386 真理の続きとバクダン発言
それから、世界樹は生き物を作り出した創造主ではないこと。創造主は別に居て、世界樹は世界を見守り、魂を吸い上げ、送り出す調整者でしかないという。
そしてその創造主が、教会で聞いた創世記の物語どおり、この世界にはもはやいないことも、先代世界樹から聞いたそうだ。
「世界樹は創造主ではない。魂の調整者でしかないから、魂を清めて循環させるだけ。
せいぜいチートや加護を付けてあげるくらいしかできないんだよ。」
とのこと。いやいや、それだけで十分凄いです。
そしてジュノ様自身は、大昔にはハイエルフだったが、先代の世界樹から意思を継いで世界樹の精となったのだそうだ。これはキリングスさんが言っていたとおり。
「君にはいつか、僕の跡を継いでもらいたいと思っているよ。」
「は!?」
「だから。いずれは君に、世界樹の精になってもらおうと思って。」
「はあ!?!?!?!?」
今、とんでもないバクダンを脳天に落とされた気がする…。
「君にたくさんチートをあげたのも、うまく成長してくれたら、そうなるといいなって。
それも目的のひとつだから。ああ。大丈夫。何百年か、ヘタすると何千年も先の話だから。」
ってにこにこしてなんかすっごいことをさらっと言われた。
「まあ、それまでに君は何回か転生するかもだけどね。」
「えー。」
一瞬、その時ジュノ様はもうこの世にはいないってことだろうか、それは嫌だな、とか、シンハはどうなっているのだろう、もし僕より先にいなくなっていたら、それは絶対嫌だな、とか、何回も自分は記憶を持ったまま転生するんだろうか、そんなことをし続けたら心がこわれないのだろうか、などと、コンマ数秒のうちに考えてしまい、気が遠くなりかけたけど、それは遠い未来だと気を取り直した。
それに、きっと僕みたいな「世界樹候補」は複数いるに違いないし…。
「あ、いないよ。他には。」
「へ?」
「だから。世界樹候補。君だけだから。言っただろ、君は僕のトクベツだって。誇って良いよ。」
「はあ…。」
ジュノ様はにこっと極上の微笑で笑ったけど。
「………は!もしかして、ユグディリアっていう名字は」
「そうそう。「世界樹を継ぐ者」っていう古語だねえ。僕が先代に指名されて、名字をそのように変えたんだ。」
ふとシンハを見ると、さすがに目が点になっているようで。
ふいっと目をそらされた。
やっぱり、無意識に世界樹の啓示を受けていたんだ。
…僕は、心が真っ白になって、動けなかった…。
目を開けたまま、しばし気を失っていた気がする…。
「シンハ。これからも僕の後継者たるサキを、頼むよ。黒い靄に染まったりしないように、護ってあげて。」
『お前に言われなくとも。それに、勝手にサキを後継者にするなど、気に食わん。』
「ふふ。そうかもしれないけど。もう決めちゃったし。」
『貴様!』
「君たち四聖獣は、僕がこの世界を破滅させないよう、見張るのも仕事だ。それもよろしく。」
『お前がどうなろうと、俺は知らん。』
「ふふ。本当にサキが大好きなんだね。いいことだ。…ティノやその使徒らから、サキを必ず護ってね。僕がサキの傍に居て、ずーっと護ってあげたいけど、黒い靄があると、そうもいかないから。」
『…。わかっている。心配するな。』
「ふふ。ありがとう。」
僕の精神が空白になっていた間に、世界樹様とシンハはなにやら話していたようだった。
ようやく僕が平常心を取り戻すと、ジュノ様は世界樹の中を案内してくれた。
通常、ジュノ様は精神体で、核内にいることが多いらしい。
ちょっと驚いたのは、子龍のスーリアがジュノ様にすぐになついてまとわりついたこと。
ジュノ様も楽しいようで、スーリアを重力魔法でぷかぷか浮かせて、自分の周りを巡らせて遊んでいる。
ジュノ様が僕に似ているから、家族と認識したのかな。
いつの間にか、スーリアに「世界樹の加護」が生えていた。
「可愛いねえ。白龍と古代龍のハーフか。」
「はい。…今は肩に乗っていますが、今後大きくなりすぎないか、ちょっと心配です。」
母親も大きかったからな。
「それは問題ないだろう。もう少しすると、シンハと同じように大きさを変えられるようになるはずだからね。」
「そうですか。良かった。」
スーリアと一緒にいられるのはうれしい。
「それに、君もまもなく「サンクチュアリ・エリア」魔法をマスターできるはずだよ。」
「え、それって、「ディメンションホーム」と同じやつです?」
「そうそう。亜空間収納の、空気とか天地ありバージョンね。マスターすると、君自身もそこで暮らせるようになるから。旅は快適になるだろうね。」
「おぉ。では、未来の自分に期待します!」
「ふふ。楽しみにしているといい。きっと中はとても快適なはずだよ。」
核外にはさまざまな区画があり、いろいろな様式の部屋になっていた。
まるでテーマパークに来たみたいだ。
共通しているのは、どの部屋も住み心地が良さそうでかつこだわりが感じられた。
たとえば、マホガニー製の家具や建材で作られたいかにも欧州風の部屋とか、隣はいきなりの日本の茶室仕立てだったり。そういう特徴ある部屋たちが、見事な螺旋階段で繋がっていた。
まさにテーマパーク!明治村!某ネズミ君のいる○○ランド!
「凄いな。一部屋一部屋、さりげなく凝ってる。」
「ヒマに任せて作ってみたんだ。住みたかったら、住んでもいいよ。好きな部屋を選ぶといい。」
「いや、でもそれは。」
「どうせ今夜は泊まっていくんでしょ?キリングスには僕から連絡しておくよ。好きな部屋を使うといい。ああ、夕飯は、彼らが焼き肉パーティーをする気満々でいるようだから、食べてからまた戻っておいで。彼らもキミたちを歓待したいんだ。意を汲んであげてほしいな。」
「はい。」
「ちなみに、通常アカシックレコードは、得意分野についてのみ接触できるようになる。キリングスは建築とエルフの魔法についてはかなり接触できるが、ほかは接触できない。あまり料理には期待しない方が、いいと思うよ。」
「え…はい…。」
なぜにわざわざそのような個人情報を?とは思うが、まあわかった。夕食は覚悟しよう。
さて、結局僕たちは落ち着いたシックな洋風の部屋を一応選び、それから一旦世界樹の外に出ることにした。




