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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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37 アラクネと知り合いになる

「蜘蛛の里」はアラクネの棲家だ。

もっとおどろおどろしいところを想像していたが、到着してみると、意外に明るくて普通の森に見える。ただしよく周囲をみると、きらきら光る蜘蛛の巣が、あちこちに張りめぐらされているのが見えたが。


シンハが、目の前に大きな蜘蛛の巣がある場所までくると、足を止めた。

『此処が入り口だ。誰かいるか!』

すると、でっかい蜘蛛が、上からすーっと降りてきて、その大きな巣にとまった。

『森の王か。何用だ。』

『女王に会いたい。相談事だ。』

『そこな人間はなんだ?貢ぎ物か?』

と言ったので、さすがに僕はどきっとした。

『おい!言葉には気をつけろ。こいつは俺が保護している人間だ。もしお前たちがこいつに手出しをしたら、この巣を全滅させるぞ!ガウッ!』

と威嚇したので、さすがに蜘蛛はびびったように

『し、失礼しましたっ!』

『さっさと取り次げ。俺は気が短いんだ!ガウガウ!』

『しょ、少々お待ちをっ!』

と言って、門番らしい蜘蛛がそそくさと、上へと上がっていった。

よほどあわてたのか、何度か糸から足を踏み外しているのが、下から見ても判った。

「シンハー。ちょっと脅かしすぎじゃね?」

『いや、あれくらいでいいんだ。舐められるとあとの交渉に響く。』

「まあ、そうだけどさ。」


ほどなく、今度は優雅な雰囲気の女性の蜘蛛がやってきた。

蜘蛛、というより人間に近い姿だ。手が6本、糸をくちゃくちゃにしたもので胸とかお腹とかを覆っていて、ドレスというより、真綿に包まれているというか、毛を綺麗に刈ったプードルのようだ。後ろに大きく張り出したお尻?をみると、ああ、蜘蛛だよね、という黄色と黒のシマシマがある。


『粗忽な雄が失礼を申し上げました。』

蜘蛛娘はとても優雅なお辞儀をした。

『あるじから伝言でございます。『せっかくのお越し、お会いしたいところですが、残念ながら今朝から腹痛で誰にもお会いできかねます。申し訳ありません。』とのことです。森の王様。本当に申し訳ございません。』

『むう。腹痛とな。』

『はい。今朝方から時折しくしく痛むようで…。薬は飲んでみたのですが、一向に治らず…。』

「回復魔法は試してみたのでしょうか?」

と僕。

『いいえ。使える者がおりませんので。』

「じゃあ、やってみましょうか。」

『おう。こやつは回復魔法が得意だぞ。俺も危うく片目をだめにするところを、サキに救われた。だめもとでやってもらったらどうだ?』

『な、なんと!そうですか。そうですね。ただいますぐに、うかがってまいります!少々お待ちをっ!』

蜘蛛娘はあわてて奥へと走っていった。


「腹痛ってなんだろうね。」

食あたりなら治せるかもしれない。体内の毒気を浄化すればいい。寄生虫ならそれも治療可能。ただ婦人科系だと、なかなか知識的に難しいが…。

などと考えていると、ぱたぱたとまた娘が走ってきた。

『お待たせいたしました。ぜひお越しくださいとのことです!』

息を切らしながら、娘は門になっている巣をぱっと手を払って切り裂いた。

アラクネ糸は丈夫だから、魔力を通さないと切れないはず。それを見事に切ったのだから、それなりにこの娘は強いということだ。

『どうぞ、こちらへ。』


蜘蛛娘に先導されて先に進むと、そこにはまるで野外劇場のように段々に作った石の上に、またしてもカウチがあって、そこに身を横たえ、青ざめた顔で冷や汗を流している蜘蛛の女性がいた。かけられた毛布も、アラクネ糸製のフェルトのようだ。

身にまとっているものはどうやら金色の糸でできたくちゃくちゃの服だが、とても豪華だった。


『ああ。森の王。お見苦しいところを見られてしまいました。』

『気にするな。大丈夫…ではなさそうだな。原因はなんだ?』

『たぶん食あたりかと。』

とお付きの娘がひそひそと言う。

『何を食べた?』

『イナゴの塩焼きでございます。』

『お酒のおつまみなのですが、食べすぎたようで。』

蜘蛛だけに、虫も食べるようだ。いや、イナゴは人間も食べるが。

事前に、アラクネは雑食だが肉と虫を好む、とは聞いていた。


『お恥ずかしい限りです。』

『いや、誰にでもそういうことはある。まあ、気にするな。…ところで、こいつはサキ。俺が保護している人間だ。回復魔法を使える。先日も俺を助けてくれた。』

「はじめまして。サキです。」

『まあ、こんな姿で若い殿方にお会いするのは心苦しいです。すみません。』

「いいえ。もしよければ診察させてください。ああ、お体には指一本触れませんので。大丈夫です。」

『よろしくお願いします。』

「では。」


ということで、シンハと共にアラクネ女王のすぐ近くまで行き、僕はこもこもとつぶやきながら、『印』を組んだ。それから掌を女王のほうへ向ける。すると、手がほんわりと光り、女王の症状が読み取れた。


