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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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41 梅雨の季節は発明の季節 前編

梅雨の季節になった。

このあたりはまるで高原のような気候で、朝は霧が出たりはするが、何日も大雨になる、という感じではない。梅雨は短いらしい。

それでもやはり、一日中しとしとと雨が降る日もある。


畑は仲良しになった土妖精の一番くんを中心に、妖精チームが助けてくれる。

水やりは、今は梅雨なので、雨の日はお休み。晴れが続いても3日か4日おきくらいでよいそうだ。むしろ魔素がたっぷりあったほうがいいらしい。

10日ごとに収穫なので、毎日なにかしらの野菜や果物が収穫できる。

本気で多いなと思ったら、苗を抜いて亜空間収納で寝かせておけばいいのだが、いくらでも保管できるから、今のところ、順調に収穫してはまた植え付けを繰り返している。


最初は僕とシンハの分の食糧をと思って作った畑だが、今では妖精さんたちや、湖の精にも料理や果物のお裾分けをするので、いくらあってもよいのだ。

特に果物やお菓子は妖精達にも人気で、僕の魔力を浴びて成長した果物だけでなく、僕が作ったお菓子も、とても美味しいとお墨付きをもらっている。

魔蜂のハチミツが使えるようになって、甘味については飛躍的に改善された。

太らないように注意しないといけないくらいだ。


さて今日は、朝から霧が降っていたので、畑での収穫を終えると、早々に洞窟に戻った。

こんな日は、亜空間収納で薬草を整理したり、調味料を作ったり、なにかしらの道具を作ったりしていることが多い。

まだ雨用のカッパを持っていないが、全身を結界魔法で包めば雨を防げるので問題ない。

ただ、足元は濡れなくとも地面が予想外にぬめっていたり沈み込んだりするので、まずは長靴が欲しいなと思った。

革のブーツは最初から亜空間収納に入っていたやつ。

鑑定するとなんとワイバーン革製だった。

シンハに聞くと、ワイバーン革製は、買えば相当高いとのこと。

でも今、雨の時に履くならこれしかない。

さすがのワイバーン革も、長時間履いているとじわじわと雨水が染みてくる。

雨を弾くには柿渋という手もあるが撥水性は弱い。

獣脂を塗っても限度がある。

できればビニールかゴムでコーティングのようなことができないだろうか。


シンハに聞くと、この世界にゴムはなさそうだ。

ビニールなどさらにない。

重油、つまり燃える黒い水が見つかっていないらしい。

そこでいろいろ考えたのだが、スライムの体液を煮詰めたらどうかということになった。


スライムは核を破壊されると死んでしまう。逆に核があれば多少体液が減少しても生きていられるそうだ。

スライムは、魔獣の中でも最弱といわれる。

弱い魔獣は、この森の中心部では生き残れないというのが常識だ。なのに、スライムだけはこのあたりにも生息している。そういう点では不思議生物だ。弱すぎて、誰も相手にしないということだろうか。謎である。


スライムの体液は、とろみがあるので化粧水にも使われているそうだ。

化粧水に使えるスライムは水スライムか聖属性のスライム。それと緑スライム。水スライムは化粧水の原料としてなんとなくわかる。透明だし。聖属性は殺菌作用かな。聖属性は珍しいらしく、確かにあまり見かけない。緑スライムはオーガニック系ということだろう。

ちなみに僕の作ったローションは、魔素水とメルティアにオリーブオイルだけで、スライムの体液はいれていない。今度入れてみようかな。しっとりしそうだ。

火スライムは暖かいので携帯用カイロに使えそうだが、まだ発明されていないそうだ。


スライムの体液に、漆に似た性質のトカラム(別名ニセウルシ)という植物の樹液を混ぜ、魔力を加えると、接着剤として使える。これはかなり堅牢だ。仮にこれを偽漆スライム糊と呼ぼう。

この糊は楽器シターレを作った時に使ったものだ。

魚の煮こごりや魔兎の煮汁からとった(にかわ)にスライムの体液を加えてもいい。必ず接着剤をイメージして魔力を加えること。そうすれば、柔軟だが堅牢な接着剤になる。こちらは膠スライム糊とする。

