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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
49/529

49 アンデッド。そしてついにサトウキビ!

驚きの海鮮料理から一夜明けた翌日。

昼休憩後、腹ごなしに走っていた時の事だった。

『ん?死人の臭いがする。』

シンハが立ち止まる。

『こんな奥地までさまよいこんできていたか。』


目の前にあらわれたのは、アンデッドだった。

どうやら元人間で、いわゆるゾンビだ。

ぼろぼろだがいでたちからすると、きっとかつては冒険者だろう。可哀相に。

肉はこそげ落ち、骨が見えているが、それでもふらふらと歩いてくる。

武器は木の棒だけ。

もう長剣もどこかでなくしたのだろう。

僕は彼を天に帰してあげたいと思った。


「光魔法なら、成仏するよね?」

『ああ。お前なら確実にできるだろう。』

「…。」

フォォォォ…!

こちらに気づいて木の棒を振り上げ、攻撃せんと近づいてくるゾンビ。

まだ15メル以上の距離はある。

人殺しの最初はゾンビか…。

さすがにちょっとくるものがある。でも、成仏させてあげたいとも思う。

「…やってみる。」

『気をつけろよ。』

「うん。」


僕は僕を敵と認識して襲ってくるゾンビに、光魔法を込めた矢を弓につがえ、意を決して放った。

矢はぐっさりと見事にアンデッドの心臓に到達した。すると。

フォォォォ!

と叫び声をあげながら、ゾンビは倒れながら光の粒となり、風化して消えていった。


その様子を見て、

『ふむ。お前はユグディアルの申し子だからだな。』

とシンハは不思議なことを言う。

「どういうこと?」

『アンデッドは光魔法でしか倒せない。さっきのように、光魔法で倒されて、ようやく魂は光となり、正しく地脈へと還ることができるのだ。

だが、倒されてただちに光の粒になったり、むくろがただちに砂になるのは、かなり強力な光魔法だということだ。』

「そうなの?特にすっごく強く念じた訳じゃないよ。かるく光魔法を矢に流しただけなんだけど。」

『お前はユグディアルの申し子だからな。軽く流したつもりでも、かなりの光属性だったのだろう。』

「ふうん。なるほどね。そういうものか。」

砂と化したもと人間の残骸ともいうべきものに向かって、静かに合掌する。

安らかにと。


それにしても、人型の殺しの最初が本当の人間ではなくて良かったというべきか。

はじめて出会った人間がゾンビだったこともなんとも地味にショックだ。

僕は砂となって消えてしまったゾンビの、ぼろぼろの服などをサーチした。彼が誰なのかを示すものは、イニシャルなのか二文字彫られた銀の指輪がひとつあっただけだ。もちろん、冒険者カードみたいなものもない。

指輪はいずれ人里に行った時に、冒険者ギルドに行ったら届けようと、亜空間収納に入れた。

そしてかつて人であった砂も、ぼろぼろの衣服もすべて燃やし、わずかな灰を木の根元に埋め、石を墓標とし、再度、安らかにと祈った。


祈りのあと、ふと思いついてシンハに尋ねた。

「そう言えば、シンハが倒した魔獣の体はアンデッドにならないって、いつか言っていたよね、どうして?」

理由を聞いていなかった。

『どうしてといわれてもな。たぶん俺が神獣だからだろう。

俺が爪や牙で倒した獣たちの魂は、正しく光の粒になって昇天し、地脈に還る。

残ったむくろにも長いこと神性が残るようで、アンデッド化は避けられるのだ。そう母親から聞いている。フェンリルはそういうものだと。

骸はたいてい俺が食ってしまうがな。残っても他の魔獣がすぐに食ってしまう。それがこの森だ。』

「なるほどね。」

『たぶん、お前がほふった獣たちも、仮に放置してもアンデッドにはならないと思うぞ。』

「ん?それは光魔法を使わなくともってこと?」

『ああ。お前にはユグディアルの恩寵がある。お前が倒した獲物の切り口からは、ユグディアルの気配がする。そういうものは、アンデッドなどにはならん。』

「ふうん。それなら安心だね。僕の知識では、倒した魔獣を魔素の濃いところに放置すると、アンデッドになる確率が上がると思っていたから。もっとも、倒した獲物は、今のところほとんど食料になっているから、問題ないけどね。骨とか捨てるのが気楽になった。」

『魔素が濃いからといって、すべてがアンデッドになるわけではない。現世に未練があったり怨念があったりした場合だとも言われている。運が悪ければという程度だ。気にするな。それより、骨は基本的に俺が食べる。捨てるんじゃないぞ。』

