528 女子学生たちとの再会&やんごとなきお方
「はい!今回、飛び級で合格しました!」
「おおー!おめでとう!」
そうか。オープンキャンパスで聴講していたわけではないのだな。
彼女たちは、僕たちが魔塔に来てすぐに食堂で出会った、中央学院の女生徒たちだ。フェンリル寮で暮らしているので、あのあとも見かけたけれど、僕が大抵師匠と一緒なので、黙礼はしても近寄ってはこなかったんだ。
あの300名ほどの受験生の中には、こういう中央学院の生徒で将来有望な子たちも、飛び級を狙って魔塔試験を受けているらしかった。
「キャロルにモーリー、シャル、ナディア、だったね。」
「すごい!覚えていてくれたんですか!?」
「ふふ。もちろん。」
「「うれしい!」」
きゃぴきゃぴだ。
ああ、本当はこういう子たちと、一緒に「学生として」合格したかったなあ。とほほ。
「サキ先生こそ、教授合格、おめでとうございます!」
「「おめでとうございます!」」
「あははー。ありがと、ありがとー。なんだかそういうことになっちゃって。…で、質問だったね。何?」
「あ、はい!さっき「無詠唱で」使っていた魔法は、なんですか?」
「威力が凄すぎて。雷系の魔法だとはわかったんですけど…。」
「あれは普通に「落雷」という魔法だよ。」
「普通にって…。普通の「落雷」の威力じゃなかったですよぅ。」
「耳が駄目になったかと思いましたぁ。」
「真の無詠唱でしたよね。」
「あ、でも指パッチンしてた。」
「そう。指を鳴らすことで、合図にした、というところでしょうか。」
「杖もなし、呪文も無しって、どうすれば…。」
「それはまた次の次くらいの授業で解説しますねー。とにかく、皆さん、合格おめでとう。」
「「ありがとうございます!!」」
キャピキャピの女学生に笑顔で挨拶し、僕は師匠の部屋に向かう。
授業が終わったら来いと言われていたんだ。
魔力に溶けて半分眠っていたシンハが、
『珍しく人族の若い女子にモテてるじゃないか。』
「(なんだよ。その含みのある言い方。)」
『まあ、青春というやつか?』
「(まったく。冷やかしはやめようね。)」
『ふふ。』
そんな他愛もない話をしながら師匠の研究室に向かっていたのだが、師匠から緊急の念話が入った。
「(サキ。補講は終わったか?)」
「(あ、はい。師匠。今、師匠の研究室に向かっています。)」
「(予定変更だ。至急魔塔長室に来てくれ。)」
「(!わかりました。)」
念話はそれだけだった。
どうしたのか、何故魔塔長室なのか、問いたかったが、師匠はすぐに念話を切ってしまった。まあいいか。どうせ行けばわかるだろう。
とのんびり考えていた僕が浅はかでした。
魔塔長室前。シンハを顕現させて、扉をノックする。
コンコン。
「サキか。入れ。」
と師匠の声。
「失礼しま…す?」
扉を開けながら発声したが、語尾がついうわずって疑問形になってしまった。
だって、室内に居たのは、明らかに偉そうなおっさん…いや、おじさまが一人、魔塔長と師匠の向かい側のソファに座っていた。
そして室内には、扉のところに護衛騎士が二人、おじさま貴族の後ろに若い執事が一人、立っていた。
明らかに相手はやんごとなきお方。
ドアのところでぽかんと突っ立っていると、護衛騎士がじろりと僕を睨み、そしてシンハを見て護衛の一人が剣の柄に手をかけた。
ウウー!
途端にシンハがうなった。
すると護衛騎士はシンハの殺気にひるんだのか、動けないようだった。
「!シンハ、どうどう!」
僕が慌ててシンハの首輪に手をかけた。
そして騎士に向かって
「剣から手を放してください!この子は安全ですから!」
と僕も強めに言った。いや、安全なら唸らないよね。
「おお、すまない。セオドア、剣から手を放せ。そちらは聖獣様だ。」
とイケおじが言った。
「!失礼しました!」
セオドアと呼ばれた護衛騎士は、すぐにはっとして剣から手を放し、一歩引いた。
ふう。
『ちゃんと教育しておけ!ガウ!』
僕にはシンハが言ったことがわかったが、イケおじにも誰にもわからなかっただろう。
「申し訳ない。聖獣様を刺激してしまった。」
「いえ。敵意がなければ大丈夫です。」
と僕は言った。
シンハはまだ不満げにフンス!と荒い鼻息を漏らした。
「ドアを締めて、こちらへ。」
と魔塔長が僕に言った。
「失礼します。」
念のため、シンハの手綱を持って数歩近づくと、イケおじ自ら立ち上がり、僕に向かってお声がけがあった。
「そなたがサキ殿か。そしてそちらがフェンリルのシンハ殿、であるな?」
うわあ、シンハのこと、ばれてる。
と思いつつも、
「はい。」
と僕が答えると、
「おお、聖獣殿に直接お会いできるとは。我は幸運だ。」
と言って恭しくシンハに一礼した。
『フン!礼儀は多少知っているようだな。』
とシンハは相変わらず偉そうだ。
「申し遅れた。私はこの国の王、アンリ・ブロワ・ド・アレクシウス・ケルーディアである。」
と言われたので、僕は驚いた。驚いたけれど、「げっ!」とお下品に言わなかった自分を褒めたい。
なんとか気を取り直し、膝はつかなかったが、貴族流のお辞儀を丁寧にした。
「初めまして。サキ・エル・ユグディオです。爵位を賜った折は参内できず、失礼いたしました。」
となんとか言った。
「よいよい。気にするな。それに今日はお忍びじゃ。無礼講で良いぞ。面を上げよ。」
「はっ。」