482 御礼の品と治療のオマケ
「面白いでしょう?『シェイリルの首飾り』。別名、『呪われた首飾り』ともいうのよ。」
「おい。いくらなんでも、御礼に呪いの品なんぞ。」
「あら、サキくんだったら、浄化できちゃうでしょ?だからあげるのよ。」
とけろりとした顔で言うレジさん。
まあ、僕なら浄化できるかもだけどさ。
確かに、首飾りの箱には浄化と結界魔法が掛けられている。
サファイアは少し黒ずんでいて、中に黒い靄が見えた。
確かに、呪われている、と言われるのもわかるシロモノだ。
「君ならきっと浄化できるだろうから、これ、あげるわ。浄化して無害になったなら、カノジョの首に掛けてあげてもいいし、売ってもいいわ。安く見積もっても、数億ルビで売れると思うわ。」
とワクワクしながら言うレジさん。
「…由来をお聞きしてもいいですか?」
「ええ。これはセレンシアダンジョンで出たものなの。ある冒険者が偶然手に入れたんだけど、手にした直後に発狂して死んじゃったわ。それでこれが呪われているとすぐにわかったんだけど、オークションに出された。落札したのはある伯爵家。でも残念ながら首飾りを屋敷に持ち帰ったとたんに、盗賊に一家全員殺された。それから」
「いえ、もう結構です。とにかく、呪われているんですね。それで結界が張ってあると。」
「そういうこと。1度は教会に奉納されたんだけど、また流転して、いろいろあって、今はあたしの家に眠っているってわけ。あげるわ。」
「はあ。」
「浄化、出来ない?」
「どうでしょう。」
「できないなら別のモノにするけど。どうする?」
「…わかりました。いただきます!」
「うふふ。そうこなくちゃ!お祓いが済んだら、1度見せてね!」
「じゃあ、今やっちゃいましょうか。」
「あら。いいわね!そういうノリ、あたし好きよ。」
「はー。もうお前達は!サキもノルんじゃねえ!」
「えーでもお。呪われたままだと僕だってもらうのやですう。」
「ったくよう。」
ということで、さっそくお祓い。
手強そうな呪いなので、世界樹の葉っぱを取りだして、浄化魔法を掛けました。
するとあーら不思議。黒い靄は消え去って、美しく澄んだ青色のサファイアになりました!
「ほらね!やっぱりサキくんならできると思ったのよ!良かったわ!貴方にあげることが出来て!」
「ありがとうございます!大切にしまーす!」
シンハは寝たふりをしながらふすんと鼻を鳴らした。呆れたのね。
同じく鼻は鳴らさなかったけど、隊長も呆れたような顔をしながら、デザートワインを飲んでいた。
「こほん。ところでサキ。」
「なんですか?」
「俺はお前さんほどじゃないが、鑑定が使える。で、さっき俺自身を鑑定したら、なんかよけいなものがついていたんだが。あれは何だ?」
「(ぎく。)な、なんのことでしょう。」
「「聖なる右目」とかなってたぞ。」
「あらま。」
「いったいどんな目なんだ?」
「さあ。きっと、相手の本質が見えるとかじゃないですかね。」
僕は持っていないからわからないけど。シンハがそうだからな。
いや、妖精達だって、人が黒い靄をまとっているとかは見えるから、シンハのはもともとか?
アカシックに尋ねると
「聖なる目:物事の本質が見える。特に聖邪の区別がはっきり見える。妖精や精霊を見ることができる。遠くのものがよく見える。夜目も利く。
ちなみにサキ・ユグディリアの場合は、集中すれば魂の色も見える。面倒なので、通常ステイタスには書かれないだけである。」
うぐ。僕は上位互換モノを持ってたみたい。でも「面倒なので」ってなにさ。
妖精たちや聖獣は持っているのかを尋ねると
「妖精や精霊、聖獣はもともと持っている。シンハの場合、サキの治療により、さらにその威力が飛躍的に増した。そのため、サキや善良なる妖精などは光って見える。また、以前より遠くの物体がよく見えるし、夜目もさらに利くようになった。」
あーなるほどね。
「遠くの物がよく見えるし、夜目も利くようです。妖精も見えるかも。それから、悪人は黒い靄を纏っているように見えると思います。」
と隊長に説明。
「ほう。結構使い手がありそうだな。」
「悪人がわかるというのは、便利ね。」
とレジさん。
僕の場合は、魂の色まで見えるそうだ。黒い靄は見えるけど。試したことがないな。
ちょっとやってみるか。
目に集中して魔力を集めてみる。
すると。
レジさんは、全身が淡いオレンジで、隊長は青っぽい。その違いはよくわからない。使える魔法の性質だろうか。でも二人とも、全身がほのかなピンクの色味も帯びているんだ。これ、恋してますってことだな。うん。きっとそうだ。
じゃあ、シンハは?
ほうほう。全身白く光ってますね。聖獣だからだろうな。
シルルもシンハほどではないが、全身を白い光が包んでいる。妖精だからだろう。
じゃあ僕は?
ふと壁にかかった鏡をのぞき込む。
うわ!なにこれ!白というか金色というか、神様降臨!という感じに全身光ってますよ!しかもなに、虹色にも輝いてるじゃん!やめよう。もう見るの、やめ!
ちょっと目のいい人がいたら、すぐに僕の正体がばれてしまうかもしれないし。むむ。
試しにバリアを強めに張ると光が落ち着いた。
「僕は人族、僕は人族…。」
『…。お前、心のつぶやきが、声に出ているぞ。』
「うぐ。(僕が、こんなに光っているとは思わなかった…。)」
『今頃気づいたか。「神族」になってからなお光が増したんだ。もう、人族とは言えないな。』
「(うう。そ、それでもニンゲンだい!)」
『まあ、俺は諦めて、お前の傍に居てやるから。そう落ち込むな。』
って、「諦めて」かよ。前足舐めて顔洗いつつ、言わんといてや。
「(気のない慰めのお言葉、アリガトウ。)」
隊長は
「まだ両目の感覚が慣れねえな。」
とつぶやき、レジさんが
「急に使うと、頭が痛くなるかもしれないわ。気をつけてね。」
「ああ。」
などと二人で話していたから、僕のつぶやきも聞こえなかったようだ。
それに、まだ隊長は目に魔力を籠めるとかはしていなかったせいか、僕が光っていることにも気づいていない。よかった。
「こ、こほん。頭痛がする時は、我慢せずに頭痛薬を飲んでください。僕が調合したやつを、多めに置いて行きますので。」
「おう。ありがとな。ところで…、テーブルの花に光る玉がふわふわ飛んでるんだが。あれは妖精か?」
「ああ、そうですね。妖精の子供…幼体ですね。」
ほう。幼体は見えたんだな。
「まあ!あたしも見たいわ!サキくん、なんとかならない?」
「えー。」
それはさすがに。ちょっとそういう魔法はすぐには思いつかない…。
「レジ。サキをあまり困らせるな。俺が、妖精がいるかどうかぐらい、伝えてやる。」
「うふ。仕方ないわ。それで我慢する。」
…。なんか雰囲気、やっぱりピンクっぽい。早く魔塔に帰りたくなった。




