46 包丁をつくる
翌日から、僕は包丁を作るべく、準備を始めた。
まだ剣や刀を作る勇気はないが、そろそろ正真正銘の包丁は欲しい。
だって、短剣を包丁代わりに使ってきたからね。
今回は、基本はおおむね日本刀と同じ方法で包丁を作る。
というか、包丁形の刀剣作りといってもいい。
1日目は刀の製作に必要な地鉄の準備だ。うろ覚えの知識だが、鍬を作ってみて、やはり「たまはがね」を作らねばならないと思った。
鉄鋼石はたっぷり「赤い山」で調達した。石炭やコークスもある。そのためかなり製錬しても、剣や斧を数個ずつつくるくらいはできるだろう。
ちなみに日本の刀の材料は砂鉄だが、この世界では鉄鉱石が主流。ヨーロッパでは粘りが少ない鉄鋼石で、剣も安いものは鋳物だと聞いた。
ここの鉱石の粘性が日本の鉄とどう違うかはわからないが、それなりに上質のものだし、まあ自分の腕前がいまいちでも、なんとかなりそうだ。
燃料も日本は木炭だが、西洋は石炭やコークスだったと聞く。
ここでは西洋風一択だろうな。
サラマンダを連れて鍛冶場に入ると、すぐに風魔法を使って風を送り、熱した石炭とコークスをますます真っ赤にさせた。
そして材料を火床に入れる。
原始的やり方だが、此処からが地球とは違う。
僕は豊富な魔力を使って、鉄鋼石を溶かす。鑑定さんの指示に従って魔力で「たまはがね」をイメージしながら練り練り。
1時間後、取り出したのは、「異世界版たまはがね」だった。
普通、日本ではこれに3日3晩かかるが、さすが異世界。魔法を使えばなんと1時間で終了だ。同じやり方で「たまはがね」を昼までに大量に作った。鋳物にする不純物の多いままの鉄塊も作った。
剣や鋳物製品など、それぞれの製品に適した成分については鑑定さんを駆使してかなり無理矢理知識を吐き出させ、理想とする成分は理解した。
午後からは、できた材料をもとに、包丁を作る。
「たまはがね」を、さらに芯になる軟かい「芯鉄」と硬い「皮鉄」とに分け、それぞれ折り返して精製。
日本でなら、地鉄をひたすら熱して叩くのだが、此処は異世界。たたきながら魔力を加えることで精製されていく。
粘性が強く柔らかめの「芯鉄」を、凹に作った硬い「皮鉄」で包む。刃になるほうに「皮鉄」がくるようにする。これらをまずは魔力でくっつける。
それを火床に入れ、やがてすべてが熱せられた。
溶けかけたところを取り出して、魔力を込めながらカンカンと槌で叩いて成形していく。
それから火に入れ、また柔らかくなったら、今度は槌で叩く代わりに、魔力を手に込めて、むんむん、と動かし、魔力だけで包丁を成形していく。もちろん、熱いので実際には触れずに魔力を送るようにして成形する。
叩いては延ばし、火に入れてまた魔力を加える。さらに叩いては魔力で微調整。それを繰り返すことで、包丁は形になった。
最後は刃文をつけてじゅっと水に入れて焼き締め、刃文も確定させた。
そのあとは研ぎだが、土魔法で作った砥石を用意し、キシキシと荒研ぎする。
すると、包丁らしい輝きが増し、かついかにも切れ味良さそうな刃物になっていく。
あとの仕上げは亜空間にぶち込んで一昼夜。
それで研ぎが完成だ。
なんとも贅沢な三徳包丁ができあがった。
「ふふん。我ながら上出来!」
試しにニンジンを切ってみる。
「おお!よく斬れる!」
まるでバターみたいに、ニンジンがすうっと切れた。
まな板はトレントやエルダートレントでないと、まな板まで一緒に切れそうな勢いだった。
僕は初めて作った包丁に満足した。
ああ、でも自分の指を切らないようにしないと。
これ、ヘタすると指なくなるぞい。
んー、と考えて、僕は結界魔法を手指にだけかける。
これで間違っても僕は自分の包丁で指を傷つけることはない。
シンハに話したら、また呆れられたけど。
普通、魔法というと、生活魔法以外は、攻撃系魔法ばかりに目が行くものだそうだ。へえ。そんなものかな。
とにかく、僕は次々と自分が使いそうな金物道具類を作った。これまでは堅いトレントやエルダートレントを亜空間収納で作って代用していたが、ノコギリなどは金物で作りたいものね。
そうやって、三徳、菜切、柳刃、牛刀、ペティナイフ、小刀のほか、鋤、鍬、鎌などの農具や金槌、斧、鉈、ノコギリ大小(「目立て」がすっごく面倒だったけど)、ノミ各種、クギ、かすがいなども作った。三徳包丁を最初に作ったおかげで、ほかはさくさく作れた。
一番難しかったのがハサミ。ハサミは不思議なもので、右利き用を左手で扱っても上手く切れない。微妙なひねりを、無意識に指がかけているからだ。
僕は右利きなので、ふつうに右利き用ハサミを大小作った。それと植物剪定用のハサミもね。
約2週間で、僕の金物道具はほぼ一通り作ることが出来た。チートと魔力、すげえ。
シンハは1つつくるたびに、ため息をついていたが。いいじゃん!
どれも「魔力をはじく良い音」がした。キィンというかリィンというか。
まるでお坊さんが使う鈴みたいな澄んだ音がする。
つまり、上出来ということだ!
いい道具がたくさん出来たので、僕は大満足だ。