表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第六章 世界樹編
391/529

391 世界樹内でみた夢

僕は夢を見た。

珍しく、前世の頃のことだ。車椅子だったから、もう余命いくばくもない頃だろう。

もう体力もなくなっていて、動くのもしんどくて。

でもリハビリをやっていた。

少しでもやれば、父や母が喜ぶから。それだけのためにやっていた。


僕は判っていた。あとわずかしか生きられないと。

何か残そうとは思わなかった。

いっそ、両親の中から僕の記憶を消してあげたいくらいだった。

だって、僕が死んだら、僕を思い出して母は泣くだろう。それが悲しくて。

僕が生きたいと願う理由は、それだけだった。

自分が何かしたいのではなく、大好きな両親を悲しませたくないから。

ただそれだけ。


でも言えなかった。

かあさん、僕を忘れていいよって。

言えばまた泣くと判っているから。

ただ、父や母の前では、笑顔でいようと思った。

どんなに辛くとも。

それだけが、僕のプライド。

ごめんね。

もう、だめだ。

心臓…くるし…。


次に見た夢は、たぶん世界樹の中。

光の粒になっている僕。

眠っている。だんだんからだが大きくなる。

ただの粒だったものが、次第に人の形になっていく。

でもまだ、小学1年生くらいなかんじ?

そして、声が聞こえた。


「やあ。」

「君、だれ?」

「僕はジュノ。」

「じゅの?」

「世界樹だよ。神様、だね。」

ふうん、と思った。


「マサキはもう一度、生まれ変わりたい?」

「うん!元気になりたい!」

「いいよ。でも、生まれ変わるのは、地球ではないところだけど、いい?」

「え?それは…。地球がいいな。」

「それは駄目。できない。」

「えー。」


「君はすごくがんばった。がんばって生きたからご褒美。本当はこんなこと滅多にできないんだよ。どうする?」

「地球じゃないの?」

「ああ。異世界というやつだ。剣と魔法の世界だ。」

「!行く!」

「はやっ!決心はやすぎ。」

「だっておもしろそうだもん。」


「あはは。いいよー。じゃあ、魔法使えるように、魔力多めにしとくね。」

「うん!ありがとう!」

「おお。ちゃんとお礼が言えるいい子なんだな。あとなにか望み、ある?」

「んー。…前世のことって忘れちゃうの?」

「普通はね。覚えていると、辛くなるからね。でも、覚えておきたいなら、そうできるよ。そうする?」

「うん。いろいろと、忘れたくない。」

「そうか…。いいよ。向こうで困らないように、言語チートはつけてあるよ。それから、育てれば、いろいろな知識が使えるようにもしておくね。あー、あと、「亜空間収納」もつけておこう。…あとは何をつけてあげようかなあ。」

「そんなにもらっていいの?」

「君は前世でいろいろといいことをしたからね。ポイントがいっぱいたまってるんだ。」


「じゃあ、健康な体がいい。」

「うん。それはもうつけてある。大丈夫。」

「あとは…魔法が使えるんだよね。」

「ああ。努力次第だけどね。」

「運動神経とかは?」

「もちろん、グレードあげておいた。ああ、あと、見た目も大切だよね。えーと…適当にイケメンにしておくね。」

「ありがとう。」

「寿命も長くっと。」

「ありがとう!」

「あ、ちょっといろいろ盛りすぎたかなあ。ちょっととるかな。」

「あ、だめ。一度つけたもの、とらないで。」

「あはは。冗談。とらないよ。」


「…。ねえ、ジュノは神様なんだよね?」

「うん。この世界の神様。そして僕は世界樹だよ。」

「世界樹?」

「生命の源だね。」

「そうなんだ…。たくさんのスキル、つけてくれて、ありがとうございます。…まだポイント、ありますか?」

「うん。あるね。」

「じゃあ…。僕の両親が、末永く仲良しで長生きできますように。僕の残りのポイント、それに使うってできますか?」

「あー。ポイントは、誰かのために使うことはできないんだ。でも、君の気持ちは、夢で両親に伝えておこう。」

「ありがとうございます。」

「他に望みは?」

「…。ううん。もうないです。」


(本当は、僕が死んで、悲しませてしまった。悲しませたくなかったけど、もう仕方がないもの。)

