表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第八章 王都到着!侯爵令嬢の治癒編
477/530

477 レイモンド・ナゼル枢機卿

「さっき、ようやくキキにも会うことができました。キキも元気になって、良かったです。先生、サキ様、本当にありがとうございました。」

令嬢がお辞儀する。

「解呪がうまくいって良かった。部屋も念のため、さらに浄化しておきましょう。」

と言って、師匠はぱちんと指を鳴らした。

すると、ふわあっと心地良いそよ風が通りぬけた。

さすが師匠。真の無詠唱だ。

ふと、手の中に納めていた世界樹の葉のネックレスが、息を吹き返すように元気になった。

おほ。凄いや。


「(師匠。)」

手の中でこっそり葉っぱを見せると、

「(お。また使えそうでなにより。)」

と言った。

貴重な葉っぱだもんね。


と廊下で人の声がした。

枢機卿が侯爵に案内されて来たようだ。

僕達はさりげなく気を引き締めた。

コンコンとノックの音。

「どうぞ。」

「枢機卿様がお見えです。」

とメイドがまず入ってきて令嬢に伝えた。

そして、そのあとから侯爵とレイモンド・ナゼル枢機卿が入ってきた。


「リリアーヌ嬢。おお!ご回復の由、お聞きしました。おめでとうございます。」

と笑顔で令嬢に近づく枢機卿。

だが。

パキィン!

「ギャッ!」

令嬢は僕と師匠が張った結界に守られている。

枢機卿はその結界に触れると、驚き、おびえるように後ずさりした。


「(シンハ。どう?)」

『真っ黒だ。というか、やつはもう、生きてはおらん。アンデッドだな。』

と念話で言いつつ、シンハはウウーっとうなり、殺気をあらわにした。


「(やっぱり。)」

僕にもわかった。

生命力を感じないのだ。僕の鑑定でも

「かつてレイモンド・ナゼル枢機卿だったアンデッド」

と出ている。

だが鑑定結果ではそれだけではなかった。

「(なんだ?これ。…寄生…獣??)」

「!いかん!結界を破るつもりだ!」

師匠の声。

「「!結界強化!」」

師匠と僕が唱えたのは同時だった。

そして、リリアーヌ嬢だけでなく、侯爵や護衛の騎士、メイドたちも結界で守りつつ、枢機卿を隔離する。


「リリあーヌ様。なゼ拒むのデすカ?ワタシヲご存ジですヨネ。」

というアンデッドに僕は杖を横にして、呪文を紡ぐ。

「去りゆく者、留まらず地脈へ戻れ!聖炎!」


「ギャアアア!おのれ!小童!」

そう言いながら、アンデッドはドロドロに溶け始めた!

げえ。醜悪。しかもなにこの腐った臭い…。

そして、枢機卿の中から、人型の昆虫のようなものが出てきた。

「きゃああ!」

「リリアーヌ様!目を閉じて!結界防音、防臭、霧よ包め!」

リリアーヌ嬢や侯爵様たち全員から、から、グロテスクな化け物が見えないようにした。

音やにおいも遮断。


「リリあーぬぅ…。」

『たまらん臭いだ!なんとかしろ!』

敏感なシンハは嗅いでしまったようだ。

げえ。吐きそう。悪臭だ。


「クリーン!」

僕は敵を屠る前に、クリーンをせずには居られなかった。

KISYAAAAA!!!

もはや人のかたちさえしていない。

寄生獣エルゴスという鑑定だった。

まるでGの人化失敗みたいな姿で、人間の中に潜み、中から食い散らかすようだ。

聖魔法で外側はアンデッド化した人間部分は溶けてしまうが、エルゴス自体は聖魔法では消えない。

ばっとエルゴスは飛んだ。飛んだのだ!まるでGそっくり!

