496 受験の準備&鍛冶屋探し
「師匠、そういえば、ヒールで物を直すのって、普通じゃないんですか?」
「まったくお前は。質問までとんでもねえな。
ヒールは人体、いや、生命体の機能を元に戻すものだ。普通、物体には「リペア」だな。」
「ああ、そうか。リペアね。うーん。でもリペアだと、以前の状態以上には、良くなりそうにない感じがするんですが。」
「まあリペアだからな。ヒールは違うのか?」
「はい。ヒールは、以前の状態というより、その物の最も良い状態に戻す、という感じですかね。」
「なるほど…。お前の実力はだいたいわかった。実技、終了。」
「えーもうですか?」
つまんねえよう。
師匠は急に話題を変えた。
「こほん。それより、司書たちの心臓と保護膜をどうにかせんとならん。お前は何をどこまでできそうだ?」
確かに。その問題があったな。
「そうですねえ。キングスライムの核は、あるんでしょうか。」
「それは誰かに狩らせるなり、買わせるなりしよう。学園が金をだす。たしかお前は鍛冶もできるんだったな。」
「はい。」
「材料はあるのか?金は魔塔が出す。もし持っているなら、材料費、手間賃共に請求できるぞ。」
「ありがとうございます。素材は、手持ちのミスリルとアダマンタイトがあります。でもそれより、鍛冶の設備ですね。魔塔にはありますか?」
「さすがに魔塔内に鍛冶設備はないな。」
「では市井の鍛冶師の鍛冶場をお借りする感じですかね。」
「普通なら、鍛冶屋に注文して作って貰うのだが。あの金属は難しいだろうから、お前さんが作るしかないようだな。」
「実はヴィルドの鍛冶の師匠から、紹介されている職人がいます。その鍛冶場の一角をお借りできないか、交渉してみます。」
「そうか。では俺は魔塔長に言って、無属性のキングスライムの核を、入手する算段をするとしよう。」
「お願いします。」
ということで、師匠と手分けして、司書たちのために、心臓と保護膜作成をすることとなった。
「あのー。ところで、受験勉強は?」
と聞くと、
「魔法陣の復習でもしておけ。」
と言われてお終い。
「油断せず、かつ答案用紙に自分の名前をちゃんと書くことを忘れなければ、受かるだろう。まあ、試験問題を楽しみにしておけ。」
だってさ。ちょっと酷くない?
「せめて過去問くらい、教えてくださいよう。」
「まあ、見ても無駄だとは思うが。…ほれ。これでも見とけ。」
と言って、師匠は自分の亜空間収納からぽいっと1冊取りだした。
『魔塔試験過去問題集』。
ちゃんとあるじゃん!虎の巻が。
部屋に戻って、過去問集を眺める。
確かに、こりゃ中学生レベルだな。
大陸の歴史くらいは読んでおこう。
それから、総務で買ってきた『バーデンブラッド版』の教則本上中下巻を眺める。
たしかに、『シュタルク版』より魔術理論が発達していて、文章も明快だし、古代魔法語も正確に記されている。
そして、「特論」という項目がいろいろあって、伝書鳥もあったし、そのほか、新しい発明品についても紹介されていた。
ふむ。この教則本は、過去問よりかなり有益そうだ。
おっと、夜更かしは不味い。明日は鍛冶屋探しだった。
おやすみなさい。
翌日。
さっそく鍛冶屋探しをする。
ゲン師匠から貰った紹介状と、うろ覚えながら一生懸命書いてくれた手書きの地図を頼りに、職人街へ。
今日はスーリアもシルルも魔力に溶けて居る。
シルルは、王都の街を見たいようで、魔力内からずっと外を眺めている。
スーリアも時々は魔力から出して、シンハの上に乗って街を眺めている。
王都はつぶつぶの精霊達はヴィルドより少なそうだ。
だが時折、窓辺の花とかに群がっていたりもする。
居るところが少し偏っている感じで、たくさん居る家と、まったく精霊が寄りつかず、どよんとしている家とが混在している。
普通の都会は、こうなのだろうな。
ヴィルドはちょっと歩くと、路地にさえ精霊の気配があった。
風が吹くと、それがふよふよ飛んでいる、という感じ。
たぶん、コーネリア様ががんばって、住みよい街になるよう努力してきたからだろう。
スラムでさえ、あまり黒い靄は感じられなかった。
だが王都は違う。
むしろ、精霊がいる家のほうが少ない。
黒い靄は、探さずとも至る所にある。
『側溝清掃は早いほうがいいようだな。』
とシンハがつぶやいた。
「そうだね…。」
またあれかー。
街が大きいだけに、何日かかることやら。
僕はため息をついた。
「魔塔、合格したらね。」
『そうだな。』
そんなことを話ながら歩いて行くと、ようやくトンテンカン、という音が聞こえてきた。
「やっと職人街だ。」
頼りない地図を頼りに、脇道へと入る。
「えーと、確かこのあたり…」
「馬鹿野郎!出て行け!」
「ふん!二度と来るかよ!こんな店!」
ガァン!と何かを蹴っ飛ばし、プリプリ怒った冒険者達が目の前を通り過ぎて行った。
「まったく!ナニサマだと思ってやがる。たかが鍛冶師のくせに。」
などと悪態をつきながら。
その店を見ると
「オリジナル武器武具・マッカーズ鍛冶店」
とある。
「あー、此処だわ。」
シンハとつい目配せ。
『…。』
だってさあ。ゲンさんと同じで、きっとガンコな鍛冶師だってわかるもの。
今は特に、機嫌が悪いはずだし。
「こほん。入るよ。」
『ああ。』




