371 ユーリのひとりごと 1
かわいいユーリ君の近況。三部作でお届けシマス。
僕の名前はユーリ。ヴィルドに越してきた「トカゲの尻尾亭」という宿屋の息子だよ。
本当のお父さんは、ハイエルフでユーゲント辺境伯の第一近衛騎士隊長をしている、ネイスンさん。僕を産んでくれたお母さんは、イシス姫と呼ばれる、アルムンド帝国の皇女様だそうだけど、僕を産んで間もなく、他界したんだって。
そういうことは、最近偶然わかったことだ。とっても驚いたけど、サキお兄ちゃん、いや、サキ先生の相棒のシンハが、『親は何人居てもいいではないか。』と言ってくれたので、僕もとうさん、母さんも、そしてネイスン父様も、それでいいってなったんだ。
僕は、魔法の基礎をサキ先生に教えてもらい、今は教会で習っている。
サキ先生に教えてもらうまでは、一人でなんとかやっていたんだけど、魔力の使い方がめちゃくちゃで、魔力過多症になりかけていて、危なかったんだって。
今では、ちゃんと体内で循環させられるし、魔力が溜まりすぎないように気をつけて、魔法をちょこちょこ使うようにしているから、大丈夫になったよ。
それに、僕と契約してくれた光の妖精の子フィンも、僕が魔力を暴走させたりしないよう、気をつけてくれているから、ますます大丈夫。
最近はフィンがちょっとだけ大きくなり、簡単な念話もできるようになったから、毎日が楽しいよ。
教会では、読み書き、計算も教えてもらっている。
僕は読み書きも計算も、教会に行く前から両親やサキ先生から習っていたし、声を出せなくて、石版に書いて会話していたから、筆記もできるので、教会の授業で困ることはなかった。
魔法は、教会に行く前に、すでにサキ先生から教えてもらっていたから、生活魔法(火種、ライト、水少々、クリーン)のほかに、光の応用で治癒魔法のヒールとキュアも発現できていた。
教会で魔法を教えてもらう時、サキ先生から紹介状をもらって、一番偉いレビエント枢機卿様という方に、その手紙を渡したんだ。
そうしたら、魔力測定と、僕の使える魔法を確認するテストをしたんだけれど、レビエント枢機卿様がわざわざ立ち会ってくださった。
魔力測定では、僕は魔力がとても多いらしくて、計る水晶玉がすっごく光って、僕自身もびっくりした。
教会の玉でなかったら、きっと割れていただろうって。
ハイエルフの血が入っているせいらしい。
それから、僕の使える魔法もお見せしたら、魔力のコントロールがいいねって褒められた。
「サキ先生に習いました。」って言ったら、「それはとても幸運でしたね。」って枢機卿様に言われた。
枢機卿様が笑顔だったので、僕もとってもうれしくなったよ。
入学時点で、すでにヒールとキュアが使える子は珍しいんだって。
それで、他の神父様たちが、僕に治癒魔法をもっとたくさん教えようとしたんだけど、レビエント枢機卿様が、「無理に教えてはいけないと、聖者様から言われているから。」と、止めてくださって、治癒魔法については、僕はレビエント枢機卿様から少しずつ、直接教わっている。
聖者様って、サキ先生のことだよね。
サキ先生にそれを言ったら、
「僕は教会に属していないから、聖者じゃないよ。」って困ったように笑っていたけど…。
あとで知ったけど、教会は、治癒魔法が使える子を探して、熱心に教会に所属することを勧めてくるんだって。
教会に所属するっていうことは、神様に仕えることになる訳で、両親から離れて教会で暮らすことになる。
でも僕は、まだ父さんや母さんと一緒に暮らしたいし、宿屋を手伝いたいから、教会に入るということは考えられない。
サキ先生の紹介状には、僕を無理に教会に勧誘しないで欲しいことや、治癒術師になることを無理強いしないでほしいと、書いてくださっていたらしい。これは両親がサキ先生から聞いていたことだそうだ。
教会では同い年くらいの子供達とも知り合いになった。
でも、僕には宿屋の手伝いもあるし、魔法も基礎以外は別に習うこともあるから、他の子たちとずっと一緒の授業ではないんだ。
でも、教会では冒険者になった時や、護身用のために、体術や棒術も教えてもらっているから、そういう授業の時は、みんなと同じ授業を受けられるので、結構楽しい。
体術と棒術は神父さんが先生だけど、剣術は冒険者の人が先生だ。
どうして棒術があるかというと、教会の人は治癒術師も多く、魔法の発動に杖を使う。杖は、短いものもあるが、背丈ほどの長い杖や、時にはメイスと呼ばれる武器が杖の代わりをすることもあるらしい。だから、教会では護身用に体術と棒術は必須科目なのだそうだ。
教会では、相手を殺したり傷つけたりすることが目的の、剣術は基本的に使わない。けれど、子供達の中には、将来冒険者になりたい子もいるし、実際、なる子が多いのがヴィルドだ。
それに、街の外にでれば、魔獣に襲われたり、盗賊に襲われる危険だってある。
だから、ヴィルドの教会では護身用に剣術も教えている。ただし神父さんたちは、剣術はあまり得意ではないから、先生は冒険者にお願いしている、という訳だ。
実は、体術と剣術の基礎は、サキ先生に習った。
ただし体術はサキ先生のオリジナルで、元になったのは「アイキドー」とかいう異国の体術で、剣術は「ウル流」というものらしい。
剣術の授業の時、僕の立ち回りを見て、
「お、ウル流だね。」
と見破った先生がいた。
サキ先生のお友達の、テオドール先生だ。
珍しいグリフィンを相棒にしている。
テオ先生は、うちにも時々泊まりに来てくれるので、顔見知りだ。
そして、うちに来た時は必ずサキ先生の事が話題になる。
グリフィンのミケーネは、よく訓練された魔獣だ。
でも本当は人なつっこくて、僕のことは好きみたい。
他の人にはなかなか触らせないらしいが、僕には頭を出して、撫でてーと甘えてくる。
僕の精霊フィンとも仲良しで、よくわからないけど、二人(?)でなにかおしゃべりしている。
テオ先生は、王都への護衛依頼とか、王都からヴィルドへの護衛依頼とかが多いようで、ヴィルドを留守にしていることもある。
そしてヴィルドに来ると、うちか「海猫亭」に泊まるようだ。
もともと貴族家出身で、王国騎士だったそうなので、上品だし、いろいろ「わきまえている」みたいで、上客の依頼が多いようだ。
うちにくると
「サキには最近会ってるかい?」
と水を向けてくる。
冬には、サキ先生は国境壁の修理に出かけていたから、ずっと留守だった。
「サキがどうやらまた『やらかした』らしくてね。今度は王様からご褒美をもらうようだよ。」
と教えてくれたのも、テオ先生だった。
「トカゲの尻尾亭」が開店し、僕がまだ教会に通う前だったから、3月のうちだ。
「すごーい!王様から!?」
「ああ。そのうちもっと詳しい話が入ってくると思うよ。」
と言っていたら、案の定、サキ先生は「国境壁の魔術師」という異名までついて、Aランクになっただけでなく、名誉子爵という爵位までもらって、貴族になっちゃっていた!
騎士爵とか男爵とかを飛び越えて子爵っていうのもとんでもなくスゴイことなんだって!
「サキ先生、どんどん有名になっちゃうね。」
「まあ、もともととんでもないからな。」
とテオ先生が半分呆れたように笑っていた。