「君は本当にいい子だな。僕の加護をたっぷりしっかりつけておこう。困ったことがあったら、僕を呼べばいい。」

いつの間にか、僕はジュノの膝の上に抱っこされていた。

頭をなでてくれる。

「なんて呼べばいいの?ジュノって呼べばいいの?」

「いや、たぶん僕の名前はすぐに忘れてしまうだろう。けれど僕は世界樹。いずれ会うことができるだろう。マサキ。それまで元気でいるんだよ。」

「はい。」


「さてと。スキルはこんなものでいいだろう。あ、これ、食べて。美味しいよ。」

と桃のような果物を渡された。手にした時には、すでに食べやすく切ってあり、ガラスのような器に盛られていた。美味しそう。

「いただきます。」

と言って僕は一口食べる。うわあ!まじうまっ!いや、美味しい!美味である!

あとはもう夢中で食べた。あっという間だった。


「ごちそうさまでした。美味しかったです!」

器を返すと、器ごとぱっと消えた。

「それは良かった。…さてと。ああ、もう時間だ。どこに落とそうかな。」

と僕を抱っこしたままとんでもない事を言う。


「落とす?落とすって!?」

「行きたいところ、君が選んで。何処がいいかな。いくよー。せーの!」

「きゃあ、待って、待ってー!!!心の準備があああああ!!!!」

「行きたいところを心に思い描いて。そこに落ちることができるから。じゃあまたねー。」

「きゃああああああ!!!じゅのさまあああああ!!!!」

「大丈夫だよー。マサキ、また会おうねー!」


それからふうわりと、僕はジュノ様の腕から離れて浮き上がった。

そして、何故か下から風の抵抗を受け、ゆっくりゆっくりと、花びらが落ちるような速度で、地上へと落ちていった。

落下がものすごくゆっくりだと解ったので、もう怖くはなかった。ふう。


雲の上で、ジュノ様がにこにこして手を振っているのが見えた。

まったく!

ジュノさまひどいよ。

いたずらがすぎる!


何処に落ちるか決めろだって?

明るい森みたいな、緑がいっぱいあるところがいいな、とふと思った。

ちらと下を見ると、どうやら森の上空のようだ。

なんだかわくわくした。

何か下界で、僕を待っている存在がいたから。

今思うと、あれはシンハだったのだと思う。

いや、あるいは、「はじまりの森」の濃い魔素に惹かれたのだろうか…。

とにかくゆっくりと、「此処がいい」と思える「明るい場所」へ、僕は落ちていった…。



『ねぼすけ。朝だぞ。』

シンハが僕の肩先を足でくいくいと押す。

「んー。」

なんか、すっごくぐっすり眠れた。

あと、気持ちいいけど、スリリングな夢、みてたみたいなんだけどなあ…。

思い出せない。


「ん?」

あれ?シルルは?居たよね。僕の隣に。

とふと寝返りを打つと、そこには可愛いあんよが。

ああ、シルル。すっかりさかさまになってるな。

足が枕してるぞ。


くすくす。

僕はつい笑った。

『サキ。眠りながら笑うな。気色悪いぞ。』

「くくく。だって、目をあけたら、可愛いあんよが枕してるんだもん。くすくす。」

『言ってやるなよ。きっと怒るぞ。』

「くふふ。判った。シルルは意外にレディーだもんな。ふあーあ。よっこいしょっと。」

僕はシルルを持ち上げて、回転させると、ちゃんと頭を枕につけて寝かせてやった。

これで目を覚ましても、さっきの寝相の悪さは覚えていないだろう。


ちなみにスーリアはお行儀よく、シンハの向こう側で寝ていた。きっとシルルからさっさと避難したのだろう。

「シンハこそ、シルルに内緒だぞ。」

『ああ。判っている。ぐふふ。』

シンハだって笑ってるじゃんか。


「んー。」

シルルが寝返り。

「んー。おはようござましゅ?」

「おはよう。よく眠れたようだね。」

「はいです。朝ごはん、作りましゅ。」

「ああ、いいよ。できあいのスープもあるから。ゆっくり起きて。」

「ふあーい。ありがとうござましゅ。」

それから僕たちはゆっくり食事をし、部屋を出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