表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第六章 世界樹編
407/533

407 閑話 スーリア、初めての…

2つめの閑話。

世界樹に会って、森へも行ったあとの、サキたちのひとコマ。

きゅぴ、きゅぴ、きゅぴ

スーリアの声が聞こえたので、僕は調薬の手を休め、庭を見た。

何か歌を歌いながら、スーリアが庭をよちよち歩いている。

きゅ?

歌が止んだと思ったら、小首をかしげて、じっと地面を見ている。

蟻の行列を見つけたらしい。


うちのお嬢様は、かわいい。

蟻の行列を見つけても、攻撃もせず、じいっと見ている。

龍っぽくはないな。

雌だからだろうか。

性格はおとなしいし、おっとりしている感じ。


龍に見られている蟻とすれば、気が気ではないだろう。

きっと、急いで巣穴に戻る途中だろう。


ちなみにシンハは庭に続くテラスでひなたぼっこ。

うとうとしながら、スーリアをみてくれている。

ふと、スーリアが顔を上げ、こちらを見た。

僕が見ていると知ると、途端に蟻への興味は失せて

『ママ。』

と念話で言って羽ばたき、翼を広げて低空飛行。

『扉は閉まっている。突っ込むなよ。』

とシンハが顔を上げてスーリアに言った。

『パパ。』

扉があるので僕のところまで来ることはあきらめたのか、シンハの背中にくるりと回って上手に降り立った。


スーリアはシンハのことをパパ、僕のことをママ、と呼ぶようになった。

シンハはパパでいいが、僕をママと呼ぶことはどうなの?と思わないわけでもないが、僕はあまり気にしてはいない。

むしろ、僕やシンハを保護者としてみてくれていることのほうが嬉しい。

スーリアにはまだ親が必要なのだ。


パパであるシンハの背中に上手に降りると、もみもみするかのように数歩足踏みし、居心地がいいところを見つけて座る。そして自分の毛繕いをしたり、ついでにシンハの毛繕いもしたりをし始めた。

かわいい。とにかく、仕草がかわいい。

あー僕もスーリアにフミフミしてもらいたい!


見ているだけでは我慢仕切れなくなった僕は、ささっとポーション作りを終了させて、テラスに出た。

「スーリアー。シンハー。」

二匹まとめて抱きつく!モフモフを堪能し、スーリアの産毛も撫で、シンハの長毛とスーリアの短毛の間に顔を埋め、シャンプーのいい香りがする二匹を堪能する。スーハー。

『お前は…時々、妙な殺気さえ感じるぞ。その愛情表現、やめい。』

「やだ。僕の特権だい!」

むぎゅうと二匹まとめて抱きしめる。

「ねー、スーリアー。」

きゅぴい!

「ほら、スーリアだって喜んでる。シンハだってシッポが揺れてるじゃんか。」

『う、うるさい!こ、これはクセだ!条件反射とかいうものだ!』

「とか言っちゃって。ハグ、好きなくせに。」

と言いながら、僕は生きたぬいぐるみ感を存分に堪能する。


『こほん。薬はできたのか?』

シンハが聞いた。たぶん僕の気を別の事に向けようとしたんだろう。

「うん。ばっちり。」

『ではいつでも旅立てるというわけだな。』

「まあねー。あ、でも、その前にコーネリア様に持っていくエキスを瓶詰めしなくちゃ。」

『ふむ。今後はどうするんだ?』

「今回は多めに納品する。一応、王都で落ち着いたら、コーネリア様に手紙で許可を取ってから、結界内へのテレポートを試してみようと思っているよ。ささっと来れるなら、問題なし。我が家とか辺境伯邸とかにテレポートさせてもらえば、いつでも納品に来れる。」

