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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第八章 王都到着!侯爵令嬢の治癒編
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480 武勇伝と診察

「文字通り死闘だった。…もうひとつのパーティーには、古い知り合いもいたんだが、俺をかばったせいで、奴は石になり、しかも頭を破壊された。そうなると、エリクサーでも蘇らせることはできない…。

結局、もう一つのパーティーは全滅。生き残った護衛は、俺とトマソ、ミハイルだけだった…。だが、なんとかマンティコアを斬り伏せた。

俺が奴の生死を確かめようとしたその時だ。死んだと思ったあいつが、急に起き上がって、俺の目に奴の爪が届いちまった。

首を斬り飛ばして、ようやく奴を今度こそ仕留めたが、おれの目はダメになっていた。」


「…。では、マンティコアの爪、が直接の原因なんですね。」

「そうだ。すぐにレジが、持っていたエリクサーを使ってくれた。俺の場合は、エリクサーで目の周囲の傷はかなり治ったが、それでも跡は残った。目は全然見えるようにはならなかった。それ以来、今でも、目の奥がうずく。

レジは死んだ護衛たちにも高価なエリクサーを使ってくれたが、誰も蘇生しなかった。頭部が無事な奴でもだ。

マンティコアにやられると、エリクサーは効かない、と言われていたが、その通りだった…。」

マンティコアの攻撃には呪いが入っているからだろうな。


「俺の目については、その後もレジがいろいろ手を尽くしてくれて、医者にも教会の高名な治癒術師にも診せた。だが、治らなかった。」

「治療を受けた時、一時的に治った事はありますか?」

「そうだな…。エリクサーや治癒魔法で少しの間はうずきが消えるし、光を感じたこともある。だがよくて数分だ。マンティコアから受けた傷は、おそらく呪いだから、治らないだろうと言われたこともある。

俺もとうにあきらめて、右側の死角をカバーする訓練に専念したよ。剣を振っていれば、痛みも忘れていられるからな。」

「お酒を飲むと、楽になったのですか?」

「ああ。普通は逆だろうと言われるが、俺の場合は楽になった。だから、戦闘に支障がでない程度に飲んでいた。」

だからいつもお酒を飲んでいるイメージなんだ。


「今も痛いですか?」

「ああ。痛いというか、常に重苦しい感じ、だな。そして時折、奥がちりっと痛む。天気が良くないときは特に。」

「…」


「それが戦闘の最中だと、かなりやばい。レジに言ったことはないが、実はそういう事も何度かあった…。大抵はもうすぐ勝てる、なんてちょっと心に余裕が出来たときに起こりやすい。

だから、ちりっと感じたら、逆に冷静になり、なるべく最短で確実に相手を屠るようになった。」

「…」

「…それから、何も見えていないはずなのに、黒い魔石みたいな、嫌な点が見える気がすることもある。そういう時は、何か周囲で良くないことが起きていることが多い。気のせいかもしれんが。」

「なるほど…。邪悪な気配が、目の奥で反応するのかもしれないですね…。」

と僕がつぶやいた。


「信じてくれるのか?」

「?もちろん信じますよ。どうしてです?」

「いや、あまりに荒唐無稽なことだから。医者にも「まさか」と苦笑されただけで終わった。」

「んー。邪悪なるものは、黒い靄を纏っているものなのです。それに対して、隊長の目の呪いが反応するのは、あってもおかしくないと、僕は思います。」

「そうなのか…。」


しかし、よくそんな呪いを抱えたままで、15年も無事でいられたものだな。

呪いに食われてしまったり、絶え間ない痛みに発狂したりしてもおかしくないのに。

「目以外に体の不調は、ありますか?」

「まあ、この歳だからな。多少若い頃よりは動きが鈍くなったと感じることはあるが…。呪いのせいだと思うほどの不調は、特にないな。」


それから僕は脈診したり、魔力の流れをチェックしたりした。

確かに、目以外に特に不調は感じられない。肝臓も大丈夫。

脈も魔力の流れも、目以外は正常だった。

というか、目から悪しき靄が周囲に広がらないよう、魔力が目の周囲を包み、自己防衛しているようだった。


「確かに、目以外には異常は感じられませんね。」

「そうか。」

「これまでよく呪いに耐えてきましたね。凄いことです。」

「そうなのか?そんなふうに言ってくれたのは、レジ以外では初めてだ。」

「…。」

「俺の近くに、あの底抜けに明るいレジが居たから、ここまで生きてこれたんだと思う。」

「いいひとに、巡り会いましたね。」

「ああ。あいつには、感謝している。」

「じゃあ、なにがなんでも、治さないと、ですね。」

「ああ。よろしく頼む。」

「はい。努力します。」


それから、僕は指を動かして、目で指を追えるかを片目ずつ診察。

案の定、右目は光彩部分まで灰色がかっていて、指を動かしても動かなかった。

それから、右目に手をあて、さらに「鑑定」による診察。

やはり、完全に機能が失われている。光もまったく感じないというのも頷ける。

かろうじて眼球に血が通っているので、存在しているだけだ。

そして、奥には隊長自身が感じている、呪いらしい穢れというか、黒い濃い靄が感じられた。

それもかなりしぶとそうな靄だ。隊長が言ったように、僕には黒い魔石のような塊に思えた。

確かにこれでは、「ふつうのエクストラヒール」では無理だろう。


僕はシルルに助手をしてもらいながら、まず聖水で彼の目を慎重に洗った。

最初は目を閉じてもらい、まぶたに聖水を注ぐ。

「痛くないですか?」

「大丈夫だ。」

次に、眼球に聖水を垂らす。すると

「うっ!」

と隊長は痛がった。

奥の呪いが、聖水を拒絶したようだ。

僕は無言で手をあて、カームをかけた。

すると、

「痛みが。おさまった。」

といった。


シンハがまだら蛇の毒で失明した時、僕は焦って急激に僕の魔力をシンハの目に入れた。その時、シンハは痛がった。

今度はなるべくゆっくり魔法を注入したい。

僕は閉じた右目に世界樹の葉っぱをあてた。

これも痛くないようだ。



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