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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第九章 司書たちのこと&魔塔受験編
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501 心臓と保護膜の作成 そしてヘクトルの目覚め

考えてみると、特殊鋼は秘匿すべき案件なのだろうな。

製作工程を見たとしても、僕のように魔力たっぷりな奴しか作れないし、材料調達も無理なのだが。

民間の工房を借りたのは浅慮だったかもしれない。

それなら時間はかかるけれど、魔塔に許可をもらって、鍛冶工房を無理矢理作って、そこでやったほうがよかったのかも。

もう遅いけど。


「師匠。」

帰ろうとする師匠を呼び止めた。防音魔法を使う。

「工房借りたの、不味かったですか?」

「うん?ああ、いや、魔塔には鍛冶場がないし、仕方が無い。ただ、お前がやっている作業はあまりに特殊だからな。親方には職人連中も含めて、口止めをお願いしたんだ。」

「すみませんでした。勝手に民間工房をお借りしたりして。」

「大丈夫だ。鍛冶職人は口が堅いものだ。鍛冶に関することは秘伝が多いからな。それに、見ても再現はお前以外にはできんだろう。魔力の関係でな。」

「…。」

「とにかくなるべく早く仕上げてくれ。」

「わかりました。」

それ以降、他の職人さんたちだけでなく、親方さえもが僕の作業をほとんど覗きに来なくなった。


司書たちの心臓は、中に魔石を格納する部屋だ。血液に相当するのは魔力水。その循環も魔力で行っている。だから鼓動はない。魔石の格納容器として密閉度が大切だが、それさえ魔石の魔力で密閉力も補っている。


球体ではなく、楕円形の卵形をしている。鋳物ではなく、ミスリルの板を打ち延ばして作り、魔力で溶接している。そのため、見た目では魔石を入れる扉部分以外、溶接痕も見えない。

魔石を入れる入口は別に作り、スライドさせて開閉する。血管のように魔力水が通る管を複数、心臓に繋ぎ、魔力で溶接。中に魔力水を充填したら、扉を閉めてここも魔力で溶接すれば完了となる。

なお、扉部分は魔石の魔力切れや故障の際には開閉するので、ここだけは溶接痕がわかるようになっている。

心臓は、形はシンプルだが、スライドする扉や、管を通すため複数の大きさの異なる穴も開けねばならず、製作にはそれなりに手間がかかった。


工房では3日間のうち、保護膜用の、混合鋼(金剛鋼)作成に半分の1日半を費やした。それから心臓はミスリルだけで作る。ミスリルの板金から1個目の心臓を作るので1日半使った。

大きさは、一番大きいタイプ。

次に目覚めさせる予定のヘクトール用だ。


微調整は必要だろうが、これでなんとかヘクトール用の心臓と、全員分の保護膜の材料はできた。保護膜用の混合鋼は、あとは各司書に合わせて切って調整すればいい。


「ふむ。もうできただって?とんでもない奴だな。」

4日目に成果物を持っていくと、師匠が呆れたように混合鋼の板を眺めながら言った。

「仕上げはこれからですよ。混合鋼はそれぞれに合わせて切って仕上げないといけないので。」


保護膜はラグビーボールを縦に4等分したような、カーブのある板4枚から成る。要するにギンナンのような形のカーブした保護膜の中に、楕円形のミスリル製の心臓があって、さらにその中に無属性の魔石を納めるようになっている。保護膜は接着ではなく、ガイドのミスリル製の細い柱に沿って、差し込む形式。

ただし、個体の中には、混合鋼を嵌める柱部分もねじ曲げられたり切り取られていたりしているので、そこも修復や新調が必要だった。


案の定、次に目覚めさせる予定のヘクトールの心臓は、乱暴に取り出されていたため、各管をヒールで直しつつ心臓につなぎ、保護膜のちぎれた柱部分も直しながらの作業が必要だった。

中に入れる魔石は、ちゃんと師匠が入手してくれていて、すぐに心臓内に納めることができた。そのため、時間のロスなく作業できたのは、幸いだった。


ようやくヘクトールの心臓と保護膜が無事取り付け完了となったのは、試験の前日だった。

形や腕の損傷は、今回は前もってヒールで直しておいた。

魔力水は師匠が準備した。それを人間の静脈注射のように腕から注入し、心臓を魔力水で満たす。

「起動しますね。師匠、魔石に魔力を。僕も一緒にいれますので。」

「おう。」

石が大きいので、それなりに注入する魔力も大きいからだ。

「3、2、1、魔力注入開始!」


ウィーン、ヴヴヴヴ…とヘクトールの体全体が振動し、起動が始まった。

「うっく。まだか!」

「もう少しです、師匠!…注入停止!満タンです!」

「ふう。相当持っていかれたぞ。」

「仕方ありません。ヘクトールは大きいので。はい、栄養ドリンク。」

「うむ…!美味いな!む!?これは!エリク」

「わーわー!栄養ドリンクですから!」

「お、おう。」


見守っていたのはウノさんたち3名の司書だけだが、僕は師匠の言葉を遮った。余計な情報をウノさんたちに記録されたくなかっただけだ。


ほどなく。

ぱちっとヘクトールは目を開き、むくっと上半身を起こした。

「ヘクトール!」

「ウノ。」

「よかった。目覚めたのですね。」

ウノはヘクトールの大きな体に白いガウンを着せかけながら言った。

「長いこと寝ていたような気がするが。」

「ええ。貴方が休眠してから、38年6ヶ月と7日、16時間24分が過ぎました。目覚めてくれて良かったです。」

とウノさん。


「こちらの方々ウォルフ・ランゲルス先生と、そのお弟子さんのサキ・エル・ユグディオ名誉子爵様が、貴方の失われた心臓と魔石、そして保護膜を、作ってくださったのです。」

とウノさんがヘクトールに僕達を紹介した。

「ありがとうございます。」

とヘクトール。

「不具合はありませんか?腕とか肩とかも。」

「…大丈夫のようです。」

肩や腕を回したり、飛び跳ねてみたりして、ヘクトールが言った。

「良かった。」

ヘクトールが立ち上がると、2メル(メートル)40セントー(センチメートル)はある大男だった。

「心から感謝申し上げます。」

その大男が、僕と師匠に深々と頭を下げるのだった。


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