524 闇精霊のこと PART 2
「別に1番でなくていいんだけど。」
「たしかにそうだけど、少なくとも1番が推薦する子でないとね。」
おそらく、地脈管理で1番は動けないだろうから、他の子になるだろう。
などと呑気に思っていたのだけれど。
「やあ。」
その日の夜。やってきた闇の精霊は1番でした。
「こ、こんばんは。」
しかも、メーリアと同じように、大きいです。
人族と見た目変わりません。
黒マントを羽織っていて、黒髪黒目。顔立ちはアラブ系みたいな感じで、肌の色が少し褐色の青年だ。
ターバン巻いたら、アラブの王子様だ。
そう、「月の沙漠」の王子様みたいな。
「メーリアからの伝言で、来たよ。もっと早く来たかったんだけど、いろいろあってね。」
「はじめまして。サキです。お忙しいのでしょう?地脈管理もしておられると聞きました。」
「ああ、僕はお手伝いだから、そうでもない。世界樹様に比べたら。」
「そうですか。」
「で、僕と契約しようか。」
「え、いいんですか?別に1番の方でなくとも…。」
「ううん。邪神様は、今は眠っているけれど、すでに半覚醒で使徒は動き始めてるからね。
僕が邪神様に操られるとやっかいだから、サキと契約したほうがいいと、ジュノ様からも許可をいただいている。」
「そうなんですね。」
確かに、邪神に闇の1番くんが使役されたら超やばい。
ジュノ様にお会いした時には、闇妖精のことまで思いが至らなかった。
きっとジュノ様は気に掛けておられただろうけど、他にもたくさん、相談すべきことがあったしね。
「僕は地脈管理もあるけど、君がいつでも召喚できるよう、普段は僕の分身を君の影に潜めておこう。普段は分身体で術を行使できるけど、いざという時は、分身と入れ替わって僕が来れるはずだから。」
「ありがとうございます。今までも、闇の妖精たちが入れ替わりで居てくれましたよね?ご配慮ありがとうございます。」
「ふふ。気づいてたんだ。やっぱりね。君は優秀だねえ。」
「え、いや…。」
「サキはいろいろ面白いから。闇の子たちも、君の傍は居心地がいいみたいで、次は誰が行くかっていつも楽しそうに相談しているよ。僕も、地脈の傍にいると退屈なんだけど、闇の子たちが伝えてくれる君の様子に、いつも楽しませてもらっているよ。」
「えー、じゃあ妖精達は、監視を兼ねてたってことですかあ?」
「ははは。これからは堂々とできるねえ。」
「酷いなあ。」
「ふふ。君のいう、ぷらいばしーとやらはちゃんと守るよ。大丈夫。」
「はあ。お願いします。」
「ということで。僕と契約しよう。フェンリルのシンハ殿も、よろしくね。」
『…。サキをきちんと守るなら、それもよかろう。』
相変わらずシンハは偉そうだ。聖獣だから、偉いんだけど。
「ではサキ、契約を。名をつけておくれ。素敵な名前を頼むよ。」
そう言って、闇の1番は僕の前に片膝をついた。
「ではいきます。汝、サキ・ユグディリアと主従の契約を結ぶか?」
「承諾する。」
「そなたの名は、ヨミ・ネーロ・コルヴィーノ。通称ヨミ。」
「承った。」
するとぱあっと一瞬魔法陣が現れ、そして消えた。
「契約は成った。」
「ありがとう。ヨミ。」
と僕は答えた。
ちなみに「ヨミ」は「黄泉」から。「ネーロ・コルヴィーノ」は「漆黒」のイタリア語だ。
この世界にはない言語だけれど、音がきれいだからいいでしょ。
「せっかく下界に来たからね。ちょっと遊んでくるよ。ああ、サキには僕の分身を置いて行くから、大丈夫。じゃあね!」
と言うと、窓からふわりと外へ。あっという間に飛び去った。
「…相変わらず妖精はマイペースだなあ。」
別にいいけど。
ふと月明かりに浮かんだ僕の影を振り返ると、グリューネくらいの小ささの、黒マント姿の妖精と目があった。
「よろしくね。分身くん。」
と言うと、モジモジしながらもさっとまるで王子様みたいなお辞儀をした。
お、かっこいいじゃん。
本体より性格いいのかもしれない。
「ふわあ。もう寝よう。シンハもプチヨミくんもおやすみねー。」
分身くんの呼び名は「プチヨミくん」に決定。
それから闇属性レベルは確かに上がった。
でも、実感としてはちょこっと使いやすくなったくらい。
大抵は1番くん本体を呼び出さずとも、影渡り程度ならプチヨミくんで間に合っちゃっている。
闇魔法の大魔法をするならヨミ本体が必要だけれど、きっと邪神の使徒とかと真っ向勝負の時以外は、そうそう呼び出さずとも大丈夫そうだ。
逆に、
「もっと呼び出してくれてもいいんだけど。」
と言われてしまった。
でもさあ、僕の作ったポムロルパイをほうばりながら言われてもねえ。
ただお菓子食べたいだけじゃないの?
いいけどさ。
僕がプチヨミくんにご馳走すると、本体のヨミも味わえてるようだけどね。
「いや、さすがに食感はダイレクトに解らないからさ。ふうん。このパイ、こんなにサクサク中しっとりだったんだ。美味いね。」
やはり、ただお菓子を食べたいだけみたいだ。
「地脈管理、大変なんでしょ。お菓子、持ってく?」
「ああ。ありがとう。できればいっぱいちょうだい。サキのお菓子、美味いから。」
「はいはい。」
ということで、大きめバスケットに山ほど詰め込んで持っていった。
「魔力補強にもなるし。いいね。」
とフィナンシェをつまみながら言われてもねえ。なんか気が抜けます。
「御礼にこれ、あげる。」
と小指用リングを貰った。
「闇魔法で結界を作るものだよ。君の光魔法の結界と同時に使うと、黒魔術も楽に跳ね返せるはずだから。」
試しに発動してみると、これまでの結界の外側に闇結界がうっすらできる感じ。
見た目は他の人にはわからない透明だけれど。
「これに魔法や物理攻撃があたっても、「柔軟に」跳ね返せるから、これまでの結界より割れにくいはずだよ。もちろん、黒魔術も防ぐよ。」
これまでの結界が透明ガラスだとすれば、これは透明なアクリルコーティングみたいな感じで、少し弾力性がある。