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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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48 森の海鮮料理

「サトウキビ探しに行こう!」

僕はシンハを催促した。

『そうだな。そろそろ行ってみるか。』

ようやくシンハが重い腰をあげた。

梅雨が終わるまで、いや、もっと暑くなってから、と言われて、サトウキビ探しの旅は控えていたのだ。

今まさに森は盛夏真っ最中。

あちこちでうるさいほどセミの魔物が鳴いている。


不思議なのは、確かに気温は暑い(鑑定で気温もわかる。今日は30度越えだ。)のに、汗だらだらにならないこと。

確かにこのあたりは高原みたいに快適な気候ではあるが、それでも真夏だから暑い日だってある。周囲の空気の温度が高いとわかる。それなのに、暑いと感じない。汗もほとんどかかない。


シンハいわく、魔力が多いものほど、暑さ寒さ、痛みなど刺激には強いそうだ。

もちろんシンハも夏は暑いなと言いつつも、ちっともはあはあしていない。立派な毛皮を着ているのに、暑がりもしないし当然バテてもいない。

どうやら魔力が無意識のうちに自己防衛に使われているようだ。

かといって全く魔力が減った感覚もない。どういう理論かはわからないけれど、まあ強いて言えば異世界理論だと思うことにしよう。


セミで思い出したが、虫といえば、この森は案外毒虫が少ない。

大きな魔物の虫は居るけれど、葉っぱに隠れて人や獣を刺すような奴は地球より少ないような気がする。蚊、アブ、ダニ、ヒルは普通サイズのがいるけれど、自然豊かな原初的な森の割には毒持ちの虫は居ないほうだろう。

僕の皮膚が丈夫なのか、刺されないし寄っても来ない。さらに僕はバリアを常に発動しているし、何かに刺されたとしてもヒールもある。

シンハも、もともと神獣で皮膚は丈夫で刺されないし、毒も効きにくい。傷もすぐ癒える。(あの大蛇の毒が異例だっただけで。)そういう点では僕とシンハにとって住みやすいところだ。

毒持ちはむしろ植物のほうが多い。

鮮やかな赤い花の食虫植物ムシトリイバラは酸で虫を溶かすし、ドクトゲソウは名前のとおり、そのトゲに毒がある。人間にはちょっとしびれる程度だが、小さな虫たちには猛毒だ。


さて、これまで僕はアラクネさんたちに布作りを教えたり、自分でもはたおりをしたりしていた。肉はシンハが勝手にとってくるし、僕も同行して狩猟の腕を磨いている。特に魔兎は春から夏に大繁殖するそうなので、徹底的に狩っていた。


野菜類は畑で十分な量がとれているし、果物は梅雨時でも実りは良かった。乳製品も真面目に作り、今では数種類のチーズもできるようになっている。

これは魔羊だけでなく、噂を聞きつけて魔水牛も移動の途中でお乳をくれたり、魔山羊も立ち寄ってくれたりしたからだ。

それからホルストックの乳が人に毒というのは一時のことで、子牛が生まれる前後は腹を下すのでだめだが、子牛が生まれたあとひと月すれば、普通に飲めることもわかった。

しかもホルストックからは濃厚な味の乳が取れることもわかった。

それでもこの世界では魔羊の乳が定番で、臭みがなく風味のよいバターやチーズが取れて広く好まれているそうだ。味もすっかり地球上での牛乳やバターの味だしね。

ソーセージやハムも作った。生ハムなんて前世じゃあほとんど食べてなかったから、今のほうが絶対贅沢な食卓だと思う。


それでも甘味が足りない。

味噌も醤油もない。

コンブや鰹節もない。

米がないから米酢もないし、日本酒もない。みりんもない。

こうやってないものを数えてみると、悲しくなるが、アイスクリームが作れるようになったし、ハチミツのおかげでかなりお菓子のレパートリーは広がった。

今では僕が作るクッキーやケーキが、魔蜂さんやアラクネさん、湖の精の大好物になっている。特にポムロル(リンゴ)で作るポムロルパイは、自然の味が生かされているせいか、みんなの一番の好物だ。

