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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第七章 王都へ 出発編
416/491

416 エルファン伯爵領は道が悪い

戦闘終結後。

盗賊団はすべて死んだ。


味方の怪我人はと見たが、ほぼ無傷。

少しの打撲や擦り傷は、ロイさんと僕とですぐヒールしてあげた。

エリアヒールで一発だが、それではロイさんの面目が立たないので使わなかった。


広場の右脇に、皆が無言で遺体を引きずっていく。

アンネさんは遺体を浮かして移動させていた。

「ものを浮かす」のはユリアにも教えた古代魔法だ。

こんな使い方もあるんだな、と思った。


広場の脇をよく見ると、藪の中に墓が複数あった。

きっと、同じようなことが何度もあったのだろう。

さらにその奥に、大きな穴を掘り、馬と人の遺体を入れる。馬も人も、なるべく丁寧に並べた。

そして、僕とロイさんとで、祈りを捧げ、類焼しないように結界で覆ってから、僕とアンネさんとで焼いた。時短のために、サラマンダにもこっそり手伝って貰った。

黒い靄を纏った人の魂の粒が、たくさん昇っていった。


夜が明けてきた。

ドラフテッドさんたちは、埋葬後、我々に丁寧にお礼を言って、ヴィルドに向けて出発していった。

護衛の若者二人は、まだ青い顔をしていたが、隊長が、お前達は冒険者としてよくやった、胸を張れ、と激励していた。

彼らが今後も冒険者をするかどうかはわからない。

続けていれば、きっとヴィルドかどこかのギルドあたりでまた会うだろう。


彼らを見送ってから、我々もすぐに出発した。

あんな斬り合いをした戦場には、もう居たくない。

野営地を離れる前に、戦場となった広場を、僕とロイさんとで祈り、清めた。

妖精の幼体たち…つぶつぶが飛んで来たので、効果はあったと思う。


朝食は、当然あそこでは食べたくないので、少し行ったところでようやく、あっさりしたものを食べた。

食べたら少し、気分も晴れて、冗談も言えるくらいに雰囲気が戻った。

それに、皆眠くて仕方がない。ほぼ徹夜だったからな。


「ふわーあ。」

「眠い。」

皆、すっかりお疲れモード。

「だらしないですねえ。」

と元気なのはセイさん。

「オラたちは寝たからな。」

とゴットさん。

「…」

相変わらず寡黙なミハイルさん。

その3人が御者。あとは全員、荷台に乗り、荷物の隙間で爆睡している。

隊長も、である。


僕はレジさんと同じ馬車の、クッションのいいところで、やはり窓に寄りかかって寝ていた。

寝顔を見られたくなくて、フードを深く被り、かつ手ぬぐいをかけている。

シンハは馬車の上でお昼寝。

ミケーネはテオさんと荷台で寝ていた。


生きている馬は、すべて引っ張ってきている。8頭。

次の町で売る予定だが、旅の終わりまで、レジさんと相談して、僕用に1頭借りることにした。

他の何人かもそうするようだ。


ほどなくエルファン伯爵領に入った。

伯爵領にはいって、明らかに変わったことがある。

道だ。

ヴィルディアス辺境伯領では、どんなに田舎でも、この街道だけは石畳だった。しかし、エルファン伯爵領に入った途端、道が普通の土の道になった。

なるほどね。これではヴィルディアス辺境伯の評判があがるのも道理だ。

晴れている日はいい。だが長雨になると、道はぬかるみ、轍が深く残る。

馬車は揺れ、荷は崩れ、品物が壊れる。酒樽が壊れれば、布製品には酒ジミができたりもする。


ここに来て、荷台に敷いたり、荷箱の間に挟んだぼろ毛布が、効果を発揮し始めていた。

なるほどね。生活の知恵だ。箱や樽も、しっかり丈夫な紐で縛り、荷台に固定されている。こんなふうに配慮できるからこそ、ライム商会の品質は良いと、いわれるのだろう。


揺れのせいもあって目をあけると、すでにレジさんも起きていた。

レジさんに聞くと、土なのはこの領内の、領都ベルンカーフ以北だけで、あとは王都までずっと石畳だという。


「貴族って面倒なのよね。ネリちゃんが、王都とヴィルドを結ぶヴィルディアーノ街道は、すべて石畳にしたい、経費は支援するからと言ったら、子爵達は喜んで同意したのに、伯爵達は断ってきたの。

