433 アルシュ総長との会話
「まずはひとつ謝らせておくれ。旧ザイツの盗賊討伐の件だ。支部がすっかりスパイにいいようにやられていて、すまなかったね。君のおかげで僕も首の皮一枚で繋がった。ありがとう。」
ああ、あれですか。
「いえいえ。僕なんか。政治的ご判断というやつでしょうから。お気になさらず。」
すごく遠い昔のような気がするが、去年の話だもんな。
「本音をいうと、あれを機に引退しようかと思ったんだがね。王様にやめるなと言われてしまって。いまだにこうしているよ。でもそのおかげで、君にも会えたし、ありがとうが言えた。で、何か僕にして欲しいこと、ある?君を一回だけは無条件で手助けするという約束だからね。」
無条件で、なんて言った覚えはないが。
うーん。面と向かうと、何も言えないなあ。
「今のところは別に。というか、お土産を持って来ました。「さるお方」から、総長にお渡しするように言われて。お使いです。」
と言いつつ、例の「桃」をにゅっと出した。
「!わあ!なつかしい!ありがとう!うんうん!最近ね、「彼」が夢枕に立って、サキ君が来るから、ヨロシクって言われたんだ。息子なんだって?」
「あー。どうもそうらしいです。」
「ふふ。驚いたよ。僕は一応「御使い」の一人だし、これでも長生きなほうなんだけど、息子を紹介されたのは初めてだなあ。」
さらっと認めたよ。「御使い」だと。
ジュノさま、総長には全部暴露してるんだあ。僕を息子と紹介するなんて!
しかもそんな機密事項、さらさら言ってくる総長も凄いけど。
「ああ。良い香り!食べるのもったいない。種を植えて増やそうかな。」
などと、桃を撫でたり香りを楽しんだりしている。
味を知っているんだね。
「僕からもお土産です。せっかくなので、桃をシャーベット…氷菓子にしました。美味しいですよ。」
ときれいなガラスの器に盛った、桃のシャーベットを出した。
「ふわあ!器用だねえ!料理もできるんだ!すごいねえ!」
「結構「あの方」にも僕の料理…特にデザートが喜ばれます。お供えすると、一瞬で消えてまして。カラの器だけになってますです。」
「あはは。そうなんだ!結構「彼」、甘党なんだね。良いことを聞いた。…ふむ。美味しい!天にも昇るおいしさだ!…ああ、本当に。美味しい…。」
そう言って、幸せそうに味わいながら、ゆっくりゆっくりシャーベットを完食した。
「はあー。美味しかった。…さて。」
シャーベットを完食したあとで。
総長…アルシュさんが急に真面目な目になった。
「聞いたよ。この辺の浄化に来たんだってね。それと魔法の勉強。で、最終的にはゴウルに行くのかな?」
「…たぶん。そうなると思います。」
「ふむ…。とにかく、今は力をもっと蓄えることだ。今、魔力…MPはいくつだい?」
「えーと…」
「ああ、「神族」になったんだね。じゃあ僕と同じだから…2,3億くらいはあるかな。」
「え?総長さん、しんぞく?」
「水くさいな。「アルシュ兄さん」でいいよ。…うん。神族だよ。「彼」から聞いてなかった?」
「ぜんぜん!」
「まったく。「彼」は相変わらず言葉が足りないねえ。僕はずいぶん前に神族になった。僕も古龍を倒してそうなったんだ。ああ、おちびちゃんには聞かせたくなかったかな。」
古龍のハーフであるスーリアに、古龍討伐の話は可愛そうと、配慮してくれた。
「…。眠いみたいなんで。たぶん聞いてないかと。スーリア。魔力に入る?」
「キュアフ。」
そう可愛く啼くと、ふっと消えた。僕の魔力に入ったのだ。そしてすぐに眠ってしまった。
「可愛いねえ。」
「はい。同類を探しています。見かけたこと、ありませんか?」
「いや。白龍とのハーフだよね。白龍はずいぶん昔に見かけたことがあるけど。古龍はなかなかいないね。」
「そうですか…。」
「僕が討伐したのは相当黒い奴だったから。もういろいろ「手遅れ」で。倒すしかなかったんだ。でも世界は広いから、どこかに元気な古龍族もいるかも知れない。諦めずに探すことだ。北の魔族領なら、いる可能性は高いと思う。」
「なるほど魔族領ですか…。そのうち行ってみます。」
「うん。そのためにも、ゴウルで死んだりしないように、ちゃんと力をつけないとね。」
「はい。」
「聖獣くんは、今はなんという名前?」
「シンハです。」
「そうか…。会うのは初めてだけど、話は以前からちらほら聞いていたよ。白い獣が、なぜか吟遊詩人と一緒にいたとか、ドワーフの村を黒龍から救ったとか。」
「!そうなんですね!?」
「うん。実は僕は、「彼」のお願いを聞いて、しばらくの間、東方にいたんだ。そしてつい数年前に戻ってきた。黒龍の悪評を聞いて戻ったんだけど。奴め、「はじまりの森」の奥に逃げ込んで、それきり出てこなくなった。
次に出てきたら、討伐しようと思っていた矢先、新しい噂を聞いた。魔獣同士で戦って敗れ、死んだらしいと。」
「…」
「君たちが倒してくれたんだね。ありがとう。」
「…。」
やっぱりばれてましたか。
まあそうですよね。僕が身につけているものが、いろいろ黒龍素材ですから。
「僕が身につけていると、黒龍の「禊ぎ」にもなると聞いたので。なるべく身につけるようにしているんです。」
「そうだね。そうしてあげるのも「供養」の一環だな。」
へえ。「供養」なんていう概念が、この人にはあるんだな、と妙なところに感心する。ああそうか。東方にしばらく居た、ということは、日本に似た東方の島国にも居たのかもしれないな。
ではあの話題を出してみよう。
「最近、ようやく「メッシ」を手に入れまして。」
「おう!メッシ!懐かしいな。シンプルだけど美味しいよねー。」
「はい!そのメッシが、僕のソウルフードなので。もしさっきのお願いが使えるなら、東方の食べ物…ノリとかの海藻類や、ミソ、ショーユ、ブシダシ(鰹節)などが、いつでも入手できるようにしてもらいたいです。」
「おう。意外にそれは難しい願いだが…。よしわかった。なんとかしよう!」
「できれば、ライム商会を嚙ませていただければなおありがたいかと。」
「ふふ。わかった。えらいなあ。自分のことだけじゃなく、他者の幸福も願うとは。」
「え、いや…。いろいろライム商会長のレジさんにはお世話になっていますから。」
「そう。彼、個性的だけど、本当に切れ者でかついい人だよねー。うん。いいよ。僕も継続的に食べたいから、東の食材に配慮することにしよう。」
これ、今日一番の収穫かもしれない。
メッシと味噌醤油は、すでにグラントたちがせっせと作ってくれているが、味噌醤油は、たぶん東の島国でも地域でいろいろな味があると思うから、いくらでも欲しい。それとブシダシとかコブノリ(昆布)は、まだなかなか入手出来ないので、とても楽しみだ。
リアルが忙しい間に、いつの間にか八章が始まってました(´д`)
クセのある登場人物たち(「人」以外も)が次々出てきますよー。
お楽しみに。




