520 ドブさらいアゲイン PART 1
はい!今日からしばらくドブさらいのお話デス!
文字で書くぶんには臭わないから、暑い夏にはピッタリのお話ですねっ!(マジかよ…)
「やっと街に出られたよ。」
このところ、ずーっと魔塔に籠もっていたからな。
「ユートピア村」への引っ越しが終わり、学生たちの期末試験までの間、数日フリータイムができた。
天気は上々。
今日は懸案の王都どぶさらいイベントの受注にやってきた。
王都のギルド本部の扉を開けると、受付には、初めて来た時にお世話になったフェレス・アルミス嬢もいた。受付のお姉様がたに軽く会釈してから、僕はシンハと依頼が貼られているコーナーへまっすぐ向かった。
FやEクラスの冒険者用の掲示板に、それはあった。
紙は古ぼけて、長らくだれも受けていないのは明らかだった。
「王都メインストリートのドブさらい。片側100メルに付き100ルビ。汚泥は所定の場所まで運ぶこと。詳細は受付で。 発注者:王都管理局」
なるほど。王都は区ごとではないんだな。
片側100メルで約1000円。手作業なら、1日仕事で両側合わせて500メルやれば、安宿に泊まってなんとか1日暮らせそうな値段だ。
500メルでも、手作業だけだと結構キツい。だから高いといえば高いし、安いと思えば確かに安い値段だ。
ちなみに、地球の東京で銀座通りが約3キロメートル、パリのシャンゼリゼ通りが約2キロメートル。
この王都のメインストリートも、アカシックさんによると長さは平均約3キロメルらしい。
側溝は両側にあるから、支払いは倍になる。
追記がある。
「さらった汚泥の中に貴重品(例:貨幣、宝石、魔石など)があった場合は申し出ること。謝礼が出る場合があります」
なるほどね。
ヴィルドの時には多少のお金が落ちていたが、ごく少額だったので、全部もらっていいと言われた。王都となれば、銭貨や銅貨だけでなく、銀貨、金貨も考えられるし、宝石ということもあるかもしれない。それでこの追記なのだな。
僕はそんなことを考えながら、その紙をはがして受付へ。
フェレス嬢の窓口に並ぶ。
「こんにちはー。」
「お久しぶりです。サキ様。」
「ご無沙汰しております。受付お願いします。」
と言って紙を出す。
「え。」
フェレスさんが紙と僕とを何度も見ている。
「ダメですか?」
「え、いいえ…。なかなか受けてもらえないお仕事なので、受けていただけるとギルドとしては大変ありがたいのですが…。よろしいのですか?EやFの方のお仕事ですから、とてもお安いですよ?」
「お値段は問題ありません。この手の仕事は、ヴィルドでもやっていたので。それに、僕は魔力が多めなので、結構効率よくできると思います。」
「あーなるほど。そうですね。サキ様であれば、問題ないでしょう。」
そう言って、フェレスさんはカウンターの下から王都の地図を取り出し、広げた。
ほうほう。王都全体の地図だ。
「この依頼で「メインストリート」と言っているのは、これらの太い道すべてです。」
メインストリートは、太いだけでなく、わかりやすく黄色や赤で縁取りがされてある。
それは王都全体に広がっている主要道路すべてで、ざっくり言うと5本の放射状の道とそれら道路をつなぐ環状道路、そして城を囲む道だった。
「結構な長さですね。」
「はい。ですから、できる範囲で構いませんよ。」
「ありがとうございます。…真っ先にしてほしいところはありますか?」
「そうですねぇ。貴族御用達の商店街のあるシャーレイ通りは、店側も気をつけているのでわりと大丈夫ですが、庶民が多く行くこちらのネヴィル通りや、南北に王都を貫いているイブレア街道の道を、できれば早めにお願いしたいです。夏になると、どうしても気になりますから。」
「わかりました。…あ、それと、浚った汚泥ですが、いただいても問題無いですよね?」
「はい?汚泥の処理もしてくださると言うことですか?」
「ええ、まあ。」
汚泥ブロックは、結構良い肥料になるんだけどなあ。
「それは逆にありがたいです。浚ったものをそのまま道ばたに放置されても困りますので。通常、浚った汚泥は、スラムの端や塀の外にあるゴミ処理施設に運ぶまでが依頼内容なのです。」
なるほど。王都にはスラムがあるんだった。それでも結構遠いよね。
「ちなみに1日で何百メルほどできそうでしょうか?」
と逆質問された。
「そうですねえ。側溝の状態にもよりますからなんともいえませんが。たぶん…1日1本くらいのテンポですかねえ。」
と地図を見ながらつぶやくと
「え?1本、とは???」
「たとえばこのネヴィル・ストリートなら、外壁のところから、終点の城までで1本。朝2時間くらいを考えていますが…。遅いですか?」
「2時間!?…ほ、本当ですか?」
「はい。たぶん。…あー、もしかしてやり過ぎですか?管理局が支払えないとか??」
「いえ!支払いは絶対させます!だめでもギルドが立て替えますから!」
「そ、そうですか…。まあ、とにかく、あまり期待しないでお待ちください。ははは…。」
「はい!よろしくお願いいたします!!!」
深々とお辞儀をされた。よほど持て余していたんだろうな。
それならまあ、EとかFの人たちのお邪魔にはならないだろう。
一応、汚泥を浚うためのスコップとか手袋や長靴とか、大量の麻袋とかを受け取り、ささっとクリーンして亜空間に収納した。
懐かしいなあ。
ちらとシンハを見ると、僕からかなり離れたところにすでに避難していて、嫌そうな顔をしている。
きっと、美味いワイバーン肉と一緒にそれらを収納するのかと、またぞろ思っているに違いない。
パソコン風に言うと、ディレクトリもファイルも違うんだから、大丈夫なんだけどね。
ギルドを出るとシンハが、
『またアレをやるのか。臭いは遮断してくれよ。』
という。
「無理についてこなくてもいいんだよ。」
『何を言っている!俺はお前の用心棒だぞ!…ああ、お前の魔力に入っていればいいか。うむ。そうしよう。』
とぶつぶつ言い、勝手に結論を見いだして納得したようだった。
翌朝。朝5時。
今回は、時間指定は無かったのだけれど、人がわさわさ居たら邪魔だし、僕の魔術に無駄に驚かれたり、イチャモンをつけられたりするのもアレだから、早朝にすることにした。
まずは目視でネヴィル・ストリートを点検しつつ、城壁際まで行く。
確かにドブ臭い。今日は晴れているし、最近雨もほとんど降っていないから、あまり臭わないほうだけれども。
シンハは宣言どおり、僕の魔力に溶けている。
「では行きます!トレース!側溝の蓋オープン!クリーン・エト・汚泥ブロック化!!」
そう唱えると、両側の側溝がピカッと光り、約1キロメル先までトレースされた。そして蓋が音もなくふわりと一列にきれいに浮いて、汚泥も浮き上がる。余計なゴミは適当にクリーンされ、汚泥はブロック化されて側溝の脇に着地した。
貨幣や宝石など異物がある場合は、ブロック化からはじかれ、僕の足下に飛んできて集まった。
チャリンチャリンカチャカチャ…。
結構あるじゃんか。
それを収納し、ブロックは歩きながら回収。振り返って
「ウォーター・エト・ハイクリーン!ついでに側溝ヒール!」
これで石のカケも修理できて、できたてのようにきれいな側溝になった。
うん。満足。