381 世界樹と面談
光の中をどれだけ歩いただろうか。
行けども行けども、何も見えてこない。
ただひたすら光のシャワーが降ってくるだけ。
足元も光っていて、平衡感覚を保つのがやっとだ。
僕はシンハの首元に手を置いて、歩いている。
無意識にシンハと離れることをおそれていた。
スーリアは僕の肩の上。
「なあ、シンハ、此処、どんだけ広いんだ?」
『さあな。なにしろ世界樹だからな。』
「無限空間か…。」
僕は立ち止まった。
「無闇に歩いても埒があかない。待って、探知してみるから。」
僕はどっかとそこに座った。座禅を組む。
そして周囲を探知するために目を閉じて、ありったけの広さでアンテナをたてる。
ソナーをありったけ広げた感じに。
すると。
「上か。」
僕は上を見上げた。
『上?』
「ああ。世界樹の『核』つまり意識の一番濃密な部分は、上のほうにあるようだ。行ってみよう。」
シンハが僕の足にぴったり体を寄せた。
僕はシンハの首輪に内蔵してあるリードを取り出して握り念のためシンハの首に手も置いた。
それからシンハと僕の足元に魔法陣をイメージした。
たぶんこれで行けるはず。
案の定、すうっと体が軽くなり、風が上から下へとゆるやかに移動するのを感じた。エレベーターをイメージしている。
『浮いて…いるのか?』
「たぶんね。少し速度あげるよ。」
『お、おう。』
くす。シンハがちょっとびびっている。珍しい反応だ。
フライと少し違うからだろう。
スーリアはおとなしい。なにが起きているのか、わからないのかもしれない。
次第に『核』に近づいているのを感じた。
やがて。
ほどなく『核』と思われる大きな光る球体の壁まで到達した。
すると今度は、『核』のほうが僕をひっぱる感覚があった。
「『核』突入するよ。」
急にシンハの体から緊張が伝わってきた。
「大丈夫。僕たちは『核』に入ることを許可されているから。」
そう言って、僕はシンハの首元を撫でて落ち着かせた。
そして『核』の壁?を通り抜けた時、ふっと空気が変わったのを感じた。
急に音がなくなった感じ。
と。
…サキ…。
ん?
…サキ…。
誰かが、呼んでる。
女の人のような、男の人のような…。
でも懐かしい声。
僕はこの声を知っている。
試しに念話で答えてみる。
「世界樹様?」
「そうだよ。」
とたんに、遠かった声は、すぐ目の前で話しているようにはっきり聞こえた。
そして、目の前に、ぼおっと人影。
やがてその人影がはっきりして、ハイエルフの少年?が現れた。
「やあ。」
整った顔だちで、笑顔が優しげでほっこりとなる。
てか、かなり僕に似てない?兄さん、みたいな?
ううん。僕、こんなに綺麗じゃないよ。
むしろ彼?はハイエルフのキリングスさんに似ているかな。
キリングスさんの息子と言われたら、うん納得しそうだ。
耳は…僕と同じく丸かった。
「君をこの世界に生まれさせる時、ハイエルフだった頃の僕や、キリングスたちを参考にした。僕もこの姿を気に入っていてね。だから僕と君が似ているのは仕方がない。」
え?僕の考えていること、まるわかり?
「仕方がないだろう?私は世界樹だ。君は僕がこの世界に呼んだんだもの。思考など読んで当然。」
えーでもさあ。ぷらいばしーの侵害だよ。
「ふふ。一人前の口をきくんだね。まあいい。どうだい?この世界は。楽しいかい?」
「楽しいです。生まれ変わらせてくれて、ありがとうございます。あ、あと、「チート」…たくさんの魔力とか素質?を授けてくれて、ありがとうございました!おかげさまでなんとか生きてます。」
いちおうきちんとお礼を言う。
本心だし。
「いや、君は僕の息子だからね。ある程度の恩恵は当然さ。
僕のほうこそ、直接お礼を言いたかったんだ。いつも美味しいお供えをありがとう。おかげで食べる楽しみを思い出せたよ。」
「お口に合ったようで、よかったです。」
と言ってみたけど、ナンだって?今さっき、「息子」と言ったよね。さらっと!
だが世界樹様は、わざとかな、僕のその動揺には触れなかった。
「それにしても、本当によく来てくれた。サキ。シンハも。それから龍の子にも、会いたかった。」
ぴきゅう!とスーリア。
「スーリアと言います。古龍と…白龍の子だそうです。」
「うん。よく生まれたね。奇跡の子だ。」
そう言って、世界樹様は微笑んでスーリアを撫でた。
でもシンハは尻尾を振ってはいない。
あの時のシンハとの会話から、シンハはレスリーとウルの件で、世界樹様を尊敬しつつも、思うところがあるのだ。
そんなシンハを見て、世界樹様は、
「フェンリルのシンハ。そんなに睨まないで欲しいな。」
と困ったように微笑んだ。
「シンハ。失礼だよ。」
だがシンハは態度を改めず、僕の傍から離れない。
「とにかく、掛けたまえ。お茶にしよう。」
パチンと指を鳴らすと、景色が変わった。
どこかの屋敷の庭らしい。
目の前の丸テーブルにはお茶が用意され、サンドイッチやスコーン、クッキー、果物などが、3段のケーキスタンドに盛り付けられている。
世界樹様は僕に椅子を勧め、座るとすでにティーカップにお茶が入れられ、食べたいなとちらと思ったブルーベリースコーンも、クロテッドクリームが添えられてお皿に乗っていた。お茶はアールグレイ。
シンハには魔素水と、ワイバーンのサイコロステーキ、食べやすい大きさに切ったバタートースト、そしてポムロルが、バランスよくおやつとして、いくつかのお皿に盛られていた。
スーリアにも同じものだが、量は少なく、そしてミルクもついていた。
「召し上がれ。」
「いただきます。」
お茶を一口飲むと、とても美味しくて。僕の好みの味だった。
スーリアは美味しそうに食べ始めたが、シンハはまだ警戒しているのか、水にもお肉にも口をつけない。
僕が撫でると、ようやくお座りの姿勢になった。
「急に招待してしまって、驚いたろう。すまなかったね。君たちに、どうしてもなるべく早く、会いたかったんだ。それで無理にも図書室に入り口を作ってしまった。」
「そうだったんですか。」