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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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36 魔蜂と知り合いになる

僕は今朝早起きをして、メルティアとその葉に宿る露の採取をした。薬草に宿った朝露は、この世界では薬作りの基本材料の一つだ。これは迷信ではない。精霊の力が宿りやすいと、妖精たち本人が言うのだから、間違いない。

ちなみに妖精とは、小さな人の形をしていて、話もするし魔法も使う。精霊の一種。緑の妖精グリューネや、土の一番くんみたいな。

精霊はグリューネたち妖精も含め、神聖な霊気から成るものすべて。シンハや湖の女王、妖精の幼体である光の粒々も精霊だ。


メルティアから万能なエリクサーはできたし、僕自身は結構からだは丈夫みたいだ。もし多少具合が悪くとも、ヒールをはじめとする回復魔法が使える。

けれど、薬草茶とか興味あるし飲んでみたい。それに、風邪薬とか湿布薬なんかも、一度は作って身につけておきたい。


シンハの話では、魔法をレジストする魔物もいるそうだし、そうでなくともいつ何時魔法が使えないなんてことになるかもしれないからね。

それに、いずれ人間の町で暮らすようになったら、薬屋さんをやるのもいいかなと思いはじめている。前世ではたくさんたくさん、薬の世話になった。でも結局病気に勝てずに死んじゃったけど。


この世界にも不治の病はいくつもあるらしい。ヒールも効かず、薬も効かず、死ぬしかない病。シンハから聞いたそれら病の症状は、大抵前世ではすでに人類が克服したものが多かったけれど、中には「魔力過多症」みたいに、この世界特有のものもある。

これはエリクサーも効かないそうだ。この病については、いくつか解決案は持っているけれど、まあ今の僕になにかできることでもない。


そんなことをつらつら考えながらも、チャノキから採って作った緑茶に、メルティアの葉少々とメルティアに宿った朝露を使った薬草茶が出来た。

これは滋養強壮によいお茶。さっそく飲んでみる。うん。美味しい!


さて。

洞窟の水漏れ工事や別棟の風呂トイレだけでなく、戸棚を作ったり、保存野菜を入れる床下収納、すぐに使うものを入れる氷の魔石を仕込んだ冷蔵庫なんかも作って、台所回りは特に充実させた。

氷の魔石は、水スライムの魔石を万能亜空間収納内で加工して作ったよ。

本当なら氷魔法を使うアイスベアとかユキウサギから獲るらしいけど。

今はもっと北にいて、この辺りには居ないんだって。


洞窟は一挙に人が住める場所になった。

火を扱う場所は3ヶ所。外のバーベキューどころと、土魔法で作った2つの竈、そして洞窟中央の囲炉裏だ。


洞窟内部は涼しい。というか、夜は冷えるので、囲炉裏に火を入れる事さえある。

転生した僕は結構器用らしく、干した草を編んで茣蓙も作れる。

囲炉裏を中央に据えて木枠で囲み、鍋を吊るせる仕組みも作った。


本当は天井からつり下げたいが、天井が高すぎるので、当面は囲炉裏に枝木を立てて魔法で強化して燃えにくくしたトレント木を渡してかけることにした。このあたりはいずれ金属に変えることにしよう。

枝木は高さが調節できるようになっているので、とろ火も強火もできる。

寝所は相変わらず奥の平石の上で、洞窟の突き当たりだからこそ、落ち着ける場所だ。


シンハは僕が円座を作っているのを眺めていた。

「シンハ。アラクネっていう蜘蛛は、凶暴なの?」

『アラクネか。この森で生きているのだから、それなりに攻撃力はあるが、比較的温厚な魔獣だな。何故だ?』

「糸が欲しいんだ。アラクネの。」

『ふむ。そういえば、お前が身につけているものは、アラクネ糸でできたものが多いな。』

「うん。初期装備としてどうなのっていうくらい、凄いよね。このシャツも、ズボンもアラクネ糸製だよ。鑑定して僕は唖然とした。」


『確かに。人間にとっては、アラクネ糸は魔族から買うか、打ち捨てられた古いアラクネの巣から得るしかない。布や服はさらに貴重。これも魔族から買うか、あとはダンジョンで出るのを待たねばならん。人間の町でなら、高値で取引されるしろものだな。』