「ふふ。はいはい。」

ほんと、シンハといると、獲物は捨てるところがない。


僕たちはまた旅に戻った。シンハが珍しく、自分から乗せてくれると言ったので、今はお言葉に甘えて乗っけてもらっている。きっと、たとえゾンビとはいえ、人の形をしたものを僕が初めて倒したので、気遣ってくれたのだと思う。


「此処から人間のいる町は遠いの?」

『ああ。かなり遠い。ゾンビでなければ此処までは来れまい。』

「町のほうへは何故行かなかったんだろう。」

『さあな。何かを探していたのかもしれん。』

「何を?」

『たとえば生きていた時にうけたクエストの獲物探しとか。宝探しとか。あるいは森の奥へ向かって逃げた敵を追っていたとか。』

「なるほど。いろいろ理由は考えられるか…。これから行くところは、人間の町に近いの?」

『いいや。遠いな。』

「そう。」

『…』

「…」

『人間に会いたいか。』

「そりゃまあね。この世界ではじめて会った人間っぽいのが、あのゾンビだもの。ちょっと複雑な心境だよ。」

『そうだな。確かに。』

「まあ、余計なことまでしゃべってなおかつどやしつけてくる神獣がいるから、話し相手は間に合ってるけどね。」

『こいつめ。振り落とすぞ。』

「はは。かんべん。」

シンハの背に乗っている僕は、わざとしっかりとシンハにしがみついた。


それから翌々日。

僕たちはようやくサトウキビのたくさん生えている原っぱについた。

「うわー!サトウキビ畑だー。ざわわ、ざわわ…。」

僕は昔聞いた歌を歌う。


「これ、ぜーんぶっ刈ってもいいよねっ!」

『少しは残せよ。生えなくなる。』

「判ってるって!向こうの畑でも栽培しよう!」

試しに茎を剥いてかじってみる。みずみずしくて、覚悟していたよりずっと青臭くはなく、確かにかなり甘い。地球ではかじったことどころか、現物も見てないし触れたことがないから、味の比較はできないが、これは地球のものより甘味が強いのではないだろうか。


僕はかなりの量を根っこごと採取し、残りは根元から刈り取った。

夕方、ほとんど丸坊主になった草原で、僕は鍋を取り出し、適当に切ったサトウキビの茎を煮てみた。魔力を加えて時短。蒸発を早める。ぎゅっと絞ってできた液を舐めてみると、うん!甘い!青臭くもない!

これをさらにアクやゴミを取り除いて煮詰める。

最後は火から降ろして魔力で水分を蒸発。底には茶色い塊ができた。

塊をかじる。

「できた!黒砂糖!」

『どれ。』

シンハにも食わせる。

『うん。甘いな。』

「ふふ。これが砂糖の原料だよ。もっと精製すれば白くなる。わーい!これでもっと美味いケーキができるぞ!プリンも本当のカラメルシロップができる!わーい!」


僕たちは大量にサトウキビを収穫して帰路についた。

途中、また虫型魔物の多いエリアを通ったので、マンティスとタルランテルラを今後の食料のために数匹ずつ狩った。

それから、ジャイロアントというのにも出くわした。

これはアリの魔物で、タルランテルラと同じくらいでかい。

蟻酸はミスリルとアダマンタイト以外、金属ならなんでも溶かすらしく、厄介だが、これも金属加工には有益な資源だ。


それとなんといっても外殻が硬くて丈夫なので、冒険者たちには防具の素材として喜ばれるという。

たいてい群れで行動するが、30匹程度と遭遇。これは群れとしては少ない方だそうだ。シンハになるべく一人で倒してみろと課題をだされたので、大体は連続かまいたちで頭を落として対応した。あとは体内に水魔法をぶち込みそれを魔力で沸騰させて破裂させるやり方とか、感電させるとか、凍らせてみるとか、竜巻で複数舞い上げて空から落として殺すとか、いろいろやってみた。

『ジャイロアントの群れを短時間で単独で倒せるようになれば、冒険者の初心者としては合格だな。』

とシンハは言った。

「ふうん。じゃあ、結構この世界の冒険者って強いんだね。僕は魔力頼みでなんとか倒したけどさ、これ、剣一本で倒すとなったら、蟻酸もあるし、相当やばい気がする。」

『ご、ごほん。そ、そうかもしれんな。』

なんかごまかしてる?まあいいか。


ジャイロアントは残念ながら食べるところがないとのこと。魔核と蟻酸と大量の外殻が手に入ったから、良しとしよう。

シンハが戦いたくなかったわけがわかった。外殻硬いし、爪とかキバとか痛みそうだもの。第一、食べられないとわかると、モチベーション下がるよね。

おっと、どうやら僕も、思考回路がシンハに似て食いしん坊になってきているようだ。少し気を付けよう。


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