強度は、麦糊<膠<膠スライム糊<偽漆スライム糊 の順で強くなる。


本当の漆はこの辺りにはないが、東の国にはあるとグリューネは言う。

漆は一度固まるとかなり長期で接着されるので、偽漆スライム糊よりも堅牢。だが柔軟性はない。

膠スライム糊や偽漆スライム糊はまだ発明されていないらしい。

あっても良いのに不思議だ。

シンハによると、スライムの体液が化粧水に使えることが発見されたのも、まだ日は浅くて、せいぜい数十年だそうだ。


さて、僕はスライムの体液を煮詰め、それを亜空間収納内で魔力を加えて捏ね回してみた。

すると、まるで水飴のようにどろっとしたネバネバする液体が生まれた。

鑑定すると

「???:スライムの体液を熱変成させたのち、魔力を加えて練ったもの。水に溶けず、伸縮性、弾力性、撥水性が生じる。固化しにくい。」

という結果になった。ゴムには近くなったようだが…。


溶液を取りだして、ねりねりしつつ

「うーん。固まらないんじゃ使えないよなあ。」

とつぶやくと、興味津々で僕の作業を見ていたグリューネ(こいつはよく僕とシンハの洞窟にも平然と入ってくる。)が

「固めたいのか?ならベラン草はどうだ?」

と教えてくれた。

「ベラン草?」

「ああ。そのへんに生えてる草だよ。食べられないけど、何かに混ぜて固める時に使うんだ。俺たちは家を作るときに使ってる。草の汁を塗るんだ。」

「へえ。試してみるか。」


ということで、霧が降っているがたいしたことはないので、森に降りていく。

たしかに「ベラン草」で索敵すると、あちこちにある。

これまで雑草扱いしていた草だ。

十二分に亜空間収納に採取して、また洞窟に戻る。

収納内でクリーンしてから取り出す。

草の汁を抽出するということで、粉砕して布で漉した。


緑色の液をさきほどの???なスライム液に混ぜてみる。すると

どろどろからやがて固まり始めた。

「おおー!」

亜空間収納で時短する。

一応しっかり固まったようだ。取り出して鑑定する。

鑑定結果は

「????:熱変成および魔力変成させたスライム溶液に、ベラン草の汁を混ぜたもの。伸縮性、弾力性、撥水性がある。固まってもそれらの特徴は維持されている。」

と出た!


鑑定さんに

「地球上でのゴムと同じか?」

と質問した。

「地球上でのゴムに類似するが、ゴムより熱に強く、燃えても異臭がしない。」

だそうだ!優秀じゃん!


「やった!グリューネ!ありがとう!大発見だよ!凄い!天才!」

と小さな手を取ってダンスをする。

「そ、そうだろ?俺サマは天才だからな!」

と言いながらも、いまいちよく解っていないようだ。

とにかくめでたい。

僕はこれを「スライムゴム」と名付けることにした。


その後、あらためて実験し、魔力を加えることは必ずしも必要ではないが、加えることでより強度が増すことがわかった。また、ベラン草の汁を加えるため、ゴムは薄緑になるが、他の色素(例えば墨とか)を加えれば、問題なく染まることもわかった。


スライムゴムでまず作ったのは「スーパーボール」。やたら跳ねるあのゴム製のおもちゃだ。

それで弾力性を見る。すると地球のスーパーボールと同じ動きをした。グリューネにはお礼にこのおもちゃを進呈した。すっごく喜んで、仲間に見せに飛んでいった。

耐熱性は、ゴムより強いようだ。燃えにくいし、熱で溶ける時にゴムのような嫌な臭いもしない。

さて、これを革などに定着できるか。

僕はワイバーン革のハギレを取りだし、亜空間収納で作ったばかりの固まりきれていないスライムゴムを薄く塗ってみた。

時短で乾かしてみる…。

うん!いいね!

スライムゴムは優秀だった。

くいつきもよく、革の皺まで入り込んで、重ね塗りもできる。重ねればきれいなエナメルのような艶まである。

あとは耐久性。

亜空間収納内でうんと冷やしてみたり、逆に熱してみたり、天日に当てて鑑定してみたりといろいろと実験した。

その結果、地球上のゴムよりも、さらに優秀なものだとわかった。


スライムは子供にも討伐できるという最弱の魔物とされている。

ベラン草は雑草だ。

それなのに、こんなに有用な活用方法があったなんて!

鑑定さんによると、スライムの体液加工は、強火でしてはいけない、と言われているそうで、煮立たせたらだめになると思われていたらしい。それにベラン草なんて、無用な雑草とばかり思われていたわけで。

無用なものから有用なものを生み出す。まさにこれぞ錬金術の醍醐味ではないか!


とにかく実験は大成功。

僕はワイバーン革製のブーツの表面にクリーンをかけ、塗り重ねた獣脂を取り除いた後、スライムゴムを塗布してみた。

結構どきどきしたが、無事成功。

つま先とかかとには補強とデザインのため革が重ねて張られているが、この補強革にはほかより重ねて塗り、エナメルのようにした。ほかは革の風合いを残す程度で済ませた。それでも撥水はばっちりだ。

「どうよ。結構カッコイイよね!」

『ふむ。雨用とはもったいない気もするな。』

たしかに、このブーツは編み上げ紐靴なので、水たまりに入ったらどうしても濡れてしまう。

「へへん。まだまだ終わりじゃないよ。今度は本当の雨用ゴム長靴を作るからね!」



後編は一時間後にUP予定です。

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