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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
360/529

360 スタンピードに至るまで

極悪人トアの独白が続きます。

俺が欲しいのは、富める王国。ケルーディア王国。

帝国を手に入れるのもいいが、まずはケルーディアを滅ぼしたい。

あの、人族以外も認める思想は、人種差別の激しかったザイツに比べれば、それは夢のようだが、虫唾が走る。そんな夢物語などありえない。

俺を見ればわかるだろう。人間の国王の血を引いても、奴隷として虐げられた。魔族の血を引き、魔力が相当に多くても。これが現実だ。


俺は「あの方」すなわち$&◇#様至上主義。この世界を支配すべきはあの方以外にはあり得ない。

特に、$&◇#様から聞いた話では、ヴィルドの辺境伯は、ヴァンパイアだそうじゃないか!

そんな魔族が長年人に協力し、人に化けて繁栄を謳歌しているなど、許せん!

というわけで、俺はまずターゲットをヴィルディアスにした。

もともとヴィルディアスには恨みがあるしな。


俺は、ヴィルドを大規模なスタンピードが襲うという計画を立て、小さな実験を繰り返した。

まずは合成獣として毒針を飛ばす魔狼。これはなかなかに成功だった。

だが魔狼の生命力は弱く、成功する個体が少なすぎた。

同時並行でおこなっていた実験は、ゴブリン。

これは面白い結果が出た。

ゴブリンは生命力が強い。

まじないの「呪」をイレズミさせただけで、1ランクも2ランクも上位のゴブリンに変化した。

ゴブリンジェネラルを戦わせて強い個体を選び、それに「呪」を施すと、なんとゴブリンキングを超えて、変異種のゴブリンキングに変化。

それを頂点とする集落を作り始めた。

あとは放置して様子を見ていたが、人間やエルフを攫って孕ませたりと、なんとも面白い実験場になった。


楽しみにして帝国で別の実験を行なっているうちに、忌々しいヴィルドの冒険者連中が、その集落を破壊し、ゴブリンたちを滅ぼしてしまった。

畜生!

面白い実験場だったのに!

そこで活躍しやがったのが、白い獣を連れた、年若い冒険者だという。


あとで知ったが、俺が改造してやったフロイドや、魔王ベゼルウルが盗賊になり、元ザイツで暴れていたが、それを昇天させたのも、そいつらだとか。

まったくいまいましい奴らだ。


その頃、帝国で行なっていたのは、『呪いの魔石』を作る実験。

師匠はそのレシピを秘匿し、俺に教えずに死んでしまったからだ。

魔石に「呪」を込めて生け贄を捧げると、その魔石にその種族特有の特徴が刻まれる。それを被験体に首輪としてつけると、その種族を越えた能力を持つ、個性的な変異種となる。

ヴィルドではなく、今度は隣のラルド侯爵領の森でその首輪を施した魔熊を放った。魔石にはすばしこさのエイプと、火を吐くワイバーンの魂を込めた。その結果、魔熊はすばしこく動き、しかも龍のように火のブレスを吐く魔熊となった!


最初の結果はなかなかに良かった。

村人を食い殺し、素早く動いて火を吐く魔熊。

近隣の人族を震撼させた。しかし、またしても、あの白い獣を連れたガキに倒された。

奴が通りかかったのはまったくの偶然だった。なのに。


あれは失敗だった。なぜなら、倒されたあと、どろどろに溶けて終わってしまったからだ。

おれは第2形態として、アンデッドになることを希望していたのに。それにもならないで、呪いだけを残していたので、結局奴に「祓われて」しまったんだ。回収もできなかった。


だが密かな成果はあった。

魔熊に付けた石は、エイプとワイバーンという、「生命価」の違いすぎる魔獣が贄だった。どろどろに溶けたのは、どうもそういうバランスの悪さだったのではないかと。

そこで、エイプに、エイプを贄とした『能力を上げる魔石』を作り出し、つけてみた。

すると、エイプはもともと知能が高いので、俺の意思を理解して行動し、かつ、どろどろに溶けたりするということはない、という事がわかったのだ!

