504 実技試験
順番はクジで決めたが、1番痩せおじ、2番太っちょ、3番美少女、4番僕。1番と2番が入れ替わっただけだった。
「い、いきます。」
痩せおじが、呪文をながながと唱える。
「イ・ハロンヌ。我が魔力をもって火を出現し、風を出現し、敵を打て!ファイアボール・エト・ウインド!」
なるほど。ファイアボールを風で運ぶのか。
だがそれって、魔力が多くないと、ひょろだまにならない?
と思っていると、案の定、途中までは結構良かったが、途中で失速した。
的には一応届いたが、うがつほどでもない。
「3点!」
的係の先生が、的の焦げ方を見て言った。
次は、ファイアランスを風に乗せた。
今度は前よりいい。
「7点!」
おお、良かった良かった。
僕と太っちょはつい拍手した。
3つめも、ファイアランスを暴風に乗せた。
今度はバシッ!と音がしたが
「5点!」
ああ、コントロールがダメか。
「もう一回いいですよね。」
ほう。頑張るな。
すると痩せおじは1つめの的に戻り、再度ファイアランスと暴風でバシッと決めた。
的の中央だった。
「10点!」
「おお!」
美少女以外は、立ち会いの先生も拍手した。
次は太っちょおじさん。
「わしは水属性の魔術師だ。同じ属性の重ねがけでもいいんじゃろ?」
「いいですよ。」
と立ち会いの先生。
「ではいくぞ。リハロンネセケット。水しぶきよ、洪水となり、敵を穿て!ウォータースプラッシュ、フラッディウム!」
ドドォ!と中空にまず噴水のようなスプラッシュが現れ、それが洪水の渦となり、そのままドドドォオオ!と的に向かっていき、3つ同時に押し倒した!
「おお!」
ぱちぱちぱち!
皆が拍手する。
「30点!」
最高得点だな。
「的はもう一回立ててもらえんのか?」
「倒せば終わりです。」
「残念。」
ふふ。もっと点数が欲しかったのか。
確かに、もっと的があれば点数は出たな。
でも結構魔力、使ってるよ。たぶん、持っている魔力の半分以上使ってるな。肩で息しているし。
3人目はエルフの美少女。
リィンとは鳴らなかったから、普通のエルフかハーフエルフだ。
「行きます。ウインドバレット・エト・スプラッシュ!」
ズガン!ズガン!ズガン!と3発。3つの的の中央へ。
「おお!」
「凄い!無詠唱だ。」
確かに。
「30点!」
しかしそれで終わりでは無かった。
「我願う、業火と暴風にて敵を討たん!ヘル・ファイア・エト・ストーム!」
え、ちょっと。ヘル使うの!?負けず嫌いだなあ。
と魔法から身を守っていると、
ズガァン!ゴォォォ…!
と派手な音と共に、3つの的を燃やし尽くした。
「30点!合計60点!!」
「おお!」
ぱちぱちぱち。
僕が考えていたことを、目の前でやられちゃった。
4回でやるなら、こうだよね、と思っていたんだが。
仕方ない。とっておきを披露しちゃおう。
「では、行きます。ファイアボールグランデ・エト・ウィンド。エト・ヒール!」
「え?ヒール!?」
とエルフちゃんが驚く。
そして、「2種以上」だから、3種使っても言い訳で。
僕が打った巨大ファイアボールは風に乗り、相当な速度で同時に3つの的を飲み込み、見事灰燼にしたが、次の瞬間にはヒールで元通り。これで30点のはず。そして、
「ウォータースプラッシュ・エト・ウィンド。エト・ヒール!」
またしても水と風で弾き飛ばした3つの的を、ヒールで修理。また30点のはず。
3つめは
「エリア・アースボール・エト・ウィンド。エト・ヒール!」
またしても風に乗せた石つぶてで壊した的をヒールで修復。30点。
最後は
「プラズマ・エト・ウォータースプラッシュ!」
これで完全に軸まで破壊尽くした。
バリバリバリバシャアン!!
轟音と共に、的は発火し、灰燼に帰した。
轟音がこだまし、雷により発火し、パチパチと燃える音がするばかり…。
30点。合計で120点のはずだぜい。
だが。
奇妙な静寂があたりを包む…。
「あのー。点数くださーい。」
と僕が言うと、的係の先生が
「ひ、ひゃくにじゅってん!!」
と声をひっくり返して言った。
「おおおお!」
ぱちぱちぱち、とようやく拍手をいただけた。
ぶふっ、あははは!
と高笑いが聞こえた。
振り返ると、魔塔長と師匠が、戸口に立っていた。
観戦していたらしい。
笑い声は魔塔長だ。
師匠は苦虫を潰したような、複雑な顔をしていた。
魔塔長はまだ笑っていて、隣の師匠をバシバシ叩いている。
「見たか?おい、あれがお前の弟子じゃぞ!ヒールで的を復元しおった。あはははは!」
ヒールがツボったのか、笑い続けていた。
「た、叩かないでくれ。」
と師匠がぶつぶつ言いながら、魔塔長の手をしっしと払っている。
「コ、コホン。い、以上で実技を終了します!面接は2階のB講義室で行います!受ける者は一緒に来るように!」
メガネの担当教官が、そう言うと、魔塔長たちのいるのと反対の扉目指して歩き始めた。
僕は此処で終了なので、師匠のいるほうへ行こうかとも思ったが、魔塔長も居るので、一礼だけして、とりあえず教官を追った。
面接免除なので、廊下に出たあと、僕は曲がり角でこっそり列から離脱。
ふう。終わったぁ、と思い、部屋に帰ろうと階段を一人降りる。
すると
「とんでもないのは噂通りね。」
と後ろから声が聞こえた。
振り返ると、あのエルフの子だった。




