507 合格発表!…あれ?
地球の日本では、7月5日がどうのと言っておりましたが…。皆様ご無事でしょうか…。
合格発表までの間、受験生全員が魔塔に滞在している訳ではない。
もともと王都住まいの人もいるし、知人宅や宿に滞在したり、人によっては町なかで1週間だけ働く人もいるからだろう。
それでもやはり魔塔内の食堂は混む。
けれど、それも空間魔法で食堂を広げ、座席も机と椅子を魔法で増やして対応できているようだ。
もちろん、まかないのおばさん達は、普通にアルバイトを増やすしかないけれど。
1週間の間に、何度かエレア女史を見かけた。
食堂とか図書館とか。
でも向こうから僕に声は掛けてこないので、僕も目が合ったら会釈するだけ。
案の定、彼女は誰ともつるまず、一人孤高を保っている感じ。
尻の軽い学生がへらへらと誘惑しようと傍に行っても、つんと無視。
しつこい奴にはぎろりと睨んでお終い。
ほんと、彼女に睨まれると、僕も恐いと思ったからね。
太っちょおじさんは見かけていない。
きっと、王都に家があるか、もしくは王都内の宿に泊まっているのだろう。
家族一緒に上京している場合は、さすがに家族は寮には泊まれないので、そうせざるを得ない。
僕は例外。内弟子だから。
痩せおじさんは見かけた。
やはり食堂と図書館で。
図書館では黙々となにかを読み、書き写していた。
勉強熱心だ。
食堂で会ったとき、僕がシンハたちを連れていたので、驚いたようだった。
あまり従魔連れはいないからね。
痩せおじさんはホレイショ・ランバルというそうだ。
話してみると、温和な人だった。
実家は南のランス地方で、雑貨屋兼魔道具屋をやっているそうだ。
まだ32才だって。婚約者と上京したらしい。
フィアンセは宿代を稼ぐため、王都で臨時のお針子のバイトをしているそうだ。
なんと王都で流行り続けているアラクネ製ストール(夏用)を、加工するお針子だって。
ライム商会の下請けの商会だそうだ。
アラクネ布の扱いができるなら、それなり魔力があるのだろう。
ホレイショさんはフィアンセと宿屋暮らしだが、発表まで許可を貰って図書館に出入りしている。
「魔塔に合格できたら、寮で一緒に暮らせると聞いたので。」
と照れながら言っていた。
左手の指輪が光っている。
らぶらぶなんですね。ごちそうさまです。
さて。
いよいよ発表の日がやってきた。
午後3時に正面の庭に掲示板が立てられ、貼り出される。
日本の合格発表とよく似ている。
僕はシンハとシルル、スーリアとともに、掲示板を見に行った。
掲示板が魔法で次々と建てられる。
番号順に建てられていく。
どうせ僕は番号最後だもんね。
周囲が
「あった!」
「合格した!」
と騒ぐのを横目で見つつ、1000番台が貼り出されるのを待つ。
1000番台は、合格者がなんと3名。
1002番、1003番、そして僕1004番。
つまりホレイショさん、エレア女史、そして僕だ!
ふとっちょさんだけが不合格だったようだ。
解答用紙、燃やしてたもんなぁ。
「あったよ!シンハ!合格した!」
『おう。おめでとう。』
「おめでとござましゅ!」
ぴっきゅう!
家族全員、それぞれ喜んでくれた。
『おほ。合格か。まあ俺のアルジだから当然だよな。』
と魔力の中からアルマンダル。
『だよねー。』
とアルス・ノトリアも相づちを打つ。
「(ふたりとも、ありがとねー。受験勉強、手伝ってくれてありがとね。)」
と一応お礼を言っておく。ほとんどアドバイスはもらわなかったが、一応古代魔法の発音の歴史で意見をもらったりしたからね。直接試験には出なかったけどさ。
人混みから抜け出し、木陰でシルルとはダンスみたいにして喜びあった。
ふと、視線を感じて振り向くと、師匠が居た。
「師匠!」
「おう。受かったな。おめでとう。」
「ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!」
「おう。で、さっそくお前たち、引っ越しな。一軒家、欲しいんだろ?」
「!良いんですか!?」
「もちろん。ただし。ちゃんと義務が伴うからな。覚悟しろよ。」
「?義務?ちゃんと勉強はしますよ。他になにかあるんですか?」
義務という話は前にも言われた。でもどんな?
なんか含みがあるなあ。
「ふふん。ほれ。これが関係書類だ。よーく読んで、義務をかみしめておけ。いいな。」
とにやり。
なんだろう。
僕に分厚い封筒を押しつけて、師匠は珍しく鼻歌なんぞ歌いながら、行ってしまった。
掲示板前では今もまだ歓喜の声が続いている。
僕達は少し離れた木陰のベンチに座り、師匠が置いて行った封筒をあけ、書類を開いた。
義務ってなんだろうね。
最初に魔塔長の署名入り賞状みたいな認定証だ。合格の証明書だな。
そう思ってうきうきしながらしっかり読む。
「…え?ええ!?」
僕は真面目にそれを読み、そして目を疑い、驚き、飛び上がるように立ち上がった。
「認定証
サキ・エル・ユグディオ殿
貴殿を、魔塔の教授として認める
大陸歴○○年○月○日
魔塔長 エルシニアス・オニキス・フォン・バーデンブラッド」
『なんだ?どうした?…!おい、お前、教授と書いてあるが。学生になるのではなかったのか!?』
「…が、学生になるつもりだったんだけど…。あーだから、記述問題、難しかったんだー。」
呆然とした。力が抜けてへたりとベンチに座り込む。
何故に?ドーシテ?
たぶん、1000番台は、教授試験だったのだ。
確かに、1000番台って、他の受験生から、番号が離れていたよね。
しかも、他の受験生より老けてた。エレアさんと僕以外は。
「義務って…こういうことか。学生を教えなくちゃいけないものね。」
と言いつつも、半分意識は上の空。
他の書類も、「教授心得」とか「学則」とか、「教授会日程」とか…。
「くそー。やられた。師匠に!」
僕は防音結界を張ってから
「師匠のバカヤロー!!」
と思いっきり叫ぶのだった。
サキ、師匠に嵌められましたネ。




