408 手始めのゴブリン退治
今日から新章!
いよいよ王都へ向けて出発しました!
僕達は、レジさんの護衛となって、王都へ向けて出発した。
天気は上々。うらうらと暖かい。
畑には、春に飛ぶシロモンチョウやキモンチョウ、シマチョウが飛んでいた。
最初の休憩地点で、馬を休ませる。
今回は、僕がかなり亜空間収納で運んでいるので、荷馬車は軽い。
貴金属類の半分を持たされただけでなく、高価な酒の入った木箱や、アラクネ布の一部、それから飲料水や腐らせたくない生ものなども、選んで収納している。
レジさんは僕がスタンピードの時、荷馬車1台分をまるっと収納したことを知っているようだった。
それで貴金属のほかに、水や食糧などの重量物も依頼されたのだった。
もちろん、僕は快諾している。
貴金属類を僕に半分も持たせているところは、僕をかなり信頼してのことだろう。残り半分の貴金属類は、レジさんがマジックバッグで持っている。
荷馬車には、アラクネ布や普通の布製品、魔獣の革、お酒の樽や食品の箱など。主にかさばるものを乗せている。
アラクネ布だって、宝石なみに貴重なのだが、普通、マジックバッグは荷馬車1台分入れば、相当高価なのだ。
僕の亜空間収納がぶっ壊れ性能だということを、今更ながらに思い知る。
『どうだ?お前の亜空間収納が、いかにとんでもないか、思い知っただろう。』
とシンハ。
「うう。そうだね。」
お菓子のつまみ食いで、ちょっと気持ち悪い。酔ったかな。初日の午前中から自分にヒールするなんて。
休憩後は、テオさんと交代して、僕が御者席へ。するとシルルが隣に乗って来た。
「(飽きたの?)」
こっそり念話で聞くと、
「(香水、ちょっとくちゃいでしゅ。)」
あはは。だよねー。悪い匂いじゃないんだけどね。それに結構、控えてくれてるようだけどさ。それでも妖精にはキツイか。
さっきも窓、開けてたし。
テオさんは、ミケーネと歩きで護衛。
本当にのどかな一日目…
うん?前方に、魔力を感知。
シンハもちょっとぴりっとした。
『ゴブリンだな。』
「うん。隊長!」
ナナメ後方に居る隊長に声をかける。
「ああ。俺も感知した。おそらくゴブリンだ。6、7匹か。」
「いいえ。隠れているのがあと4体、計11体ですね。」
と僕。
「ほう。感度いいな。」
いやいや、僕やシンハとほぼ同時くらいに察知できた隊長こそ、人を辞めてるでしょう。
「止まれ!戦闘準備!前方にゴブリンの群れ!数約11!弓、目視後直ちに放て!」
「「了解!」」
護衛の皆がそれぞれ戦闘態勢に入る。
僕は屋根にひらりと乗った。
弓を構えるが、少し様子見。
この護衛隊が、どのように戦うのか見たい。
弓は副隊長のゲイツさんとエルフで魔術師のアンネさん。それと僕だ。
7匹がまず走ってくる。
ピュン、ピュンと風切り音をさせて、二人が矢を放った。ゲイツさんは放物線。アンネさんはほぼ真っ直ぐ。魔力を乗せているからだ。
すべて命中で、4匹に当たった。各自2匹ずつ。さすが。
だが、隠れている4匹はさすがに無理のようだ。
僕も数秒遅れて発射。
ゲイツさんたちと標的が被らぬように注意し、まず目視の2匹に命中。即死。
目視できている1匹と、矢にあたりながらも立ち上がった1匹が、走ってくる。それから隠れていた4匹のうち3匹が走り出た。合計5匹が襲ってくる!
僕はまだ木に隠れて矢をつがえている、残りの1匹を狙って、追尾の矢を放った。
即死。ザザザッと音を立てて、木から落下。
残り5匹は、副隊長、セイさん、さらにテオさんが
「私が出る。」
と言って抜刀して向かった。
残りは馬車の回りを固める。
前衛3人で4匹をあっという間に仕留めたが、1匹、手傷を負いながらもこっちに走ってきた。
「そっち行ったぞ!」
「任せろ!」
と熊のゴットさんが飛び出し、一撃で倒した。熊獣人だが、やたら素早い動きだった。
ああ、アンネさんがバフをかけたんだな。
隊長とレジさんは動かず。ミハイルさんもルクレさんも動かず。
ゴブリンだからな。このメンツなら過剰戦力だ。
ちなみに、護衛の面々は、隊長がSランク、副隊長とゴットさんがA、他はBとのこと。うーん…。僕なんかいらないよね。
「ほう。眉間が2匹と…『追尾の矢』か。やるな。」
と僕が仕留めたゴブリンを確かめて隊長が言った。
「さすが血塗れ。」
とゲイツ副隊長。
「それ禁句。…焼きますよね。」
「ああ。」
「穴、掘るわ。」
「僕も掘ります。」
アンネさんと一緒にディグ。
倒したゴブリンを、他の者たちが集め、討伐部位を取って穴に落とす。
「焼くのは僕が。」
「火力、結構魔力使うけど、いいの?」
とアンネさん。
「大丈夫です。…ファイア。」
僕はいつものように杖を出し、火を付け、ゴブリンたちの魂が迷わず地脈へ行くようにと祈る。
黒い靄を纏いながらも、無事に昇天していった。
僕の隣で、ロイさんも祈っていた。
あとは穴を消火して、土をかけて終了。
戦闘開始から10分くらいだろう。
皆手早い。さすがだ。
「ごめん、1匹逃して。」
とセイさん。
「いや、結構すばしっこかったからな。気にするな。連携はばっちりだったぜ。」
と副隊長。
ちゃんと精神的フォローもしているんだな。いいチームだ。
「にしても、よく見えたな。サキ。」
と隊長。
「えらいえらい。」
とゲイツ副隊長が子供扱いするので、
「まあねー。」
とおどけると
「言ってろ。」
とゲイツさんが笑った。
隊長もフフン、と笑ってるよ。ちぇ。
なんですか?テオさん。にやにやして。
『この護衛たちなら、どうやら俺の出番はなさそうだ。12日間、のんびりさせてもらおう。わっふ。』
と、あくびをしているシンハ。
まったく。王様は余裕だね。
「それにしても、この辺でゴブリン11体はちょっと多いすね。」
と副隊長がひそひそと隊長と話している。
「例のスタンピードの余波らしい。」
え、どういうこと!?全部ヴィルドに向かわせたよね。
ミスったかと一瞬焦ると、シンハが言った。
『俺たちが駆けつける前に、離脱した連中だろうな。大物がはぐれていれば、今頃大騒ぎになっているはずだが、それは聞かない。ということは、せいぜい魔狼かゴブリンだ。さっきの奴らも、あれで群れ全部だろう。』
「だといいけど。」
『心配なら、俺とミケーネであたりを見回ってきてもいいぞ。』
よほど動きたいのだろうな。
『ただし昼飯のあとだ。』
「(りょーかい。ヨロシク。)」




