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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第六章 世界樹編
401/533

401 紹介状

下に降りると、カークさんが事務仕事をしていたので、声を掛け、かくかくしかじか、魔塔への紹介状を、というと、

「誰か特定の人物に会うのか?それならその人あてにしておいたほうがいい。」

「では、ウォルフ・ランゲルス様宛でお願いします。」

「!」

「…?なにか?」

「知り合いか?」

「あーいえ。僕は。ある方に、ランゲルス様にお会いするようにと言われたので。」

「そうか…。ウォルフ・ランゲルスは変人だ。」

「!」

「そのことは覚えておくと、なにかと驚かなくて済むだろう。」

「…。」


「だが元王宮付の魔術師長。実力はある。名字には「師」を付けろよ。」

って、自分は呼び捨てにしたくせに。

「ハーフエルフの平民だと言っているが、彼の出自は誰も知らない。今は一応引退しているが、今でも魔塔で暮らし、王宮にも顔が利く。なぜか国王陛下と教皇様が、あいつに絶大な信頼を置いているんだ。私もあいつ…こほん…あの方の講義は聴いていた。」

「なるほど。そういう方なんですね。」

教皇様がというのは納得だ。世界樹の関係者だからな。


「王宮の魔術師長を辞める時、もとは平民だからと、「フォン」を陛下に返納しようとしたらしいが、今後の事もあるからと、「名誉侯爵」となったんだ。でも今は一教授として魔塔に住んでいると聞いている。

私がよろしくと言っていたと伝えてくれ。」

「わかりました。親しかったのですね?」

「いや、腐れ縁だ。」

「そうですか…。」


詳しくは聞かないことにしよう。言ってくれなさそうだし。

「あ、ケリスさんも、お知り合いですかね。」

「ああ。…ニーナ。ケリスを呼んできてくれるか?」

「はい。」

「すみません。」


「なにー?あ、人外のサキくんじゃない。今日はどうしたの?」

「ケリスさん…。その二つ名はヤメテ。」

実は今、本当に人外なんだ。「神族」だから。

「ふふ。」

「ケリス。君もランゲルス師とは腐れ縁だろう。私が書くより、君が書いた方がいいか?サキが王都に行くんだが、ランゲルス師に会いたいそうでね。紹介状をというんだ。」

「ウォルフさんですか…。確かにあの人とは腐れ縁ですが…。」

と何故か微妙な顔つき。

「やはり副長が書いてあげてください。冒険者としてサキくんがいかに優秀か、いや、いかに人外な魔術師か、書いてあげれば、さすがにあの人も、無碍にはしないでしょ。」

なんだろ、この言い方は。なんだか不安になるなあ。


「…。わかった。じゃあ、君にも一筆添えて貰おう。それぐらいはいいだろう?」

「ええ。そのくらいなら。いいですよ。」

「お二人とも、ありがとうございます。でも…。なんだかお会いするのが心配になってきました。」

「さっき言っただろ?あいつは変人だ。解剖されないよう、気をつけろよ。」

うぐ。


「僕もそう思う。サキくん。あの人に会う時は、結界を100枚くらいにしてからのほうがいいと思う。気をつけてね。」

と冗談か本気かわからない心配そうな顔で言われた。

「…。無茶苦茶会いたくない気分になったんですけど。」

「はは。大丈夫だよ。…たぶん。」

「たぶん、な。」

たぶん、ですかぁ?


と言う訳で、センパイお二人に連名で紹介状を書いて貰った。ありがたいけど…なんだか不安。

王都に着いたら、ギルド本部長にも、ランゲルス師がどういう人なのか聞いてから行こう。うん。そうしよう。


ギルドを出ると、雲が厚く垂れ込め、今にも降り出しそうだった。

朝は晴れていたのに。


これからのことをいろいろ考えながらぽくぽく歩きはじめると、隣でシンハが言った。

『ウォルフとやらは、どうやらとんでもないヤツのようだな。さすが、「うさんくさい」世界樹が推薦してくるだけのことはある。』

僕はさすがにカチンときた。いつもなら苦笑して終わるだろうに。今日の僕はナーバスだった。

すぐに路地に入り、くるりと振り向いて、はっきりとシンハに言う。


「シンハ。世界樹様のこと、君は嫌いかもしれないけど、もう悪く言わないで。僕はあの方から生まれたんだ。僕のたった一人の親なんだよ!君に親のことをそんな風に言われると…すごく悲しい。ものすごく、悲しい。」

『…。悪かった。』

僕はがばっとシンハを抱きしめた。

涙がにじみ出る。


「シンハ。あんなこと、もう言わないで。最期まで、居てくれるんだろ?僕の傍に。」

『ああ。…悪かった。』

ぐす。

『すまん。悪かった。』

シンハがぺろぺろと、僕の涙を舐める。

僕はしばらく、ぐすぐすと、情けなく泣いた。

シンハはずっと、悪かったと言いながら、僕の涙を舐め取ってくれた。


「ごめん。泣いたりして。あーなんだか今日は、精神が不安定だ。きっと天気のせいだね。今夜は、君をいっぱいもふらせてもらおう。」

『ああ。ずっと俺をもふっていいぞ。』

「うん。ありがとね。」


夜はしっかりシンハをブラッシングして、いっぱいもふらせてもらい、僕達は仲直りした。



翌日は、朝早めに教会に行き、光らないように注意して、ささっと世界樹の像にお祈りをした。

それからレビエント枢機卿に面会した。

応接室というか、面会室のようなところで待っていると、

「おう。サキ殿。王都に行くんじゃろ?」

と言い当てられてしまった。

「はい。お耳が早いですね。」

「ふふ。わしもな。たまーに、「あのお方」のお声を聞くことがあるんじゃよ。」

「え!?そうなんですか!?」

「ほっほ。そんなに驚くことでもあるまい。わしは使徒様ではないが、一応ほれ、聖都では偉いことになっとるからの。ほっほっほ。」

確かに。枢機卿だもんね。


「えと…実は、ローハン・アウグスタ枢機卿にも「お会いするようにと言われております。」」

誰に言われたか、などは言わずともわかるだろう。

「そうか…。会えるとよいが。あいつはおそらく、聖都にいるからなあ。」

「え。そうなんですか?」

「うむ。特に今は、教皇様がご高齢じゃから、秘書長のローハンを手放さなくてのう。なにかやんごとなき行事の時だけ、ローハンが教皇代理で王都に来るという感じじゃな。」

「そうなんですね。」

聖都にいけということだろうか…。あとで世界樹様に聞いてみようかな。

「とにかく、機会があればすんなり会えるよう、紹介状を書いてあげよう。」

「!ありがとうございます!」


昼食を懐かしい「海猫亭」で食べた。

マーサさんにも、ちょっと遠出するので、と挨拶。

「冒険者だから、旅は付きものだけど。怪我なんかするんじゃないよ。」

そして

「あんたのことだから、きっと途中で料理もするだろうからね。」

と言って、旅に定番の干し肉と秘伝の合わせ調味料ブーケガルニみたいなものをくれた。

「干し肉はスープの出汁取り用にでも使いな。」

とのことだった。ありがたや。



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