489 オートマタたち
師匠と共に図書館へ。
シルルは、空間拡張した厨房で、食器を棚に並べたりしたいそうだ。なのでお留守番。
スーリアは一緒に来たいようなので、シンハといっしょに連れてきた。
僕の肩に留まっている。
撫でてあげると、うれしげに
「クフン」と啼いてシッポを振った。
「(ママ、ママ)」と甘えて僕に頬ずりしてくる。かわいい。
「おとなしくしててね。図書館に行くから。」
と撫でると、きゃう。と返事した。まじ、良い子だ。
師匠に司書たちが危機だと報告したあと、師匠は一人で図書館に来ている。
師匠の話では、僕のヒールでウノさんがベストコンディションで動けるようになったため、「目の前の課題」(ドリーセット侯爵家のこと)が終わってから、本格的な状況把握と修理にとりかかることで、ウノさんとも魔塔長とも話はついたらしい。
「あ、そういえば、僕、まだ魔塔長に正式にご挨拶していないんですが。」
「編入試験に合格してからでいいだろう。来週には試験だからな。」
「!ちょ、ちょっと待ってください。それ、初耳ですが。来週!?」
「うん?言ってなかったか?まあ、気にするな。」
「いやいや、気にしますよ。まだなんの試験準備もしていないんですから。」
「大丈夫だ。過去問をちょいちょいとやっておけば、お前なら合格だろう。」
そんなあ。
「あとで過去問、選んでやるから。昼間は司書たちの修理に付き合え。いいな。」
とほほ。
「はあい。」
落ちたらどうしよう。
「落ちたら拾ってくださいよね。」
「さて。どうするかなあ.」
「うう。サディスト。」
「それはなんだ?褒め言葉には聞こえなかったが。」
「なんでもありません!」
「地球語だろ?教えろよ。」
「ノーコメント。」
「それは解るぞ。回答拒否、というやつだな。」
久々の地球語なのか、嬉々として会話を楽しむ師匠。
フランク王国出身では、まだサド侯爵もいなかった、はずだ。
だがもう知らん。地球語講座には付き合わないぞ。
僕は口をつぐんだ。
図書館入り口でスーリアをシンハの背に預けた。
扉を開けた師匠に続いて入ると、ウノさんが居た。
「おはようございます。」
「ランゲルス様。サキ様。おはようございます。ようこそ。」
と笑顔でお辞儀された。
僕のことは名前で呼んで貰うように言ってある。
「おはよう。」
と師匠。
「ようやく「目の前の課題」が終わってね。きみたちの修理にかかれることになった。先日ざっとみせてもらったが、再度細かく他の子たちの状況を把握しておきたい。」
「ご配慮ありがとうございます。魔塔長も来てくださいました。ランゲルス様が報告してくださったそうで。ありがとうございます。」
「いや。で、魔塔長は、何体か、治していかれたのか?」
「いいえ。会議の合間に来てくださったので。やはり部品がすぐには調達できないそうです。ですが、今のところ問題はありません。先日サキ様にメンテナンスしていただきましたので、私はとても調子が良いです。当分私ひとりで大丈夫です。サキ様、ありがとうございました。」
と優雅にお辞儀された。
「いえいえ。少しヒールしただけです。本来ならオーバーホールすべきなんでしょうが。時間が取れず、すみません。」
「オーバーホールは不要です。サキ様のヒールで、すべてが良好です。」
ほう。自己解析した結果だろうな。
「他の子たちのところに案内してもらおうか。」
「はい。ランゲルス様とサキ様は、私の権限で、第一位許可者に登録しておりますので、いつでもお申し付けください。」
「む?ということは、魔塔長が、君たちの「家」に行くのは制限を掛けたと言うことだね?」
「はい。でもお二人のことは、魔塔長にも確認しております。魔塔長と同じく第一位許可者になっております。」
「そうか。」
これ以上、彼らの部品を勝手に触られたり持ち出されたりしないよう、魔塔長が手を打ったということだ。
おそらくこれまでは、「教授」なら彼らがオートマタであることも知っていて、かつ地下に行くことができたのかもしれない。
でも、あんなことがあったからな。
師匠と僕を特別に許可者としたのは、魔塔長に繋いだ師匠と、ヒールしてあげた僕を、ウノさんが信頼してくれたということだろう。というか、僕も師匠も世界樹の使徒じゃん!たぶんウノさんはそれもあって、僕達を第一位許可者としたんだな。そう考えると、確かに理由は簡単だった。
「人間は、たとえ教授でも全面的に信用してはいけないということを、私も学びました。悲しいことですが。」
「クラークのことか。君に落ち度はない。そんなにしょげるな。」
「お優しいお言葉、ありがとうございます。」
おそらく、魔塔長から、ユージン・クラーク教授が盗んだのかもと聞かされたのだろう。
それでショックを受けるなんて。なんと人間的なオートマタだろう。
製作者は古代の賢者だと聞いたが。
それにしても素晴らしいオートマタだ!
そんな感想を抱きつつ地下へと移動すると、もうあのオートマタたちの「家」だった。
シンハと、眠そうなスーリアを魔力に入れる。
ウノさんはそれには驚きもせず、にこっと笑っただけだった。
従魔が魔力に溶けることができると、知っているのだろう。
地下では、先日と変わらず、司書たちがカプセルの中で機能を停止して眠って居た。
室内は、こおーっと静かに換気用ファンが回っている音がするだけだ。
もちろん、電気ではなく魔石の魔力で動いているのだが。
一体一体、状況を確認し、師匠が不具合箇所を口述し、僕がメモをとる。それから念写で写真も撮った。
そうやって、一体ずつの「カルテ」を作っていった。
 




