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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第八章 王都到着!侯爵令嬢の治癒編
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441 もう一人の患者

「ええ。隣の部屋ですわ。」

と奥様が答えた。

僕は誰の案内も受けずにさっと隣の部屋へと急いだ。

黒い靄が、扉の隙間からもれている。

確かキキさんのほうが危篤だって言ってたよね。


扉を開けると、メイドがひとり、付いているだけだった。

「キキ、しっかり!」

はあはあと苦しそうな息が聞こえた。

視界が悪い。

部屋は患者が隠れるほどに真っ黒な靄で覆われていた。


「浄化!」

僕はすぐ室内に浄化魔法をかけた。

しゅうう…と一時は靄が少なくなるが、また患者本人の周囲に巡らされたいびつな魔法陣が衝突するたび、黒い靄が発生する。

患者の少女は猫獣人だった。

普段なら、わあ、猫耳だあ!と言いたいところだが、今はそれどころではない。まさに彼女は危篤なのだ。


「キキ!しっかりして!」

同僚のメイドが、半泣きでキキを励ましている。

「失礼します。お嬢さん。」

「!あなたは?」

「Sランク冒険者で治癒術師のサキ・ユグディオです。」

そう言いながら、脈診する。


チアノーゼを起こしかけている。

心臓が止まりかけている。

こちらの方が圧倒的に状態が悪い。

だが、やはり愛娘と違い、メイドゆえ、残念ながら後回しにされてしまっている。

命の重さは同じなのに。可愛そうに。


「エリクサーを投与しますね。」

メイドがあっけにとられるうちに、さっと自前のエリクサーを飲ませた。

もう脈がほとんどない。効いてくれ!

すると、きらきらと周囲が光り、すうっとキキの呼吸が穏やかに。

心音もしっかりしてきた。

顔色も正常に戻りつつある。

良かった。間に合った。

さすがにほおっと大きくため息をついた。


ようやく侯爵とレジさんと隊長が入ってきた。

「サキ君。」

「危なかったです。心臓が止まりかけていました。今、こちらにも僕のエリクサーを投与しましたので、数刻は大丈夫かと。」

はあっと侯爵は大きく息を吐いた。

「ありがとう。メイドとはいえ、娘の身代わりで命を落とすようなことがあったら、親御さんに顔向けができぬ。」

それは本心だろう。

侯爵閣下も、わざとキキさんを放置したわけではない。

それだけさっきのリリアーヌ嬢の様子が、尋常ではなかったということだ。


ふと、キキさんを見ると、黒い靄がとりわけ発生しているところが明らかになった。手首にしているブレスレットだ。

「…。これは?」

侯爵が

「ああ、その隠者が、身代わりの術を施した時にさせたものだよ。命を繋ぐ重要な魔法が込められているから、絶対に取るなと。」

「…。娘さんにも同じようなものを?」

「いや、娘にはなにも。」

「そうですか。」


僕はその黒い靄を発生させているブレスレットを、アカシックレコードに鑑定させた。

「古代の黒魔術が込められたブレスレット。複雑な魔法陣が編み込まれており、一度つけたら外れない。外すには手首を切り落とすしかない。無理に外せば即死する。その場合、エリクサーも無意味である。」

くそ!

解除方法は?

「ひとつひとつの陣を解除するしかない。それには高度な術が必要である。」

サキ・ユグディオには解除可能か?

「…。不可能ではないが、現時点では失敗する確率、80パーセント。」

だめじゃん。

気を取り直し、世界樹の葉を患者が身につけてはどうか、と訊ねた。

「魔法陣の効果を弱め、発生する靄を少なくする効能あり。ただし根本的解決には至らない。」

とのこと。世界樹の葉でも駄目なわけ!?


とにかく、このブレスレットには誰も触らないように。わざと取り外そうとしてもだめだということは伝えた。

それから、僕の亜空間収納くんの中で、即席で世界樹の葉のペンダントを2つ作った。幻惑魔法で金の葉っぱに見えるようにしてある。

その一つをキキの首につけてもらった。

確かに黒い靄は薄まり、呼吸もさらに安定したようだ。


その後、隣のリリアーヌ嬢をようやく脈診させてもらった。

今は僕のエリクサーで脈も安定している。

こちらは特に装身具は付けていない。だが、やはり黒い靄が体から発生している。

「失礼ですが、背中を診察することは可能でしょうか。」

「それは…。」

だめだよね。

「では僕は見ませんので、メイドさんと奥様、ご確認いただけますか?」

ということで、ベッドにカーテンをして、僕は衝立の向こうでかつ後ろ向きで指示をだす。

「お背中は、普通ですか?」

「はい…。なにも変わったところはありませんが。」

「では今から、ひとつ呪文を唱えます。それは、隠されたものを明らかにする呪文です。変化があるか、見ていてください。」

と言ってから

「イ・ハロヌ・セクエトー。隠されし紋章、出現せよ。」

すると、

「きゃ!なにこれ!」

「そんな!」

「何か出ましたか?書き写してください。」

と言って文様を書き写してもらった。

それをみせてもらう。

その図は、山羊の頭を逆さまにしたようなもので、山羊は舌をだらりと出し、目は上向きで明らかに死んだ山羊の顔だった。

「あ、消えました。」

「はい。数分しかお見せできない呪文ですので。」


折しも、かかりつけの医者が到着したとの連絡が入った。

遅すぎますよ。


僕はリリアーヌ嬢にも首に世界樹の葉のペンダントをつけてもらった。

もちろん、「世界樹の葉」だということは明かしていない。魔除けの祈りを込めた貴重な葉っぱのアクセサリです、と説明している。これも決して外さないように、と侯爵様やメイド達に説明した。


僕達は二人の少女が今はすっかり安定したので、あとはお医者様とメイドさんにお任せして、近くの応接間に入った。


「なにがどうなったのか、君のわかる範囲で説明してもらいたい。」

と侯爵様。隣には奥方様。


「はい。まずおおまかに言うと、どちらも古代の黒魔術の呪い、です。」

「呪い…。教会の偉い方にも診ていただいたのだが…。呪いかもしれない、とは言ったが、はっきり言わなかった。」

「隠微の魔法が巧妙に編み込まれています。ですが、教会の偉い方が、黒い靄すら見えなかったというのは、ちょっと気になりますね。」

その方が、わざと見過ごしたのでは、という疑問がある。

「隠微の魔法が高度なので、「普通のお医者様」や「普通の魔術師」には、黒い靄が見えないのかもしれません。」

「サキ君は見えるのだな。」

「はい。僕は特殊なので。シンハは僕以上に見えますが。」

『くふん。』

一応シンハのアピールもしておこう。



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