398 メーリアとおしゃべり&ビーネ様、ツェル様にもご挨拶
「ところで、サキ、人のことより、自分のことはどうするの?」
「え。」
「これから王都って。すぐ帰ってくるの?」
「…」
「私はサキにすぐ会えるし、コーネリア様?は、たぶん気の長い方のようだけど。ユリアちゃんは…ああ、ハーフエルフだったわね。ハーフは寿命がまちまちだから微妙だけど…。でも、待たせるなら…そうねえ、2年が限界かしら?」
「う。」
どうしてメーリアは、その2人に絞って言及してくるのかなあ。おっと、メーリアも入れて3人か。うう。
「罪な男ねえ。ちゃんとお手紙くらいは、まめに書いてあげなさいよ。」
「……はい。」
メーリアの言葉を、実は僕は、彼女が思っているよりずっと重く深刻に捉えていた。
だって、僕の行く先の先は…。
妖精達は、いつものように、わちゃわちゃと楽しげにしている。
食べたり、おしゃべりしたり、喧嘩したり、笑ったり…。
ああ。こんななんでもない平和が、ずっと続くといいな。
僕は浄化と勉強と、それから「来たるべき日のために」、自分を鍛えるために行くのだ。
それ以外、今は考えられない。
いずれジュノ様がティネル様を滅ぼすために、僕に憑依するというのだ。それなら、それなりに底力をあげておかないと。いざと言う時に僕が非力すぎて、ジュノ様がうまく動けませんでした、ではまずいのだ。
しかも、神を宿すって、どんなだろう。ジュノ様の膨大な魔力、存在感に、僕は自我を保っていられるのだろうか…。
とにかく、すべてに耐えられるように、さらに精進しないと。
それだけは確かなことだ。
森のみんなには、「浄化と勉強のために王都に行く」と言ってある。
嘘ではないが、本当のことをすべて言っているわけでもない。
シンハが心配するように、もしジュノ様の憑依が上手くいかなければ、あるいは、憑依されてティネル様と戦いになって、うまくいかなかったら、サキという存在自体、霧散することだってあるのだ。
そんなこと、誰にも言えるものではない。
いずれなにかと敏感なメーリアには悟られてしまうかもしれないが、現時点では、言えないことだ。
もう少し、僕が大人だったら、自分の種を残したいから、誰かと結婚を、と思ったのだろうか。
いや、たぶん僕の性格なら、たとえ僕が何歳だろうと、やはり誰とも結婚…いや告白もせずに、修行と決戦に行くような気がする。
ふと。前世の末期の自分を思い出した。
あの頃、僕は死の床でさえ、必死に両親に笑顔を見せようと努力していた。
本当は、泣きたいのに。苦しいって言いたいのに。死にたくないって言いたいのに。
あとに残される人の悲しみの大きさを思うと、そうすることしかできなかった。
僕が存在していたことを、忘れて欲しいとさえ願った。
両親の愛情が深ければ深いほど、あのひとたちより先に死ぬことが、辛かった。
今の僕の心境は、あの時に似ている。
もちろん、たとえ邪神様と対峙しても、死ぬつもりはさらさらないけど。
でも、万が一のことを考えると、やはり誰にも言わずに、決戦に行くような気がする。
ふと、腿に重みを感じて下を見ると、シンハが僕の腿に顎を乗せて、上目遣いに見ていた。
シンハは何も言わないが、心配してくれているのはわかった。
ふっと笑って
「(僕は大丈夫だよ。)」
とひっそりと念話で言って、シンハを撫でた。
今は君がいる。
僕の真実を知っていて、なおかつ傍に居てくれる相棒が。
おそらく最期の瞬間まで、君は僕の傍に居てくれるつもりだろう。
「(ありがとね。)」
と付け加えて、僕はシンハをもふり続けた。
妖精達とのデザートパーティーのあとで、ふたたびスーリアを召喚し、ビーネ様のところに寄ってご挨拶。
スーリアを紹介し、かつ王都に行ってくると伝える。
スーリアには前もってビーネ様のイメージを伝えておいたからか、全然物怖じせず、ぴっきゃう!と元気にご挨拶していた。
魔蜂の蜂蜜にポムロルやオレンジをつけ込んだものと、レーズン入りのパウンドケーキを5本ほど置いてくる。ハチミツをかけて召し上がれと。
「逆に気を使わせちゃったわね。これはお餞別よ。もし偉い人に会ったら、これを少し、お土産にすると、ウケがいいわよ。」
その通りですね。はい。知ってます。すでに実践しておりますです。
また極上な蜂蜜をたっぷり貰ってしまった。
ありがたや。
あとはアラクネのツェル様に会いに行く。
恋人のオージェさんとは正式に婚約し、あとはいつ結婚するかという段階。
今日は森の見回りに行ってオージェさんは不在だった。
ツェル様にスーリアを紹介すると、かわいいわあ、とスーリアの頭を撫でてくれた。
スーリアも、実力者のツェル様を怖がりもせず、ぴっきゃう!と元気にご挨拶していた。
うちの子、やっぱり大物だわ。
「あらためて。婚約おめでとう。これ。お祝い。」
なにがいいかわからなかったので、メルティア入りの、小さめでブーケっぽい花束にした。花を包むのは金糸銀糸入りのアラクネ布で、白とブルーのアラクネ製リボンで束ねてある。
「まあきれい!いい香り!ありがとうございます。」
「結婚式は、アラクネさんはするものなの?」
「いいえ。しませんわ。おそらく次の満月の晩が、その…。」
「あー、うん。なるほどね。」
初夜なのね。
リアクションに困るなあ。はは…。
「たくさん貴重なポーションまでいただいて。ありがとうございます。オージェも大変感謝しておりました。」
「末永くお幸せに。」
「ありがとうございます。」
「ラーミルたちは、その後どう?」
「元気にしております。一緒に機織りをして。楽しいですわ。」
「そう。よかった。…実は、しばらく王都に行くことになったんだ。森にはちょくちょく来る予定だけど、一応挨拶と思って。」
「王都、ですか。少し遠くなりますね…。は!?となると、流行の最前線ですわね!」
急に目がらんらんと輝きだした。なにかスイッチが入っちゃった感じ。
「あー、うん。今度来るときは、なにかデザインの参考になりそうなものを、仕入れてくるよ。」
「是非に!よろしくお願いします!!」
そうだった。その話もしておかないと。




