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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第九章 司書たちのこと&魔塔受験編
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497 マッド親方の鍛冶工房

僕は覚悟を決めてドアを開ける。

リンロンといつものようにベルが鳴…

「もう来るな!」

と怒鳴り声。

「す、すいません!」

たじ、と扉に張り付く。

「お?おう。なんでえ。兄ちゃん、怒鳴って悪かったな。」

おそるおそる店内へ入る。

店主は、ゲンさんと同じくドワーフだ。


「お、お邪魔しますデス。」

「おう。客にもならねえヘボ冒険者を追い返したところでな。そいつらがまた来たのかと。怒鳴って悪かったな。」

「あっはい。あの…、マッド・マッカーズさん、デスヨネ?」

「おう。」

「こほん。僕はサキ・ユグディオと言います。ヴィルドのゲン師匠の紹介で、此処を尋ねるように言われまして。」

「おう!ゲンか!懐かしい名前じゃねえか。紹介?珍しいことをするもんだな、ゲンのヤロウが誰かを俺に紹介するなんて!」

と上機嫌。


「そんなとこ突っ立ってないで。入れ入れ!」

「はい!失礼しますです!」

店内はゲンさんのところより広いので、シンハも一緒に入る。

「で、ゲンは元気…ひっ!に、にいちゃん、そ、そいつ、いや、そのお方はふぇん…。」

あー、やっぱりすぐ解っちゃったか。

ドワーフあるあるなんだよね。

もちろん、店内には僕らのほかは居ない。


「はい。フェンリルのシンハです。僕の相棒です。でも、フェンリルであることは、どうか内密にお願いします。」

「わ、わかった。ど、どうぞ、こちらへ。」

急に態度が良くなったよ。

シンハの威力、絶大だねえ。


椅子を勧められ、まずは手土産に、ヴィルド産の強いお酒と、自家製のウイスキーを出す。これは森の奥で、妖精たちと一緒に試しに作ってみたものだ。

とたんにマッド親方の機嫌が良くなった。やはりドワーフには酒だよね。

それからゲンさんからの紹介状を渡す。


「王都にしばらくいることになりまして。まずはご挨拶をとのんびり思っていたのですが、急に急ぎの鍛冶仕事が入りました。

単刀直入に申しますと、鍛冶場の一角をお借りできないか、ご相談に伺いました。」

「ほう。俺に打ってくれではなく、自分で打ちたいと?」

またちょっと不機嫌になる。

そうだよね。


僕は魔剣を背中(の亜空間収納)から取りだし、10センチくらいも抜いて見せた。

「これと同じ材質の特殊な板を作らないといけないのです。もしマッドさんが作ってくださるのであれば」

と言い終わらぬうちに、マッドさんはさっと僕の剣を取り、すらりと抜いた。

「………。これはゲンが打ったのか?」

「いいえ。僕です。」

「な、んだと!?」

「試行錯誤でやっとできたんです。また打てるかどうかわかりません。でも、その模様の板がねを何枚も作らないといけなくて。」

「………。」


黙って剣をしばらく眺め、それからゆっくり丁寧に鞘に納め、僕に返して寄越した。

そして、はあーっと大きくため息をつく。

「なるほどなあ。ゲンの奴が、お前さんを「師匠」と呼んでいるという意味がわかった。」

「え!?そんな。僕がゲンさんを師匠と呼んでいるんですよ。」

そんなことが書いてあったの!?


「いや、ゲンの気持ちは痛いほどよくわかる。お前さんのソレを見せられちゃあ、ゲンも心が折れるってもんだ。」

えー、僕、ゲンさんの心、折っちゃってたの!?

「わかった。好きなだけ俺んとこの工房、使いな。」

「!ありがとうございます!」

「ただし。俺もその鋼には興味がある。仕事を見させてもらっても良いか?」

「もちろんです!むしろ、良くないところを指摘してほしいです!」

「よっしゃ!じゃあさっそく、仕事場に案内するぜ。」


マッドさんの工房は結構大きかった。

5人ほど職人が居た。2人がドワーフ。一人が人間族。あとの二人は熊獣人と狐獣人だった。

「予備の炉が空いている。あそこを使いな。石炭とコークスは、使った分だけ支払ってもらうことになるが、大丈夫か?」

「はい。此処の借り賃も材料費も、魔塔が払ってくれるそうです。」

「魔塔!?お前さん、魔塔の所属なのか!?」

「数日前からですが。なにか?」

「むむ。いや。最近、魔塔の連中の質が落ちたとかで、いい評判を聞かねえからな。」

ああ、ユーゲント辺境伯領の壁の件で、ドワーフには迷惑をかけたようだからな。


「ユーゲント辺境伯領の壁のことですかね。」

「ああ。」

「魔塔長が不在で、人選を間違えたとか。尻拭いに魔塔長自ら動いて、大変だったようですよ。」

「そんなことじゃねえかと思ったぜ。エルシーの嬢ちゃんが、そんなドジするはずはねえと思ってたんだよ。」

とまた機嫌が良くなった。

エルシーの嬢ちゃん、ね。


「魔塔長とお知り合いですか?」

「まあ、お互い長生きだからな。いろんなところで遭遇してるって訳よ。」

「なるほど。」


などと話していると、2人のドワーフ職人が、動かずにびっくり顔で立っている。

ああ、シンハに驚いたのね。

「ほら、仕事しろ!しごと!火から出した刃物前にして、手を止める奴があるか!」

マッド親方に怒鳴られて、はっとして慌ててまた動き出す。

「(ほんと、シンハはドワーフには有名だねえ。)」

『う、うるさい。』

ふふ。


工房に備え付けの石炭もコークスも上等なもので、普通に剣を打つには申し分ないものだった。だが、やはり含まれている魔素が少ない。

これではおそらく失敗する。

仕方ない。自前のを使うか。


僕が魔剣を作った時は、燃料の石炭も剣の素材の鉄鋼石などもすべて森産。燃料のコークスに至っては、レアなコークスゴーレムが素材だったからなあ。

今日のところは、試しに炉に火を入れてみるので、此処のも使わせて貰うか。


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