42 梅雨の季節は発明の季節 後編
僕はシンハに宣言すると、土魔法でゴム長の型を作った。
底も滑り止めに靴底らしいでこぼこの模様を付ける。
そして煤で黒くしたスライムゴム溶液に浸すようにしてたっぷりスライムゴムをかけ、即、時短で乾かす。
すると、見慣れたゴム長ができた。
中の型は魔法で崩し、内側に麻布を張って快適性を増す。
「できた!本格的なゴム長靴の完成です!わーい!」
『ほう。なるほどな。確かに水をすっかりはじくのだな。これなら安価にできるし、何足もすぐ作れそうだな。』
「あ、そうか。僕、もし将来お金に困ったら、これ作って売ろう。材料は水スライムと雑草のベラン草に魔力少々、あとは煤だけだし。結構儲かるかもね!」
『それならその前にちゃんと特許を取らんとな。』
「へえ!此処にも特許制度があるんだ!」
『ああ。あるぞ。神との契約だから、不正は出来ない仕組みだ。』
「!神様との契約!?って世界樹と契約ってこと?」
『厳密に言うと、世界樹から契約について任されたミルトールという神が、あらゆる契約を見守っていると言われている。』
「へえー。じゃあ特許は神聖な契約なんだね。」
『そうだ。』
「だれでも特許申請できるの?」
『基本的にはな。だが普通は商業ギルドに登録してから申請する。それがいろいろ面倒ではないからな。』
「なるほど。しかし、ほんっとうにシンハって物知りだねえ。」
『昔、セシルやレスリーも特許申請をしていたから知っているだけだ。』
「ん?レスリーさんは賢者だからいろいろ発明して特許を持っていそうだけど、セシルさんも?」
『ああ。吟遊詩人も商売だ。商業ギルドに登録して、歌詞と曲を登録する。真似たりセシルの歌を演奏するのは広く許されているが、自分が作者だと名乗れば罪に問われる。』
「ああ、なるほどね。」
どうやら地球上よりはずっとゆるい規定らしい。だが神様が見ているから、確かに不正は起きないだろう。
「じゃあ、すっごく良く似た曲とか、歌詞を変えて歌った時は?」
『それを登録しようとすれば、原曲がセシルだと神が教えてくれる。だから不正はない。』
「なるほどね。神様なら、似ているかどうかもわかるんだね。へえー不思議。」
僕はこの世界でも音楽に契約があって、それに神様が絡んでいることが不思議だった。それに気を取られていると、なにかシンハがぶつぶつ小声で言っているのを聞き逃した。
『俺に言わせれば、お前の亜空間収納ほど不思議なものは無いがな。』
「え?なんか言った?」
『いや、なんでもない。今日はあとは何か作るのか?もうじき日が暮れるぞ。』
「今日はもうお仕事終わり。ゴム長が大成功だったからね。ワイバーンでも焼こうか。お祝いだ!」
『うむうむ!それはいいな!』
しっぽがぶんぶん振られていて、シンハはご機嫌だった。
「霧も晴れたみたい。外で焼こうか。」
『おう!』
洞窟でそんな会話をしながら外にでようとしていると、ふと森からなんかが固まりで飛んでくるのが見えた。
妖精達が固まりになって飛んできた。
「サキ!サキ!あたしにも作って!これ!」
「グリューネばっかりずるいよ!」
「なに言ってんだ。俺サマはサキに協力したからそのお礼で」
「シンハ様の洞窟に図々しく入り込んだからでしょ。」
「私たちだって来たかったけど、ずうっと遠慮してたんだから!」
「そうだそうだ!」
「ねえ、ほしい。作って!」
「サキ、お願い!」
勢いがすごくて、また洞窟内に逆戻り。
「た、頼むから耳元で叫ばないで。あー髪とか服とか引っ張らないで!」
と僕が困っていると
『うるさいぞお前達!!消されたいか!!ガウ!』
とシンハが殺気を込めて吠えた。
ぴたっと静かになる。
そしてススススッと皆壁際まで下がった。
青ざめている。
逃げ遅れたグリューネが、一人取り残されて、目の前のシンハにギロリとにらまれた。
ぽたりとスーパーボールを取り落とす。
ポーンポーンといい跳ね具合でスーパーボールは跳ねた。
僕はそれをキャッチし、震えるグリューネをそっと肩に乗せてやって言った。
「みんな、これはグリューネが僕の実験に協力してくれたお礼なんだ。だからそう簡単には作ってあげられない。」
というと、皆とてもがっかりした顔をした。
「でも、確かに此処に来るのを遠慮してくれていたってことはわかった。協力してくれてたんだね。ありがとう。」
と言って頭を下げた。
「じゃあこうしよう。みんなにも協力してもらっていたようだから、スーパーボールはいくつか作ろう。でもそれは、誰か特定のひとの物では無くて、みんなで一緒に遊ぶための物だ。これはグリューネだけのもの。でも、グリューネ、みんなにも貸してあげてね。」
「わ、わかった。俺はそれでいい。」
「うん。他のみんなは?」
「わかった。」
「それでいいわ。」
「うん。みんなで使う。遊ぶ。」
「よし。じゃあ、ちょっと待って。すぐ作るから。」
そう言って。まだ亜空間収納にある残りのゴム溶液で、大きさの違うもの、色の違うものをいくつか作った。
「わあ!」
「きれい!」
「ありがとう!」
「サキ!ありがとう!」
皆色とりどりのスーパーボールにはしゃいでいる。
グリューネ用には、薄緑色だったスーパーボールの外側に緑色のグラデーションの帯を加え、さらに河原の石から抽出しておいた金を粉にしてまぶし、特別感を出してみた。
「はい。これはグリューネの分。」
「!すげえ!きらきらだ!」
「わあ!すごい!」
「グリューネのが一番きれい!」
「そりゃそうさ!大手柄だったんだから!」
と得意げなグリューネ。
「特別みんなにも貸してやるよ!」
と急に寛大さも見せる。可愛いな。
「ふふ。みんなで仲良く遊ぶんだよ。」
「「はーい!」」
ようやく一件落着だ。
「そうだ。これから食事をするんだ。みんなも食べてく?ポムロルパイもあるよ。」
「「わーい!!」」
霧が晴れたので、今日は外でバーベキュー。
いつも畑を手伝ってくれる妖精達も呼んで、皆とバーベキューをしたり、妖精達が大好きなポムロルパイ(アップルパイ)を食べたり、スーパーボールをして楽しんだ。