って、僕は3Dのイリュージョン魔法を使って小さな東屋の模型を空中に映し出した。

「ほうほう。きれいなものですな。」

「おまっ、こんな器用な魔法をさらっと出すんじゃねえ。」

と師匠。

え、こういうの、ないの?

建築師のロイドさんは、イリュージョン魔法の難易度には無関心らしく、その建物の映像に言及してきた。


「変わった形式の建物ですな。」

「はい。これは昔、旅先で見かけた本に載っていたものです。古い様式なんですが、たしかムデハル様式とか呼ばれていたようですね。」

あっはー。出所はデタラメですけど、ムデハル様式は本当ですよ。この様式は、地球のスペインにあるアルハンブラ宮殿の主要建築様式だ。

アラビア風の様式と欧州の様式の融合とでも言おうか。装飾的で柱に特徴がある。そして今回は使用しないが、天井も凝った造りになっているものだ。


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