427 隊長とレジさん&レムーア到着
「凄かったわあ。こんなに採れるなんて!」
「明日も来たい!」
「明日はきっともう採れないぞ。」
「出発するから、でしょ?」
「ちがう。ダンジョンが、ヒットポイントを移動させるからだ。」
と隊長。
「え、そうなんですか?」
と僕。
「ああ。ダンジョン主からしたら、ミスリルもアダマンタイトも、「撒き餌」だ。冒険者がやってくるための。ダンジョン主的には、今日は大失敗だろう。こんなに俺たちに「ただ取り」されてよ。
獲物の魔力や命を貰うために、ダンジョンを作っているんだからな。」
「なるほど。そういう考え方もありますね。」
「でも、魔物は出なかったわ。」
「入り口だぜ。きっと、今までも見過ごされてきたんだろう。まさかあんな壁の奥を見つけられるとは、ダンジョン主も、思わなかったんだろうよ。」
「サキ君、ありがとね。」
「はは。」
「で、サキ君はどれくらい採ったの?」
「適当に。ですね。」
とごまかす。
皆は大満足。といっても、合計で1トン採った人は居なかった。レジさんがミスリルとアダマンタイトを合わせて500キロ採ったのが最高らしい。えーと。僕、合計すると4トン以上採ったけど…。言わないでおこう。
何ですか?テオさん。にやにやして。
採掘したものは、売ってもいいし、自分で武器を作る時のためにとっておいてもいいが、僕のような無尽蔵なマジックバッグを持っている人はいないので、此処で換金していくようだ。
だがもうギルドの出張所も閉まってしまったので、明日朝換金するらしい。
僕はすべて、売らずにため込みですがね。
野営はシルルが張り切って、今日は煮込みハンバーグにひよこ豆ともち麦入りのシザーサラダ。魔鶏のゆで卵入り。パンは炙ってバターとブルーベリージャムを添える。
エールは1杯だけ。おつまみに小魚の干物を焼いた。
「毎回、野営の飯が美味えなあ。」
「ほんとよね。ロイ、覚えた?あたしは作れないから、よろしく。」
とセイさん。
「なんで僕なんですかー。無理ですよう。」
「ふふ。アタシが手伝ってあげるわ。結構覚えたのよ。これでも。」
と、デザートのイチゴをつまみながら、レジさんが言う。
「家では結構作るのよ。アタシ。」
「そうだな。」
と隊長。
「たまーに、塩と砂糖と間違えるけどな。」
「あ、あれは、不可抗力よう。お塩の壺に、貴方が砂糖入れちゃってたんでしょうに。」
「ふふ。仲いいんだ。」
とアンネさん。
こほ。
「…。まあ、よく泊まるからな。オレは。」
と隊長が開き直ったように言った。
「「「……」」」
!あれー?
なんか、微妙な雰囲気。
「(ねね、テオさん、もしかして…。)」
と僕は二人から遠いのを良いことに、こそこそとテオさんに聞く。
二人はそういう仲なのかと。
「(うん…。たぶんね。)」
!驚いた!旅もほとんど終わりかけなのに、今頃気づくなんて!
僕は鈍感すぎますか!?
「(まあ、はっきり言われたわけじゃないけどね。)」
どうやら半同棲的なパートナーらしい。
びっくり。でも、なんか言われてみると、お似合いかもしれない。
オトナの世界はいろいろあるんだなあ。
としみじみ思った。
『俺は最初っから気づいてたぞ。』
と半分寝ているシンハが念話で言った。
「(そなの?)」
『パートナーだと、どうしても相手の匂いが付きやすいからな。』
なるほど。においですか。
「こほん。じゃあ、そろそろ、僕は寝ます。当番は朝方ですよね。」
「ああ。セイとだな。よろしく。」
「はい。お先に、おやすみなさい。」
「「「おやすみー。」」」
皆さんに挨拶して、テントに入った。
すでにシルルは奥でスーリアと一緒に寝ている。
でも僕は、お風呂に入っても、シンハをブラッシングしても、寝床に入っても、なんだか落ち着かず、そしてなかなか寝付けなかった。
やはり、コワモテ隊長とレジさんの事があまりに衝撃的で。
いや、それより、それにまったく気づかなかった自分に、ショックだった。
「(僕は、見ているようで、全然まわりを見ていないんだなあ。)」
子供の僕に気づかせないほど、二人はオトナで。そして空気のようにお互いを信頼しているのだろうな。
そして、見える事象…言葉や態度でわかることは、そのひとのごく一部であって、たとえば護衛のメンバーそれぞれに、きっとそれなりの重い過去もあって。でも、それを背負って皆生きているんだなと、少し哲学的に考えこむ僕なのでした。
ディアナ村の遺跡ダンジョンで採掘イベントをこなし、野宿すると、ミーゼンシア伯爵領を出て、次はムーアン男爵領の領都レムーアに入った。
ここで11泊目。
ここまで来ると、都ぶりというのだろうか。
なんとなく平民でも着ているものが垢抜けている、ように見える。
そして、ここでもアラクネ布は大流行で、男性はタイのように細くしたものを身につけていたり、ストールの幅のままで地味目の色を腰に巻いたりしている。女性はストールをストールとして使うだけでなく、スカートの上から腰に巻いたりもしていて、アレンジを楽しんでいる感じだ。
なるほど。これは本当に大流行なのだなとしみじみ思った。
僕や辺境伯様が大量にアラクネストールを放出したので、価格もかなり下がっている。
だが庶民にはかなりの高嶺の花。
それでもこれだけ大流行というのは、保温性や防御性もすぐれているからだろう。
レムーアには支店があって、大きな倉庫には、馬車ごと入ることができる。
馬たちは馬車から外すと厩へ。
宿泊施設も完備。
バスタブが各部屋に付いているという豪華な仕様だ。王都に入る前に、旅の垢を落として、さっぱりしゃっきりしてから王都に入る、ということだろう。
でも、僕はシンハと入りたいので、そのバスタブをちょいと収納し、夕食前に自前のバスタブに浸かる。
『俺は入らなくともいいんだぞ。』
「またまた。結構風呂好きなくせに。」
『お前にそうしつけられただけだ。』
「ふふ。ふうーやれやれ。やっぱり宿屋だと、野宿より落ち着くね。」
『まあな。周囲を警戒しなくてよいからな。』
「うん。此処はライム商会の支店だし、結界も張ってあるしね。」
今日は護衛最後の夜となる。王都に入れば、王都の本店に馬車をつけ、荷物をおろせば任務は完了。そのまま流れ解散。僕とテオさんは王都ギルドに寄って、完了報告をし、報酬を受け取れば終了だ。
もっとも、僕はさらにレジさんと一緒に、とある病気の貴族のご令嬢を訪問することになっているが。
ともかく、今夜は一応皆で揃って最後の夕食なので、お疲れ様の宴会が予定されている。
『今夜はワイバーンがいい。』
「いいよ。護衛最後の夜だからね。お疲れ様。」
シンハの体にお湯を掛けてやりながら、承諾した。
『素直だな。いつもそうだとかわいげがあるのだが。』
「まったく。一言多い。」
『ふふ。』