魔法の呪文というものは、自然に覚えられるものではない。けれど僕の場合は、適した呪文をちゃんと唱えることができる。

シンハいわく、それは心からあふれる言葉であり、正しい呪文のありようとのことだ。『呪文が天から降りてくる』そうだ。その呪文が最もその場に適したパワーを発揮するとのことだ。


「寄生虫、ですね。」

僕は呪文で診察した結果を口にした。

『え?虫?虫は食べますけど…。』

「いや、悪い虫が腸に入り込んでいるのです。退治してみますね。もし何か痛かったり、苦しかったりしたら、すぐに言ってくださいね。」

『はい…。』


それからまた目を閉じて回復魔法をこもこもと唱えた。すると僕の掌から光が発せられ、女王のお腹のあたりを光が包み込んだ。やわらかい光だ。

とたんに、女王の全身から濁った光の粒が蒸発するようにたちのぼる。

やがて。その濁った光は消えて、全身がほんわりと光った。

「終わりました。ご気分は、いかがですか?」

『ああ。もう大丈夫。さっきまでの苦しさが嘘のようですわ。サキとやら。どうもありがとう。』

「いえ、お役に立ててなによりです。」


それから原因について少し説明した。

「イナゴの塩焼きの食べ過ぎ、とおっしゃっていましたが、どうも直接の原因は、イナゴについていた寄生虫…というか、寄生魔獣のせいのようです。お腹を食い破ろうとしていたようで。実は危なかったです。」

と真面目に解説した。


『もしや…バルトベータ!?』

「ああ、たしかそういう名前ですね。うん。」

僕は鑑定さんが言っていた寄生虫の名前を思い出した。


『おう。危うかったな。あれは厄介な寄生魔獣だ。退治できて良かったな。』

『はい。本当に。命にかかわるところでした。サキ。本当にありがとう。貴方は命の恩人だわ。』

「いえ、そんな。偶然判っただけです。」

『まったく、謙虚な子なのね。お礼がしたいわ。何がいいかしら。なんでも望みを言ってみて。』

僕はちらりとシンハを見る。

『言ってみたらどうだ?』

「じゃあ…お言葉に甘えて言わせていただきます。実はアラクネ糸を少しわけてほしいのです。」

『ふふ。たやすいことよ。大量でなければ可能だわ。どれくらい欲しいの?』

「そうですね。…この瓶にみっしりひとつ分でいかがでしょうか。大量でしょうか。」

『いいえ。ぜんぜん平気な量よ。その瓶に5つ分、あげましょう。』

「ありがとうございます!…おみやげを出しそびれていました。…これを。」


亜空間収納から取り出したのは作りたてのポムロルクレープ。魔蜂のハチミツがけ。

『まあ!いい匂い!』

「あ、でもお腹の具合が悪かったのですから様子をみたほうが…。」

『あら、もう大丈夫よ。』

と言うともう皿ごとひったくってぱくりと食べていた。

『んんんんー!美味い!!なにこれおいしいわ!!』

甘味はやはり女性にはたまらないようだ。


『糸でよければいつでも言って。いくらでもあげるわ。そのかわり。』

「はいはい。美味しいお菓子をお持ちします。」

『物分かりのいい子は大好きよ。よろしくねっ。』


かくして、意外にすんなり交渉は上手くいった。

『ふふ。お前が菓子まで上手に作るとは思わなかったぞ。』

「見よう見まねというやつだよ。もし羊の乳とそれから卵があれば、きっともっといろいろ作れると思う。あーあとは…砂糖かな。」

『甘さの素だな。』

「そう。どこかにサトウキビとか甜菜とかあるかな。」

『??』

「茎の甘い植物とか、蕪みたいな野菜だよ。」

『茎の甘いのはあるな。南のほうだ。』

「お。行こう!」

『ああ。だがほどなく長雨の季節だ。たしかあれは夏に多く収穫できる。少し待て。』

「なるほど。判った。楽しみにしとくね。」



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