これは画期的だった。

これで魔獣を思い通りに動かせる。

だが、すべての魔獣にこれを付けるわけにはいかない。


そこで俺は考えた。

俺が洗脳し、かつ『能力を上げる魔石』をつけたエイプを指揮官とし、俺が合成して作ったり、テレポートで移送した魔獣たちには俺とエイプたちの命令を聞くように薬を与えた。それらの魔物をエイプたちが従えて、スタンピードを起こすよう、計画した。

エイプは毒矢も使えるようにした。


小さな実験を重ねたのち、俺は「あの方」の絶大なる魔力もお借りして、ついに、ついに、古代龍のアンデッドを召喚することに成功した!!

古代龍だぞ!

今出来の龍とはスケールが違う。

ああ!これで俺は「あの方」$&◇#様の第1の従者として、確固たる地位が築ける!


だがさすがに古代龍アンデッドを続けて使役する魔法陣を組むには、魔力量が足りなかった。

そのため、古代龍召喚後の5日後、俺は再び「あの方」の魔力をお借りして、いまだに逆らいたがる古代龍アンデッドを強制的に使役獣とすることに成功し、続けて大量の魔物たちをかねて設置しておいた魔法陣に、あちこちから召喚する大魔法を実行したのだ!


魔物達は、自然発生した奴や、俺が作り出したマンティコアや、複数のダンジョンに設置した魔法陣からテレポートさせた奴とかで構成された大群だ!

残念ながら一番ヴィルドに近い「ジオのダンジョン」は、優秀な冒険者が多いヴィルドの連中に狩りつくされていて、全体の個体数が激減していた。特に、上位種が少ない。

そのため、遠く帝国の西側にあるロンゾル国のダンジョンや、魔族領のダンジョンなど、複数のダンジョンにひそかに設置したものから、ほぼ同時刻に、同じ地点に召喚されるよう、長い時間をかけて調整しておいた。

発現先は、瘴気が多い場所でなくてはならぬから、当初はヴィルドに近い「トカリ大渓谷」の奥にある、「ペルメア大渓谷」をターゲットにしていたのだが、いつの間にか瘴気の谷ではなくなっていて、計画はまたしても再調整が必要になった。


次に選んだのが、ヴィルドからは少し遠いが、西ザイツにある「はじまりの森」の入り口近くにある、瘴気だまり。

ここは例の古代龍を見つけたところだ。

そして、此処に呼び出した魔獣らが、ちゃんとヴィルドに行くように、エイプを使って扇動した。


次々に召喚した魔物たちは、古代龍に追い立てられるようにしてスタンピードを起こす。目標はもちろんヴィルド!

魔術の研究者として、これほど心躍る実験があるだろうか。

俺が作り出し、送り込んだ魔獣たちが、ヴィルドを支える冒険者たちを八つ裂きにし、食い散らかすのだ!想像しただけで快感だ。


そして、人工的にスタンピードが行えることができれば、ヴィルドだけではない。人族の街や国を、$&◇#様に献上できるのだ!


だが欠点もある。

大規模なスタンピードでは、膨大な魔力が必要だ。

今回はほとんど、$&◇#様からお借りした魔力によるものとなった。

その代わり、私の魂は、少しずつ$&◇#様に食われていくが。そんなことはどうでもいい。どうせ、死後、俺の体は完全に$&◇#様のものとなり、器として活動するらしいからな。


『お前に協力したせいで、我の魔力は空だ。我はしばらく休ませてもらう。結果は目覚めてから報告を聞こう。』

魔獣のスタンピードが始まったのを見届けると、$&◇#様はかき消すようにいなくなった。

ご神体の魔石も、消えてしまった。

きっとどこか異空間で、眠りにつかれたのだろう。

いや、きっとそれでも「あの方」のことだから、「使徒」である俺の動向は見ていてくださっているに違いないし、スタンピードの様子は、絶対面白いイベントだから、きっと見守っておられるに違いない…。

いずれにせよしばらくは、魔力をお借りすることもかなわぬな。


さて、「あの方」の魔力までお借りして転移させた魔獣らとともに、俺が作り出したかわいいマンティコアや、魅了で意のままに動かせる賢いエイプたちを潜り込ませ、スタンピードははじまった。


奇妙だろう?

ヴィルドの北の森ではなく、元のザイツ王国方面から、ヴィルドに魔獣たちが押し寄せているんだ!

これは、長距離でも洗脳した魔獣たちが俺の指示に従うかの最終テストでもある。

これぞ俺の美学!



「種明かし回その2」でした。

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