「なるほど。かなり貴重なんだね。で、糸、もらえないかな。」

『まあできなくもないが…。手土産が必要だろうな。』

「どんな?物々交換だよね。んー。なにがいいかな。」

『お前の作る料理なら、おそらく大丈夫だぞ。』

「え、そんなのでいいの?…なら甘いお菓子は?ハチミツって手に入る?」


甘味は魔物にも人気ではないかと予想した。

シンハも果物やサツマイモなどの甘いものは大好きだからだ。

だが、この世界、僕はまだ砂糖を入手できていない。

先日麦芽糖を作ってみたが、効率が悪く大量にはとれなかった。

あと自然のもので甘味といえばハチミツだ。


『魔蜂のなら採れるぞ。』

「魔蜂のって…たしか極上ハチミツだよね!」

『魔蜂の女王とは昔から知り合いだ。頼めばわけてくれるだろう。』

「え、そなの!?さすがシンハだね。もっと早くハチミツの話をすれば良かった。」

『いや、あまりに弱っちいと舐められるからな。さすがに連れて行けん。』

「あ、ナルホド…。一応魔獣だもんね…。とにかく、魔蜂さんにも何か手土産が必要だね。」

『先日獲った熊肉はどうだ?やつらの天敵でかつ好物だから、きっと喜ぶぞ。』

「え、魔蜂って肉食なんだ。」

『ああ。そうだぞ。もちろん花の蜜や花粉を集めるのが常の仕事だが、時折は肉も食べる。特に女王蜂は肉食だ。』


「やっぱりちょっと恐いかも。刺されたりしない?」

『俺が目を光らせていれば大丈夫だろう。一応お前も結界が張れるしな。』

「そっか。判った。じゃあ、ちょっと恐いけど、勇気を出してまず魔蜂さんのところに行って、ハチミツをわけてもらって。それからお菓子を作って、それをアラクネさんのところに持っていこう。」

『ほう。菓子は何を作るのだ?』

「この間、別の小麦も手に入れたでしょ。あれは薄力粉ができる小麦だったんだ。その小麦粉を溶いたものをうすーく焼いて、焼いたポムロルやブドウを包んで、ハチミツをたらすと、クレープっていうお菓子になるんだよ。」

『美味そうだな。まずアラクネに持っていく前に、俺が味見してやろう。』

「ふふ。ただ食べてみたいだけでしょ。じゃあハチミツをゲットしたら作るよ。そのかわり、魔蜂さんとの交渉、よろしくね。」

『おう。任せろ!』


という訳で、シンハと「蜂の原」というところに来ている。

近くをぶんぶんとこわそうな蜂さんたちが飛んでいる。これがかなりでかい。全長は頭から尻の針先までで1メートルはある。こんなのに刺されたら、絶対即死だ。

確かに、ある程度僕自身も戦えないと、シンハも交渉がしにくいだろう。


シンハと念話をつなぐと、蜂たちとシンハの会話も理解できた。

『ブブン。これはこれは。森の王ではないですか。ようこそ。さて、今日はいかがな用事ですかな?』

『うむ。こちらはサキという。人間だが俺が保護している。戦えばそれなりだが、普段は温厚だ。よろしくたのむ。』

僕はぺこりと執事風な蜂に頭を下げた。

『はあ。こちらこそ。森の王の保護下にあるなら、問題ありません。』

『女王に会いたいんだが。』

『かしこまりました。奥へどうぞ。』

執事のような蜂に案内されて、奥へと進む。


女王蜂はまるでローマ時代のカウチのような長椅子に座っていた。

蜂なのに。蜂だよね。

『あら。珍しいわね。森の王がわざわざ来るなんて。』

『少し頼みがあってな。』

『ふふ。いつも熊退治してもらっているから、私たちでできることなら協力するわよ。それにしても…そこにいるのは人間?エルフ?可愛らしい坊やね。』


「えーと。初めまして。女王陛下。僕はサキと言います。…僕の念話、通じてますかね。」

『これは驚いた!人間のくせに、わらわと念話で話せるなんて!』

『ふふ。俺が教えたら、すぐにマスターしたぞ。』

『すごいわねえ。サキと言ったわね。坊や。よろしくね。』

「よろしくお願いいたします。女王陛下。」

『ああ、そんなに固くならなくていいのよ。此処は人間社会じゃないんだから。』

魔蜂の女王は、意外にきさくな方でした。


『手土産を持ってきた。受け取ってくれ。』

『あら。話が判るじゃない?何を…まあ!これは熊肉ねっ!大好物なの。いつもあいつらは我々の蜜を奪うことばっかりで。なかなか退治できなかったのよ。美味しいのよね。熊肉って。』

