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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
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345 我が国と近隣諸国の事情

「ギルド長らは存じておるだろうが、サキには特に東のほうのことについては、説明が必要であろうからの。

わらわが王国より預かっているこのヴィルディアス領であるが、北には「はじまりの森」、東隣にはザイツ地方、そして西にはアルムンド帝国がある。

東のザイツ地方は、もとはザイツ王国じゃ。この王国は、政治腐敗と黒龍が原因で16年ほど前に滅び、我が国の領土となった。そうなってからの我が領は、もっぱら森から南下しようとする魔獣から領土を守る役目に特化された。

なぜなら、西の隣国であるアルムンド帝国とは「トカリ大渓谷」が国境となっているおかげで、そう簡単にお互い行き来できない地形じゃ。さらに「トカリ大渓谷」の南方も高く険しい山脈が続いており、両国を阻む壁となっている。したがって、アルムンド帝国が我が国に攻め入る時は、我が領からではなく、王国の南西部にある「ユーゲント辺境伯領」から攻め入ってくるのが常となっておる。

2月に起きたパンドール砦の死守戦も、そういう流れでおきたことじゃ。ここまでは、国境の壁修理に行ったサキもよく知っておろう。」

「はい。」


「一方、ヴィルディアスの東隣にあるザイツ地方。ここは先ほど申したように、かつてはザイツ王国であった。

国土は小さく、はっきり言ってわがヴィルディアス領の2倍もない程度の小国であった。だが資源に恵まれ、北の森からの魔獣さえ防げれば、それなり豊かになれる土地だったのじゃ。

しかし最期の暗愚王は、力を欲し、黒龍を手に入れようとしての。逆に黒龍によって王族は皆殺し。国土も荒廃し滅んだ。

西ザイツは我が国の領土となり、東ザイツは、エルフの国カイエルン王国と、神聖皇国が半分ずつ手に入れる案が出た。しかし、カイエルン王国は、黒龍に荒らされた土地などいらぬと言って、最初から領土分割には消極的。神聖皇国も、飛び地になってしまうので、いらぬと言ってきた。

結局、旧ザイツの領土すべては我が国に併合された。そのかわり、カイエルン王国と神聖皇国のそれぞれから我が国への輸出品に対し、20年間の関税軽減措置という、我が国には少々不利な条件がついたがの。

まあ、それはさておき、旧ザイツ王国の地域は、今はヴィルディアスとの境に近い西ザイツが王家直轄領となり、東ザイツはドワーフの領主ケルビン・バッコス伯爵の領地となった。」


「質問、いいですか?」

「なんじゃ?」

「ドワーフとエルフって、仲がいいとか悪いとか、あるんですか?」

「うん?特にないと思うぞ。」

へえ。普通、異世界あるあるでは、ドワーフとエルフは仲が悪いってことになっているが、此処ではちがうようだ。


「特に、バッコス伯爵は武勇に長けてはいるが、普段は温厚なドワーフだ。エルフとの交易もうまくやっている。」

「わかりました。先をお続けいただけますか。」

「うむ。…で、今回のスタンピードが起きたのは西ザイツの外れ、ヴィルディアスよりのところということになる。」

「ということは、王家直轄領ですね。」

「そうじゃ。ザイツ地方は東ザイツも西ザイツも、「はじまりの森」に面している。ヴィルディアスほどではないにしても、国内の他の領土よりもそれなりに冒険者も多い。だが、スタンピードは発生した。」

「なるほど。」


「ここからは王家の恥にもなるが…あえて言おう。東ザイツはともかく、西ザイツすなわち王家直轄領は、まだよく治らず、不安定。魔獣の管理についても、駆除がうまくいっておらなんだ。ゆえにスタンピードがいつ起こってもおかしくない素地はあった。そこになんらかの人為的な要因が加われば、さらにスタンピード発生は容易に起こせたであろう。」

「…。」

「不可解なのは、西ザイツ平原から何故我が領都ヴィルドに向けてはるばる魔獣たちが行進してきたかということじゃ。本来なら王家直轄領の領都ベルーザが一番に狙われそうなものなのにの。」