自分の領地だから、支援は不要って。まあそこまでは、伯爵なんだから当然かなと思う所なんだけど。

ところが、裕福なミーゼンシア伯爵領は、粛々と自分のサイフで石畳を完成させたんだけど、このエルファン伯爵領だけ遅れているのよ。」

「なるほど。」

「しかも、自分の領都ベルンカーフと王都に向かう南側はさっさと作ったくせに、北側…つまり、ヴィルドに向かう方は、まだ着手もされていないわ。あんまり長引くと、それだけ恥をかくのは伯爵自身なのにねえ。わかっているのかしら。」

「なるほどねえ。」

道にもそれなりに裏事情があるんだな。


昼休憩になり、ようやく皆が起きてきた。

「盗賊って、毎回あんな感じなんですか?」

お茶を飲みながら、隊長に訊ねると

「まあな。辺境伯領で出たのは久しぶりだな。」

「根城はどうするんですか?」

「次の大きな街…ベルンカーフで、ギルドにチクって終わり。あとはギルドがレイドを組むか決める。」

とゲイツさん。

「…」


「辺境伯領なら領主様が絶対潰すだろうが、此処じゃなあ。たぶんレイドも組まねえんじゃねえか。」

「なんか。むなしいですね。」

「うん?」

「だって。こっちはたまたま、ほぼ無傷でしたけど。殺されたかも知れないのに、泣き寝入りだなんて。」

「若いねえ。」

「むう。」

「まあ、世の中なんか、そんなもんさ。貴族が死んだりしたら、動くだろうけどよ。平民が襲われても誰も知らんふりさ。」

と隊長。じゃあ、レジさんが死なないと駄目ってこと?あ、僕も一応貴族だったか。

「ますます理不尽。」

「「若いねえ。」」

口をそろえて言わないでよ。むう。


午後ものどか。さすがに皆、目は覚めた。

レジさんからで、徒組は、馬に乗りたければ、王都まで乗ってもいいとのこと。

僕は、おとなしい子を選んで、乗っていくことにした。

「よろしくね。」

と念話と小声で挨拶したら、

「あら。よろしく。ぼうや。」

といわれた。雌なので。


「ぼうやはやめて。僕は、サキという名前だよ。姉さんに名前はある?」

「ないわ。でも「アネゴ」って呼ばれてた。嫌だったわ。」

「そう…。「姉さん」で良い?」

「いいわ。上品ね。気に入ったわ。」

だそうです。


同じく、徒だった副隊長のゲイツさん、テオ、魔術師のアンネさん、そしてロイさんも、馬に乗っている。

盗賊団が出たので、警戒度を1ランク上げた感じだ。徒より乗馬のほうが、盗賊相手には有利ということだろう。

熊のゴットさんだけが歩き。

「魔馬ならともかく、普通の馬では、おらっちが乗ったら潰れるで。それに、おらっちも、歩きのほうが楽だ。」

とのこと。

大きな斧も荷台に置かず、ほぼ担いだままだ。

斧だけでも重そうなのに。

「ゴット。疲れたら、遠慮せず荷台に乗れよ。」

と隊長が声を掛けていた。意外にやさしーなあ。


馬を得た者が御者をする時は、御者が交代してその馬に乗る。

番頭のルクレさんだけは、基本はずーっと御者。しかも先頭馬車の御者だ。

道案内も兼ねているからだろうが、実は一番危険。なので、結界石を持っていて、いつもロイさんがそれに魔力を補填してあげていた。

ルクレさんが休憩したい時には、ミハイルさんが先頭に乗る。3台目は護衛の誰かが御者を変わる。僕とテオさんがほぼ2台目馬車の専属だが、時々ゲイツさんが乗る。


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