45 鍛冶場をつくる
「赤い山」から帰還した翌日。
「よし、鍛冶場を作ろう!」
僕は宣言した。
僕がやり始めたのは、予定どおり鍛冶場製作だ。
といっても、朝は罠のチェックや畑の水やり、昼間は木の実や果物とり、紙の原料となる草を探したり、森の仲間へのお菓子作りにシンハ用肉料理の作り置きなど、やることは一杯だったけど。その合間を縫って、建築を作っていくことにした。
トイレと風呂は準備期間を別にすれば、わずか1日で組み上げたけど、今回は倍以上の広さなので、さすがに数日はかかるだろう。
鍛冶場はトイレや風呂とはまったく別棟にすることとし、洞窟からでてすぐの広場に、洞窟から見て右側に独立した家として建てることにした。火を使うので、もし万が一の時、他の居住エリアに燃え移らぬようにするためだ。
すでに一棟建てているので、それを参考に作る。
まず土台は地べたのままでいい。ただし火を使うのでレンガを敷く予定。まず地面に糸を張って縄張り。
間取りは、基本2ルームで手前と奥の部屋みたいに作る。だが2部屋の間は壁もドアも付けず、中央に柱を立て、レンガで2つのアーチを作るだけとする。
暑くなるので、それなりの広さにするから、建物全体の面積は、ほぼメルティア広場の4分の一近くになった。
一番奥に刀剣も打てる炉を作り、フネも作る。水甕も大きいのを準備。普通は鉄鋼石や石炭置き場、薪置き場も大きく必要だが、ほとんどは僕の亜空間にあるので、此処には少し置ければいい。
入り口脇の壁に中二階を作り、上は火の番もできるよう仮眠できるエリアにし、その下を物置きエリアとして設置することにした。
鍛冶場入り口入ってすぐの隅っこには窓を付け、アクセサリなどを加工するために大きめの机を置くつもり。縦長の作業場で、奥が鍛冶場、手前が仕上げや細工どころ、休憩どころとする。
四隅と部屋の真ん中に柱を建てるため、礎石を置き、柱はすべてエルダートレント製。屋根の中央まで通し柱とする。
あとはまた川の上流で手に入れた大きめの岩を砕いて腰壁にする。
腰の高さまで岩を積み上げながら、間をセメントもどきで埋める。腰壁より上は風呂場と同じく、少しずつ作って貯めていたレンガを積み上げ、間をモルタルもどきで埋めていく。ちなみにこのレンガは、耐火レンガで風呂場のものより堅牢に作ったもの。
屋根裏はなく、屋根まで吹き抜け。
屋根の木組みは主に普通トレント。木部には魔石を砕いた透明ラッカーっぽいものを塗料として塗るが、塗料に防火魔法を込めてある。
屋根も耐火レンガで覆う。屋根の外側にはスレートを貼る。床にも耐火レンガを敷き詰めた。内装はレンガ剥き出しで特に壁は塗らない。
作業量は多いが、トイレと風呂の別棟と基本的に同じ工法だ。
魔法は使っても、基本は手作業。乾かしは魔法。
排水は風呂や台所の升に合流させる。
まる2日間、材料調達。1日で排水設備と床敷き、柱立て。1日で腰壁とレンガ壁。1日で屋根と炉と煙突、1日で中二階と内装仕上げ、で完了。
屋根は煙突なども必要なのでそれなりに時間はかかったが、内部の仕上げまで結局6日で鍛冶場は完成した。
『相変わらずお前のやり方は…呆れるな。』
「ん?そうお?どして?」
『早すぎる!家を作るとはもっと時間がかかるものだ!』
「怒らないでよ。これでもトイレとお風呂より大きいから、かなりゆっくり丁寧にしたんだよ。がんばって作ったんだ。褒めてよう。」
向こうは材料調達から完成まで、ほぼ3日だったからな。
『怒ったんじゃない。あきれただけだ!』
またなぜかシンハをいらつかせてしまった。そんなにシンハをこき使ってはいないぞ。意味わからん。
「さてと。今日はめでたく火入れ式だ!」
翌日。僕は破壊した丘で採取してきた石炭と、ゴーレムから得たコークスを混ぜ、ふいごの代わりに風魔法を使って火起こしし、「赤い山」から採取した鉄鉱石で、まずは鍛冶で必要な道具を張り切って作ることにした。
傍にはふんすと張り切っているサラマンダ。
まずは鉄鋼石から鉄の塊を抽出。
それをもとに金槌、金床、たがねなどなどを作り出していく。
作りながら火加減も覚える。もちろん未熟は承知。そこは魔法や鑑定などの能力でカバー。
次に鉄製中華鍋を作った。もちろん、板金を切ったりくっつけたりは魔法で溶かしたり整形しつつだが。
「おお!憧れの中華鍋!」
あおりもできるやつ。美味いチャーハンもいずれ作るぞ!まだ米がないけど。
ついでにお玉や金串なんかも作る。
『サキ。もう夕暮れだぞ。』
「え?あらら。こんな時間。すぐに夕飯、用意するね!」
外に出ると、一挙に涼しく感じた。
やばい、暑さも忘れて夢中になった。脱水症状になるところだった。
その夜は外の竈で魔羊肉のステーキに、野菜炒め。野菜炒めは作ったばかりの中華鍋であおりを練習しつつ試しに使ってみた。えへへ。快適!
がんばってくれたサラマンダには魔力団子をあげて、ありがとうを言った。
翌日は手始めに鍬に挑戦。
鍬は刃物なので、気合いを入れる。
鉄鋼石を溶かして魔力で鉄分を抽出。金槌で叩いて数回折り返し、それから鍬の形にした。
刀と違うので鍛錬はあまりいらない、はず。柄を付けられるように別材で変形させて丸い筒を作って魔力と鍛冶仕事で接合する。トレントの棒で柄をつければあっという間に完成。でもね。
「うーん。なんか違うんだなあ。」
農作業にはいいみたいで、実際、畑の外縁部の荒れ地では、サクサク耕すことができている。だが、「刃物」かと言われると違う。なんというか、初期装備の短剣と比べると、組成がまとっている魔力の流れ方が断裂していて、魔力を当てて共鳴させても、不協和音しか聞こえない。
『魔力をはじく音がするだと?そんな確認方法、聞いたことがない。もっとも、俺は聖獣だからな。刃物づくりはドワーフにでも聞かないとわからん。』
とシンハに一刀両断に言われてしまった。なるほど。確かに。
ここからは僕一人で答えを見つけなければいけない。近くにドワーフはいないし。
ちなみにシンハのご自慢のツメを拝見したら、やはり魔力をごく微量当てると、とてもいい澄んだ音がした。チーンというかキーンというか。
僕の初期装備の短剣もそうだ。だからいい刃物はいい音がするのは間違いないんだ。
たぶん、刃物には「たまはがね」が必要なのだろう。それとたっぷりの魔力。
翌日は、鍬と同じようにして包丁を作ってみるはずだったが予定を変更し、まずは「たまはがね」作りから始めようと心に決めた。