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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
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351 あらためてエイプ検分

シンハの告白を聞き、僕の将来について、憂鬱な結論を見いだしてしまった午後。

僕は冒険者ギルドの解体所の一室で、カークさんとケリスさんと一緒にエイプの検分をした。

ギルド長は、様々な事後処理で多忙で、立ち会いはしなかった。

冒険者とはいえ、死体の解剖は苦手だからというのもありそうだ。


僕の気分は鬱々としているけれど、今、世界樹様から使徒だと言われたわけでもないし、すぐに旅立てと啓示を受けたわけでもない。

それまで、僕ができることを少しずつ確実にするだけだ。

そして、人生も楽しむんだ!

そう開き直るしか、無かった。


エイプの首筋に吹き矢が一発。痙攣を起こし数分以内に死に至る。

毒性分はストリキニーネ系。ケリスさんも当然「鑑定」持ちなので、これは三人の意見が一致した。


「この毒がとれる植物はカズライシマメ。黄色い実の中の種から採る。このあたりでは生息していない。」

「ああ。もともとは東の諸島でしか採れなかったようだが、吹き矢を使う『デラメル族』が各地に広めてしまった。」

「それでも栽培地域は東のシャン・イー国までだ。エルフの森や「はじまりの森」ではなぜか育たない。」

「…土壌のせい?あるいは、魔素が濃すぎるとだめ、とか?」

と言ってみると

「おお、なかなかの示唆だねえ。そう考えたことはなかった。ふむ。研究の余地ありだな。」

とケリスさんが何かメモしながら言った。


「まあ、とにかく毒は特定できた。さてその解毒剤だが。」

「キュアではやはり無理か?」

「ああ。毒性が強い。初級のキュアでは解毒しきれないだろう。ハイキュア以上でないと。」

「それに、黒魔術が使われたようで、呪いが入っています。ですから、「解呪」か「浄化」も必要だと思います。」

僕はスタンピードの時に、エイプの吹き矢にやられた人達を速攻で治癒したが、その際に感じたことを言ってみた。

黒魔術は、闇属性の魔術のうちヤバイものを指して言う言葉。呪殺とか、誰かを病気にするとかの魔術だ。特徴は、必ず生け贄を必要とすること。


「呪い…。なるほど。それが、さらに治癒を難しくしているのだな。」

「「解呪」か「浄化」とサキくんは簡単に言うけど、治癒術師がハイキュアを掛けつつ解呪や浄化を掛けるとなると…。結構難易度が高いよね。」

とケリスさん。

「確かにな。俺も同時掛けはやったことがない。」

「魔羊皮紙に記した魔法陣を使えばどうですか?」

と僕。

「なるほど。それなら同時もできそうだ。だが、魔力は倍以上使うだろうな。」

とカークさん。

「呪いか。それはカズライシマメの種にあるのではないだろう。黒魔術による生成過程で、呪い効果も付与されているのだろうね。」


「黒魔術の善良な研究者は少ないからな。解毒薬はなかなか難しそうだ。」

「でも作らないと。貴族なら魔術師や治癒師も近くにいるだろうからなんとか魔法だけで対応できるかもしれないが、貴族以外がやられたら…あるいは、聖属性魔法の使い手が近くに居ない場合…。」

「なんとしても解毒剤は必要だねえ。」


「あのー、解毒薬の材料に少し心当たりがあるので、家で調合してみます。」

と言ってみた。

「うん?材料?薬草か?」

「ええ。メルティアです。」

「おお。万能薬草の。」

「なるほど。メルティアなら豊富とはいえないが、少し森の奥にいけば採取可能だ。可能性はあるね。」

「メルティアに、浄化が強くなるよう織り込んで、生成したらどうかなと。」

「浄化を織り込む、ねえ。言うのは簡単だが、考えると結構難しそうだが。」

「それも魔法陣で工夫するんです。やってみる価値はありそうでしょ。」

「なるほど。そうだな。」


「サキ君は家に調合室があったよね。最近は、エリクサーも納品してくれていたね。」

「はい。でもまだお薬は、製作できる数も種類も少ないので、生成した薬は生産者ギルドに卸すことのほうが多いですが。」

「え!そなの!?こっちに卸しなさいよ。」

「えーだって、ポーション瓶は向こうでしか売ってないし。買い取り価格、向こうの方がいいことが多いんだもの。」

「ちっ。これはまずい。ギルド長に相談ですね。」

「そうだな。」

「えへへ。」

「ギルドを二股かけるとは。まったく。油断も隙もないな。」

「酷いなあ。複数のギルドに入るのは合法でしょ。生活の知恵と言ってくださいよ。」

カークさんもギルド長も、家のお披露目で生産者ギルド長のエッレさんに会っているから、買い取り価格が微妙に違うというのも知っていると思ってたのに。


それから二人は僕の調合に興味津々で、我が家に来ようとしたけれど、僕の生成魔法はちょっと特殊だから、見せられない。

企業秘密ということで、押し切った。


だってさあ、世界樹の葉っぱ(シンハにネックレスにしてあげたもの。使うだろうと返してくれた。)を置いて場を清めたり、貴重といわれるメルティアをぽんぽん使うだろうし。

オリジナルな魔法陣もまだ見せたくないもの。

しかも緑妖精グリューネや火妖精トゥーリのお手伝い付き!

ごめんねー。


これまで、目立つのが嫌で、納品するのは原材料の薬草か、中級の特上ポーションと上級の特上ポーションが主体だった。(下級ポーションは、僕の魔力水がきれいすぎて、つくれましぇん。)

だが最近はエリクサーも、少し両方のギルドに卸したところだ。


今回のスタンピードで、怪我人を助ける薬の重要性だけでなく、魔術師のHP、MP回復がとても大切だと思い知った。

HP回復やMP回復のポーションは、あるにはあるが、苦いし不味い。それに、多くの薬草を必要とする。

でも僕の中級特上ポーションや上級特上ポーションは、HP,MP回復もしてしまうし、美味しいと評判だ。

今回はなんとかなったけど、街の防衛に必要なら、少しは貢献しないとな、と思っているところだ。

亜空間収納に各種ポーションもそれなりあるし、エリクサーのストックだけでも、500本以上になっている。

目立たない程度の数しか納品して来なかったが、こうした大きなスタンピードや災害に備えるなら、もっと納品してもいいだろう。


辺境伯のエリクサーのストックも50本あるかないからしいし、此処のギルドも似たようなもの。それでも国内の三分の一ほどを持っていることになるそうで、いかにエリクサーが貴重かわかる。なのに僕はそれを栄養ドリンクとしてがぶ飲みしているからね。価値観が違いすぎる。


さて。

エイプの検分を終え、死体は今度こそ焼却処分にすることとした。

毒入りだしエイプは特に使用する部位もない。ギルドで焼いてくれると言われたが、呪いまじりの毒なので、単純にはいかない。

魔石は取りだして確認したが、やはり黒魔術の影響を受けて黒く変色が見られた。他の魔獣たちの魔石より黒いのは、洗脳を受けたせいもあるだろう。魔法の情報も取れたので、これは浄化して完全に滅した。

魔石以外はギルドの焼却処分場で、僕が聖炎で焼き、灰は無害を3人で確認したうえで、ほかの魔獣とおなじように草原の大地に撒いてようやく終了となった。



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