表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
352/534

352 お薬を作ろう!

僕は帰る前に、カークさんとケリスさんに、昨日シンハ相手に話した、真犯人はとんでもなく魔力が多い魔人かも、という説を伝えた。

カークさんは眉間に皺を寄せて

「確かに。言われてみると、今まで棚上げしていたあの毒針の狼や、やたらと強く賢かったゴブリンキング、今回のゴブリンメイジなんかも気になりますね。」

ケリスさんも

「僕もあの時は黒魔術が得意な魔人かも、とちらと思ったんだった。魔法的な手術とか生命体の合成とかが得意な奴ね。いろいろあって忘れていた。」

と言った。

うん?ケリスさんの言葉がなぜか頭に残ったが、一瞬で思考が通り過ぎていった。

「まだこのことは仮説に過ぎません。でも、頭の隅にでも置いといていただければと。」


「このことは辺境伯には?」

「これからです。一応手紙にしたためました。」

これもハピにお願いするつもりだ。


二人と別れて、いざハピを呼ぼうとして、はっと気づいた。

「あ!もしかして、あれもか!?」

僕はあわてて路地に入り、その場でもう一度手紙を二通書いた。

一通はコーネリア様へ。もう一通はカークさんとケリスさんへ連名で。

ハピとクルックにそれぞれお願いする。


『何を書いたんだ?』

「「龍のアギト」事件でさ、カークさんに退治されたはずの酔人フロイドが、アンデッドとしてよみがえって、強力な火の魔人になってただろ?

その時「死なない体をもらった」とか言ってた。

それから賞金首のサモン・ドラーティを吸収した魔人ゼベルウル。

あいつはサモンを食ったと言っていたけど、食っただけではああならないよね。あれも誰かに黒魔術的なことをされて、サモンを体に植えこまれたのかもって。

さっきケリスさんが『魔法的な手術とか生命体の合成とかが得意な奴』って言ったでしょ。なんか引っかかったんだよね。

もしかしたら、今回大量に出たマンティコアや、酔人フロイド、魔王ゼベルウルとかも、誰かにそういう魔法的な手術をさせたか、されたのかもって思ったんだ。

つまり、狂人的な科学者…魔術師とか錬金術師とかだね。単なるヒラメキだけどね。」

『ふむ。なるほどな。お前はいつもぼおっとしているが、時々鋭く閃くのだな。偉いぞ。』

「ぼおっとって…。なんか心から喜べないけどありがとう。」


さて。僕たちは冒険者ギルドを出ると、食糧などを少し買い足して、家に戻った。

シルルに

「しばらく1階の調合室に籠もるから、夕食になったら知らせてね。」

と伝える。

1階の調合室は、奥庭に面した元客間だ。その部屋はベランダがあって、そこから奥庭の薬草畑にすぐ出られるようになっている。

時折、土の一番くんグラントたちが、シルルと一緒にお世話してくれている。

グラントや土の妖精たちは本当に働き者だ。

森の奥の畑も、僕がなかなか行けないのに、彼らが一生懸命作物を作ってくれている。

最近では、ユーゲンティアに賜った屋敷の庭も、グラントの部下たちがお世話してくれている。

メーリアやグリューネたちが言うには、何処の土地であろうと、土の精たちにとって、僕の土地のお世話をするのは遊びながらで楽しいんだから、大丈夫、とのことだけど。


この奥庭は居間の隣なので、シンハの運動場にしている芝生の広場も見える部屋だ。

部屋の前の庭は、適度に木陰もあるので、シンハも気に入っている。

グリューネやトゥーリなど妖精達も気に入っていて、遊びにやってくる庭だ。


今日は庭に遊びに来ていたグリューネとトゥーリに、新薬を作る実験に付き合ってもらうことにした。

トゥーリは火妖精だけれど、森のことは良く知っていて、時折よいアドバイスをくれるんだ。

この二人を一緒にしておけば、グリューネも暴走しないし…。


僕はシンハにスーリアのお守りを頼んだ。この庭でなら、二匹はのびのび過ごせるからだ。

スーリアも、邸内で作業している僕が見えるので、安心らしい。薬草畑で毒草を食べては困るので、一応結界はした上で、スーリアを庭に出した。

今はなんにでも興味を持つ時期。

キュピ、キュピ。と何か歌いながら、アリの行列でも見ているのか、時折小首をかしげてヨチヨチ歩いている。まじ可愛い。

シンハも、寝たふりしながら子守をしてくれている。


ちょうどコマドリのロビンのいとことコウモリのハピが来たので、ついでに子守をお願いする。

スーリアは新しい友達に、興味津々だ。

シンハがスーリアの毛繕いをしてあげながら、二人を紹介しているようだ。ふふ。

ああ!あの輪に入ってじゃれあいたい!でも今はお薬つくらないと!