小さな妖精たちは、僕のお菓子につられていろいろと協力してくれるようになった。


僕は恐ろしいはずの森で、たくさんの不思議な知り合いを作り、ともだちを作り、それなりに楽しく暮らしている。

「みんなの期待に答えるためにも、サトウキビを手に入れないとね!」

かくいう自分が一番甘味に飢えているのかもしれない。

魔蜂さんのおかげでかなり甘味は改善されてはいるものの、やはり砂糖を知っている僕からすると、何か微妙に違うのだ。

砂糖よりハチミツで作ったほうが美味いものももちろんたくさんある。けれど、あのクセのない純粋な甘さの砂糖でないと、完成しない菓子も多いのだ。

シンハにまたがり、黒曜石の穂先をつけた槍を持ち、ワイバーン製の自家製テントなどもろもろの旅道具を亜空間収納に入れて、僕は南へ出発した。


僕たちはさらに数日旅を続けた。

まもなく昼休憩しようか、という頃だった。

僕の索敵スキルが、2キロほど先の魔物をとらえた。

「なんかいる。魔物。」

『どんなだ?』

「んー、細長くて、背が高い?」

『マンティスかもしれん。そろそろ虫たちが多いエリアだ。』

「げ、虫、得意じゃない。マンティスって?」

『鋭い鎌を持つ虫の魔物だ。体調は3メル以上ある。』

「それって…カマキリ?」

『カマキリがなんだかわからぬが、どうやらこちらに気付いてやってきたようだぞ。』

「げっ!」


なんて言っていると、正面のやぶの向こうから、カサカサカサという嫌な音と、ブウンという羽音が聞こえた。

『来るぞ!上だ!』

真上から、でかい鎌が降ってきた!

「やっぱカマキリ!でかっ!」

マンティスは予想通り、カマキリの化け物でした。

しかも5メル以上もある!?

『狩るぞ!あいつの肉は美味い!』

「えっ、カマキリ美味いの!?」

『カマキリがなんだかしらんが、マンティスは美味い!手足しか食べるところはないが、卵なんかは珍味だぞ!がうっ!』

「わ、ワカッタ。」


僕は半信半疑だが、とにかく倒すのがまず先決だ。

「くっ、こんな時、剣が欲しいな。」

今度絶対作ろう。さすがに短剣で相手するのは難儀だ。

振り降ろされる鎌を数回かわし、時には短剣で防ぐ。速度上昇で回避はなんとかこなせている。

バレットは殻が硬くて通り辛そうだ。

そこで数歩とびすさり、シンハも飛びすさった瞬間に

「真空切り!」

と一発でかいのをやつの首に放った。

シャキィン!

金属を切るような音がして、のち、ゆっくりとマンティスの頭が落ちた。

そしてようやく動きが止まった。

「ふう。結構やばかった。」

『いや、まあまあな戦いぶりだったぞ。』

「ありがとう?」

珍しくシンハが褒めてくれた。なぜだ。

『なにしろ手足が健全な状態で倒せたからな。』

食い気かい!