ブゥゥゥン。

その羽音の不気味なこと。

そして僕に向かって飛んで来て、何かを吐きださんとした。

だが一瞬早く、僕は自身を結界で護りつつ、飛び上がって魔剣を火魔法で包み、

「でやあ!」

一刀両断にした。

バサッと二つに分かれた体が落ち、それでもなおジタバタと足を動かす。

「ライトファイア!」

師匠が、G…もとい、エルゴスを光と炎の融合魔法で燃やし、始末した。

ふう。

ライトファイアか。聖炎の下位魔法らしい。


「尋問したかったが。あれではどのみち無理だったな。」

「はい。初めて見ました。不気味ですね。」

「寄生獣エルゴス。狡猾で寄生先が人の場合、ある程度の間、ごく普通に会話もできる。確かに希有な魔獣だ。王都に出たなど、聞いたことがない。」

「クリーン。結界、解きますね。解除。」

「リリアーヌ!」

「お父様!」

「恐かっただろう。よく耐えた。」

「ああ。お父様。」


「ランゲルス師、サキ殿、これで本当に終わったのだな。」

「はい。」

「感謝する。ありがとう!」


レイモンド・ナゼル枢機卿が、何者かの手先で、リリアーヌ嬢とドリーセット侯爵家を嵌めようとしていることは、予想できた。

それで師匠から侯爵に話し、リリアーヌ嬢にも協力してもらい、罠を仕掛けることにしていた。もちろん、リリアーヌ嬢には安全で堅牢な結界に入ってもらうという条件で。

侯爵も令嬢も承諾したのだったが。

まさかすでに人を辞めていた者で、しかも希有な寄生獣エルゴスの餌食になっていたとは。

予想のナナメ上を行く展開だった。

せいぜい誰かに幻惑魔法でも掛けられて、犯罪に手を貸していたのではないかと想像していたのだが。


事件はひとまず解決した。

令嬢とメイドのキキは、得体の知れぬ病から解放されたし、元凶の一人と思われる枢機卿はこの世を去った。

ただ、首謀者が誰なのかは全く解らずじまい。

そして、謎の魔術師も、行方はつかめなていない。


今後悪いことが起こらないよう、僕と師匠は念のため、敷地に清めの浄化と、防御結界を施した。

滅んだ枢機卿は黒交じりのわずかな灰しか残らず、それも浄化して小さな箱に収めた。わずかな遺品(焼けた指輪とか杖とか)も浄化。あとは侯爵様が、文句がてら教会に送るそうだ。


侯爵夫妻からは、そうした浄化も含めてとてもとても感謝され、たっぷりの謝礼金だけでなく、師匠と僕に、それぞれ貴重な「魔力を貯めることのできる宝珠」が渡された。

それがなんとドラゴンアイだったのには驚いた。

サリエル先生から貰った、産婆のお婆さんの家片付け報酬と同種のものだ。

実はすんごいものを、サリエル先生から貰っちゃっていたことになる。

先生は知っていたのだろうか…。あとで正直に話してみよう。


提供したエリクサー代は、それとは別にいただいている。魔法陣解除作業中に僕や師匠が消費した分も支払ってくれたので、僕は白金貨をそれなりにいただいてしまった。


僕は冒険者なので、なにか依頼があればギルド経由で受ける事が普通だが、相手が貴族の場合、こうして直接、秘密裏に依頼されることもあるらしい。

そこでトラブルになってもギルドは関与しにくいし、僕を守ってくれるかは難しい。そして、依頼を達成しても、実績にはカウントされない。

今回はレジさんの紹介であり、信用できる貴族なのでギルドを経由せずに受けたし、令嬢に関わることなので、秘密裏に依頼された訳である。

冒険者にとっては少し危険な依頼なのだが、相手を信用して承諾したのだ。

その代わり、報酬もたっぷりいただいたし、何よりドリーセット侯爵家からの信用を得た。これは知らぬ人ばかりの王都で、僕にとっては有益なことだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