「サキー。なに手をワキワキさせてんの?お薬、作るよー。」

冷たい視線でグリューネに睨まれた。

「う。グリューネにまで言われてしまった…。」

「ふふ。グリューネに言われてちゃ、サキもダメダメね。」

「ぐふ。すみません。」

トゥーリにさらにぐっさり言われた。

「どーゆー意味。」

とグリューネだけがふてくされていた。


アカシックレコードによれば、最も単純な解毒剤は、毒の原料となるカズライシマメの果肉から作るのが定番らしい。しかしそれは東方の国にしか生息していないから作れない。

ほかの材料で同等以上の効果がでる薬を作らねばならない。


用意した魔羊皮紙に浄化の魔法陣を念写で描く。そしてその上にきれいに洗ったメルティアや他の薬草、すでにできあがった中級ポーション、あるいはエリクサーとかを一緒に置いて、薬を生成する実験を行なった。それらの効果は賢い鑑定さん(アカシックさん)にお願いする。


完成品のエリクサーを用いた場合には、すでに浄化成分も含まれているため変化はなかった。

浄化の魔法陣を描いた魔羊皮紙上で、メルティアなどから上級ポーションを作った時が、解呪効果が高いことがわかった。だがこれは解毒という意味では少し心許ない。


そこで、グリューネからアドバイスをもらいながら試行錯誤し、メルティアにラス・ペイネ草、ドクトゲソウの果肉部分、そして媚薬や麻酔薬に使用されるサーモス茸を、浄化の魔法陣の上で調合したものが、最も効果が高いことがわかった。

さらに、使用する魔素水の魔素量が多いほど効果が出ることもわかった。


なお、毒針魔狼の毒針は、ストリキニーネ系ではなくトリカブト系だが、これも同じ解毒剤で効果があった。


毒針魔狼の毒については、これまでは半ば強引に、ハイヒールと浄化で治せる、というのはわかっていたが、毒針魔狼の毒に特化した解毒剤となるとできなくて、万能ポーションである特製中級ポーションなら治せる、というところまでしかできなかった。


だが、最近僕の地力があがって、アカシックレコード相手に詳しく毒針魔狼を分析することができた。

その結果、毒針魔狼のDNAは魔狼とハリネズミとの掛け合わせで、かつ毒針部分にはトリカブトのDNAが埋め込まれていた。そして風魔法を使って毒針を飛ばしていたようだ。

各DNAを融合するのに黒魔術を使用しており、呪いと瘴気も纏っていた。


敵は相当に「掛け合わせ」を研究している。しかも相当な魔力持ちで、かつ古代黒魔法にも精通している。

かなり手強い敵とみるべきだろう。


「フム。一応方向性にメドがたったな。」

と独り言を言っていると、おねむなスーリアを乗せたシンハが庭から入ってきた。

『もうできたのか。』

「あ、シンハ。まあね。あとはこれらの成分の微調整だね。」

『まったく。お前は本当に節操なしだな。』

「え、どうしてさ。」


手伝ってくれたグリューネたちにおやつをあげながらそう訊ねる。

『あのな。「ちょっとやってみる」、で新しい薬ができるなら、薬師は苦労しないだろうが。』

「あ、そういう意味ね。」

『まったく。お前の非常識には呆れる。』

「そうそう。サキは非常識。」

「それには同意するわ。」

グリューネにトゥーリまで。新作チョコチップ入りスコーンを食べながら言うもんじゃない。あげないぞ。


「いいじゃん。特効薬が早くて安く作れるなら。」

『まあそうだが。お前以外の普通の人間にも作れる薬なんだろうな。』

「もちろん!…といいたいところだけど…浄化の魔法陣って、普通にあるよね。ないかなあ。

あとは…魔素水?これは人によって純度まちまちみたいだねえ。

あとは…ああ、メルティア。これ、森の奥産だな。

うう。作り手によっては効果にばらつきがでそうだなあ。」

『ほら見ろ。言わんこっちゃない。ちゃんとカークたちに検証してもらうんだぞ。』

「はあーい。(まったく。シンハはなんでそうよく気づくかなあ。人間みたいに。いや、人間以上だ。)」

『それよりサキ。相談がある。』

シンハが珍しくそう言った。

また恐いこと、言い出さないでよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