確かにこの森の熊肉は、臭みが少なく美味い。肉質はまるで霜降り牛のようなのだ。


『うむ。頼みたいことがあるのでな。奮発したのだ。」

『ふふ。ありがとう。…で、頼みたいことってなあに?』

『うむ。ハチミツを定期的にわけてほしいのだ。』

『ふうん。まあ、少しならいいけど。』

『そのかわり、ハチミツを使った美味しいものを、このサキは作れるそうだ。』

『まあ!そうなの?たとえばどんな?』

『もしよければ、此処で作りましょうか。』

『面白そうね。やってみせてちょうだい。気に入れば、わけてあげてもいいわ。』


僕はさっそく石で作った鍋とポムロルを取り出し、火魔法で煮はじめる。魔法で時短するので、すぐにいい具合に柔らかくなってきた。そこに提供されたハチミツを加える。

『あら、甘いいい香りね。』

仕上げはシナモンパウダー。これは偶然森で見つけた香辛料だ。ただし好き嫌いがあるので、まずは使わずに食べてもらう。

『まあ、おいしい!我等のハチミツはこんな使い方もあるのね!人間たちはただパンとやらにつけて食べているものだと思っていたわ。』

「お好みでシナモンをかけてもまた別の味わいで美味しいですよ。」

とシナモンを少しかけたものも出す。

『ふんふん。私は嫌いではないわ。この香りも。…うん。美味しいわ!』


「次にこれを使ったお菓子を作りますね。」

そう言って、今度はクレープを焼く。

バニラビーンズも、偶然だが森で見つけていた。

それを少しだけ混ぜる。

『まあ!まあまあまあ!なんていい香りなのっ!』

さっきハチミツで甘く煮たポムロルを包んで、さらにハチミツをかけて。それを女王とシンハに出す。

『これか。味見させてくれると言っていたのは。』

「うん。これ。女王陛下、どうぞ。シンハも食べてみて。」

『いただくわ。』

『どれどれ。』

二人とも、期待に目を輝かせながら一口。


『おお!』

『美味しいっ!』

「お気に召していただけて光栄です。」

『ハチミツだけを食べるより、こうして食べるほうが美味しいわ!』

『むぐ。王都で昔、貴族の家で食べたことがある菓子に似ている。だがこっちのほうが絶対美味いぞ。』

「ふふ。たぶん魔蜂さんのハチミツだからじゃない?普通はなかなか手に入らないんでしょ?」

『ああ。貴族も珍重するのが魔蜂のハチミツだからな。』

『うふふ。そうなのよ。少しだけ冒険者たちにもわざと獲らせてあげてるの。そうすると、無闇に我々を殺そうとしなくなるから。』

「さすが女王陛下ですね。」

『おほほ。一族を守るためには、知恵も必要なのよ。』

と言いながらも完食していた。


『気に入ったわ。定期的にあげましょう。どれくらい欲しいの?』

「1年にこのカメ1つもあれば十分。」

と僕は亜空間収納内で精製した瀬戸物の中型のカメをとり出した。

『うふふ。欲がないのね。それで3つ分あげましょう。そのかわり、いろいろなお菓子を食べさせてくれるのが条件。どう?』

「判りました。がんばります!」

かくして、魔蜂との交渉は無事に終わった。成果は上々。

次はアラクネとの交渉だ。

『それにしてもサキ。あんな美味いものができるとは。もっと食べたかったぞ。』

「ふふ。なんだかシンハに雇われた料理人になった気分だ。」

そんなことを言いながら、僕はシンハとアラクネのいる「蜘蛛の里」へ向かった。


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