『…。コーネリアのところはいいとしても、ギルドとかには顔をだせんだろう。』

「うん…。さすがにそれは。できないね。」

片道12日もかかる王都だ。

僕をたびたび町中で見かけていたら、絶対おかしいと思われる。


スタンピードのこともあり、ヴィルドの結界は強くなっている。

コーネリア様にお許しをいただければ、結界内にテレポートさせてもらえるとは思うけれど、たぶん魔術師長まで話を通してもらっておかないと、騒ぎなるだろう。

ちょっとユリアに会いたいからと、気楽にテレポートしてくるわけにはいかないのだ。

『罪作りな奴め。』

「…」

僕は無言でシンハとスーリアのブラッシングを始めた。


シンハはそれ以上、何も言わない。

スーリアは僕がブラッシングを始めると、もううとうとし始めた。

ほんとに良く寝る眠り姫だ。

長く卵の中で仮死状態だったからだろう。

最近はスーリアに、魔力を循環させることを教えている。

そのせいか、魔力の巡りもずいぶん安定してきた。


ケプ。

うん?なんだ?げっぷをしたのか?何も食べていないけど。

それにしては魔力が揺らめいた??…

「今、スーリア、げっぷしたよね。」

『いや、どうも魔力を吐き出している気がするぞ。龍のブレスの極小版、だな。』

「そなの!?いつから!?」

『世界樹のところから帰ってきてからだな。』

「えー!知らなかった。初ブレス、立ち会いそこねた!」

『そうがっかりするな。まだブレスにもなっていないものだ。練習中というところだな。』

「そうかあ。」

と言っていると、スーリアが目をあげ、僕を見る。なあに?という感じ。


きゅい?

「ねえ、スーリア。今、ブレスしたの?」

きゅい??

スーリア自身はよくわかっていない、という感じで、小首をかしげている。

「魔力をお口から吐き出すのを、龍の場合はブレスっていうんだ。スーリアなら水の玉とか、氷とかかな?」

きゅい!

やってみる!と言っている。

すると

バチバチ!ボフン!

「えっ!電撃ブレス!?確か、スーリアは水か風だったよね。怪我はない?お口、痛くならなかった!?スーリア、あーんして!」

僕は心配して、スーリアにあーんをさせる。

あーんと口を開けながら、

『いたく、ないよ。』

と念話で伝えてきた。うん。口のまわりも口内も、火傷はしていないようだ。


「あー、びっくりした。」

『もっと、できるよ。』

口をくわっと開けると、今度は水玉が勢いよくぽんと飛び出し、近くの樹木の幹にピシャン!と当たった。

「わぉ!スゴイぞ!あ、でも、急にブレスしたら疲れちゃうだろ?大丈夫?」

『だいじょぶ。ママからもらえるから。』

「あー、魔力ね。うん。でも、ブレスは練習して少しずつね。体がびっくりしちゃうから。いいね。」

『はーい。』

「うん。スーリア、良い子!ブレスも、よくできました。」

もふもふと、いっぱい撫でてあげる。

きゅいっぴ!

スーリアはゴキゲンだ。


ミルクとスーリア専用のクッキーをあげると、人間の子供のように座って、後ろ足を前に投げ出し、上手に両手でクッキーを持って、パリポリと食べる。

シンハが両手で持って食べているのを見て、真似するようになったのだ。

人間座りは、しっぽでバランスを取るようで、すぐに上手にできていた。

その食べるしぐさがまたかわいい。


「ふふ。龍って、こんな座り方、するかなあ。」

『どこかで人間の子供でも見て覚えたんだろう。』

「クッキーを両手で持つのは、シンハを見て覚えたんだと思うよ。」

『ふん。知らんな。』

そう言いながらも、しっぽが揺れている。

たぶん、自分がスーリアに影響を与えていた、ということが気に入ったのだろう。

まったく。ツンデレなんだから。


コンコン、とノックの音。

「どうぞー。」

もちろん、ノックの主はシルル。

「お昼ができましたでしゅ。」

「ありがとー。ね、シルル。今、スーリアがブレスを見せてくれたんだよ!」

「まあ!できるようになったでしゅか!?おめでと!スーリア。」

『ネネ。』

スーリアはクッキーを急いで口の中に全部入れると、シルルお姉ちゃんのところにパタパタスイーッと飛んで行き、上手にシルルの腕に飛び込んで、そのまま抱っこされた。


それから皆で食堂に移動し、僕達はささやかなお祝いランチをした。

デザートに、亜空間収納からデコレーションケーキを出して蝋燭を立て、スーリアが風ブレスの極小版で器用に吹き消した。

ほんと、初めてとは思えない器用さだった!

僕やシルルは拍手をし、シンハはスーリアを舐めてあげていた。


王都に行っても、こんなのどかな日がいっぱいあるといいな。

この風景も、ちゃんと念写で撮っておこうっと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