それから僕たちはさっそくマンティスを食べることに。

シンハが塩ゆでしろというので、大鍋に湯を沸かし、塩も投入。


「で?」

『手足をもぎ取って、それをいれろ。』

言われた通り殻付きのまま塩ゆでにすると、なにやら知っているいい匂いが。

ゆでていると、身が赤白に変わっていく…。

「もしかしてもしかして!」

『もういいぞ。食ってみろ。』

「では!いただきます!」


中身を引っ張り出してぱくりとかぶりつくと、

「!カニじゃなくて、エビ味!!」

『えび、がなにか知らんが、海にいるロブストーレによく似た味だと言われるな。』

「ロブストーレ!?ロブスターかい!」


ロブストーレは、海にいる魔物で、手がハサミになっていて捕まえるとばたばた跳ねるというから、まんまエビ類だ。大きさは2メルくらいある魔物だそうだが。

『だからマンティスは別名『陸のロブストーレ』とも言われている。』

とシンハが後ろ足の身をずるりと取り出してかぶりつきながら教えてくれた。

「んんー。プリップリでうまうまっ!…そういえば、卵も珍味って言っていたけど。」

でもさすがに少し、抵抗ある。カマキリの卵だと思うと。


『塩漬けにして出回っているな。』

「!もしかしてキャビア!?」

そう思って、じっと取り出した卵を見ると

「マンティスの卵:通常は塩漬けにしてビスケットなどに乗せて食べる。宮廷での宴会に欠かせない高級珍味。」

と鑑定先生が教えてくれた。

「やっぱキャビアだ。」

『生より塩漬けが美味い。作っておいてくれよ。』

「ワカッタ。」

ということで、卵を塩まみれにして亜空間収納内の「熟成」エリアに入れた。


最近の僕の亜空間収納は、時間停止だけでなく、温度調節と時間機能も自在で、冷凍エリア、冷蔵エリア、発酵エリアに熟成エリアもある。

特に発酵や熟成はチーズや酒には必須の場所だ。

僕とともに亜空間収納も成長している。えへん。

マンティスのでかい手足肉を堪能した僕たちは、また旅に戻った。


その日の午後のこと。マンティスに遭遇して数時間後だ。

「今度はずんぐりした魔物が、宙に浮いているんだけど。」

『ああ。タルランテルラかもしれん。そいつも美味だぞ。』

「えー。」


名前からすると蜘蛛だろう、と予想していると、案の定。よく目をこらしてみると、美しい幾何学模様の大きな蜘蛛の巣が、空中にいくつもあるのがわかった。

『あれがタルランテルラの罠だ。あの蜘蛛の巣は人間にも有効だぞ。身動きできなくなるから、触るなよ。』

「ワカッタ。」

本体は蜘蛛の巣三つほど先の葉陰に隠れている。

「で、どんな味なのさ。」

『カニはわかるか?』

「へ、この世界に、カニ、いるんだ。ちなみにどういうの?」

『海の生き物で、手がハサミになっていてな、硬い甲羅を中心に、ハサミが1対、足が4対。横向きに歩く。甲羅の中のミソも美味い。』

「って、僕の知ってるカニのまんまじゃん!」

『そうか。で、タルランテルラもそれと同じ味がする。』

「ひょええー。」

『で、『陸のカニ』とも言われているな。』

「ああ、もう驚かない。じゃあ、また大鍋に湯を沸かせばいいんだね。」

『その前に。狩るぞ。』

「ういっすー。」


毒蜘蛛タルランテルラはカニ味だった。

カニとかタルランテルラとか、時折地球語が混じっている。度量衡もそうだ。1メートルが1メル。1キロメートルは1キロメル。1センチは1セントー。なんとなくネーミングが似ている。これは数百年に1度くらいの割合で、地球世界からこちらの異世界に落ちてくる人がいるせいだ。

そういう人が現れると、いろいろな方面で発展するらしい。

以前、シンハが母上から聞いた話として教えてくれた。


でもなぜか火薬がない。火薬でおこせる爆発という現象は、魔法もあるからこちらの世界でも起こせるのに。

きっとこちらの世界の神様が、いずれ核戦争まで思いつくような、武器の発達を嫌っているからではないかと、ぼくは考えている。ちがうのかな。


さて。今はタルランテルラのこと。

毒袋と糸袋は貴重で、毒からは薬が作れるらしい。

それから糸は糸袋内では液体だが、細く出されて糸となる。この糸はアラクネ糸より太く衣服用には向いていないが、魔力で加工すると投網用の丈夫な糸になるそうだ。すべては鑑定先生のおかげ。

結局この日は昼にエビ三昧、夜にカニ料理と、海鮮料理モドキに終始した。

まあ、美味しかったからいいけどね。



先日、とある有名な異世界メシものを読んでいたら、クモがカニ味というのがでてきました。決してアイディアをパクったわけではありません。発想は似るものです。関係者の方、寛大なお心で放置願います。(^^;)

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― 新着の感想 ―
[一言] アマゾンだったかな?どっかの密林にいる蜘蛛が、頭と足を取って油で揚げるとチョコの味がするって昔聞いた事がある(;・∀・) え?チョコ?蜘蛛が?!って凄くびっくりしたからその話を聞いて何十年も…
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