「はい。」

「ベルーザにはギルドから問い合わせしました。魔獣は行っておらず、領都は被害なしとのことです。」

とカークさん。

ほう。昨日の今日で連絡がとれたということは、特殊な通信手段があるのだな。


「それから、どうやって魔獣を誘導したのか?それはおそらくエイプをつかったということであったな。」

「はい。」

「先ほどの問い、なぜヴィルドをターゲットにしたのかについては、おぼろげながら予想がつく。このヴィルド、およびヴィルディアスに大打撃を与えたいと思う者らにとっては、森の不安定さは願ってもない好機だからの。」

「…」

「さて、ようやく我が国の貴族どもと隣の帝国との話じゃ。ここからは絶対に他言無用ぞ。」

「「「はっ。」」」


「わらわに『魔兎300の毛皮』を納めるように言い出したのは、王妃の手先と思われているデウサス・ド・カイデアス侯爵。」

「!」

「王妃もまた我に申した。「天下のヴィルディアス辺境伯が、まさか魔兎300ごときで大騒ぎはしますまい。秋までにぜひご用意を。でないと、この冬はお互い寒々しいものになりますでしょうから」とイヤミたっぷりに言われてしもうた。」

うっわー。女の戦い?恐すぎ。


「…質問いいですか?コーネリア様は、王妃様に嫌われているのですか?それは何故?」

と僕はストレートに訊ねた。

「我が領土は羽振りが良い。南の山脈からは鉱物資源も採れて採掘量も豊富。北の「はじまりの森」には、浅い所に「ジオのダンジョン」もある。牧畜も盛んで穀物も豊富。魔獣の被害を除けば、どの領より豊かといえるかもしれないほどじゃ。

表向きはそうでもないが、潜在的な富裕さでいえば、王家よりよいかもしれぬ。

そんな領地をうらやむ愚かな大貴族は国内にもいる。

そしてアルムンド帝国もまた、わが領が欲しい。

だが「トカリ大渓谷」により、直接攻めることができない。王妃様のお父上はアルムンド帝国の公爵。先帝の弟にあたる。つまり、帝国の王族。王妃様はアルムンド現皇帝の従姉妹なのじゃ。もともとこの国の印象も、我の印象も、悪かったであろうの。」

「あー。なるほど。」

帝国が欲しがっていた領土を持っている辺境伯だものね。


「そして…ここに居る者たちはすでに知っておる事柄だが…どうやら王妃は、わらわが特殊であるということを、嗅ぎつけたらしい。」

「…」

「アルムンド帝国は人間族第一主義での。エルフや獣人を平気で奴隷にする。しかし我が国はちがう。ドワーフやエルフ、獣人の貴族がいる。そんな我が国でも、まだ魔族に対する嫌悪はあるゆえ、私は、対外的にはハーフエルフということにしておるがの。

エルフはともかく、王妃は特に獣人があまりお好きではなくての。」

つまり、王妃様はいまだに人間族第一主義ということか。


「なぜそのような方が王妃に?」

「王は、彼女にはめられたという噂じゃ。」

「え?」

「王妃は魅了の魔法を使うらしい。今の王は、第2王子での。皇太子は長兄であった。比較的自由がきいた第2王子は、勉強のために諸外国を巡ったことがある。その時に今の王妃がうまく取り入って近づき、王子と恋仲に。既成事実を作り、結局、結婚するはめになったらしい。

そこまではまだ良かった。第2王子だし、夫婦仲は一応良かったしな。

だが、ほどなく皇太子は病死。わらわは毒殺とみておる。そして、第2王子が皇太子に。ほどなく国王も死去。これも病死じゃ。他殺の証拠はない。だが、わらわはこれも仕組まれたものではないかと疑っておる。」

「うわー。どろどろ…おっと。失礼しました。」

「よい。王室の歴史など、どの国も大してかわらぬ。まだこの国はいいほうじゃ。王妃は賢い。王もそれなりによいお方じゃ。統治能力もある。よくあの王妃の野心を押さえていると、感心するほどじゃ。隣のアルムンドなど露骨に王権争いで、何人王子王女が死んだかわからぬほどだからの。」

うわあ。

確かに、ユーリの一件でそのあたりのことは聞いた。

でもやっぱりこわい。きぞく、おうけ、こわいー。



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