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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
341/530

341 消された証拠

「だがまだ疑問は残る。たとえば、何故魔物をヴィルド近くの森ではなく、旧ザイツから引っ張ってきたのか。そしてその方法は?」

とギルド長。

「あくまで推察ですが、最近、ヴィルドのダンジョンではサキ君が大活躍で、魔獣が漏れるおそれはないですよね。」

とカークさん。

「ああ、なるほど。」

とギルド長は言うが、僕は腑に落ちない。

「?」


「スタンピードは強い魔獣に追われるか、魔力だまりからあふれるかだ。だが、サキとシンハの大活躍で、その懸念は微塵もない。仮に計画していたとしても、失敗に終わっただろう。大量の魔物、強い魔物が、もう狩り尽くされていたのだからな。

だが、ザイツ地方なら、まだまだ旧ザイツ王国の不始末のせいで、魔獣がいっぱいだ。王国になってかなり間引きをしたのだろうが、此処の森よりはるかに多くの魔獣を得られる。魔力だまりもまだまだ多いだろう。」

「そうですね。…ではどうやって此処までザイツから引っ張れたのでしょう。」

とカークさん。

「我々の知らない魔法かなにか…。」


「僕は、そのカギは捉えたエイプが持っていると思っています。」

と僕は言った。

「ああ、あのエイプか。」

「はい。今回、エイプは毒矢を使っていました。他のエイプもそうです。エイプってふつう毒矢が使えるものなんですか?」

「いや、ありえん。聞いたことがない。」

「今思うと、エイプは強い魔獣に乗ったり、傍にいたりしていたように思います。ワイバーンにも騎乗していたんですよ。」

「それはますますありえんな。ワイバーンに乗るなんて。」


「ですよねえ。それで違和感を感じたんです。」

「なるほど。ではあのエイプをさっそく尋問するか。…だがいったいどうやって…」

とギルド長。僕も、エイプと意思疎通はどうするかと思った時。カークさんが、

「サキ君の『念話』か、シンハ「様」なら可能なのでは?」

と言われてしまった。シンハ「様」ね。もう聖獣確定の呼び方だよねそれ。

「うーん。シンハ「様」、できそう?」

とわざと声に出して訊ねる。だってもう、『念話』スキルもばれてるもんね。

『詳細を聞き取るのは難しいが、映像。お前のいう『イメージ』なら得られるのではないか?』

「ああ、なるほど。イメージね。」

「?」

「詳細は無理でも、うまくいけば…「映像」?なら得られるかもと。」

「なるほどな。」

とギルド長も伸びた無精髭を擦りながら頷く。


とそこへノックの音。ユリアだった。少し遅く出勤したのか、裏方にいたのかな。

「ギルド長。守備隊の方が来ていて。すぐに東の詰所に来て欲しいそうです。」

「うん?」

僕たちは顔を見合わせた。

捉えたエイプになにかあったのかな?


僕とシンハは、ギルド長、カークさんと一緒に東門の守備隊詰所へと急いだ。

スーリアはおねむのようなので、今はカバンに入れている。普通にカバンに。だって、ギルド長たちの前で魔力に溶かすことはできないもんね。僕だってちょっとは考えてます。

守備隊の案内で1階の別室に入る。

そこにはケネス隊長とテッドさんが難しい顔をして長テーブルの前にいた。

長テーブルには白いシーツで覆われた何かがあった。

ケネス隊長は我々が入ってくると、そのシーツをめくった。

例のエイプが、口から血を流して死んでいた。あららー。


「さきほど気づいた。」

「毒?」

「ああ。朝食を下げに行った奴が発見した。食事にはまったく手つかずだったからな。朝、朝食を持っていった奴は、寝ていると思って、トレイを置くだけで戻ってきたそうだ。もちろん、毒は食事には入っていない。吹き矢だ。」

そばに凶器となった矢が小皿に置いてあった。

鑑定すると、エイプも使っていた毒と同じもの。

「せっかくの手がかりを。すまない。」

とケネス隊長。

「いや、エイプの尋問なんて、できたかどうかわからんからな。あまり気にするな。」

とギルド長。

「そう言ってもらうと多少気が楽になる。だが、守備隊の詰所で起こったということは深刻だ。」

「ここはスタンピード本部でした。いつもの詰所とは状況が違います。誰でも入れましたし。」

とカークさん。


「それより…吹き矢か。」

「ええ。」

「この毒は?カーク。」

「例の弓矢と同じ種類の毒ですね。ただ、かなり強力のようです。粘性が高い。」

さすがカークさん。僕が何も言わなくとも、ちゃんと毒の種類と強度の予想までしている。

「サキ君、なにか意見は?」

「…。」

僕は首をすくめる。

「ただ、エイプは殺されましたけど、重要な証拠のひとつはすでに入手しています。…これです。」

と僕は収納しておいた首輪を出した。


「これは?」

「こいつが首に嵌めていた首輪です。あとで出そうと思っていて、すっかり忘れていました。すみません。」

と素直に謝った。


それから、他の人がいないのを確認して部屋を結界で覆ってから、僕は話した。

さっき『闇を照らす杖』の話が出たところで話そうと思っていたことだ。

「実は、ユーゲント辺境伯領に行く途中、ラルド侯爵領を通った時、狂った魔熊を退治しました。そいつは死んだあとどろどろに溶けちゃったのですが、同じ首輪を残しました。これです。」

と大きな首輪を出す。

「首輪には黒い石がついていたのですが、魔熊が死んだ時、砕けて残りませんでした。ふたつの首輪の内側を見てください。奇妙な紋章と、魔法陣。そして黒い石。大きさは違いますが、すべて同じものがついています。」

「む!この紋章は…『闇を照らす杖』!?」

とギルド長。

「そのようですね。」

と僕。

「ほんとうだ!…どういうことだ?」

とケネス隊長。


「まだはっきりわかりませんが、『闇を照らす杖』の残党らしき、古代魔法に精通した魔術師が、魔熊を操り、エイプを使ったスタンピードにも関与し、そして、古代龍までも目覚めさせた。そういうことになりますね。」

「むむ…。こっちも証拠として提出してもらっていいか?」

「はい。もう解析は終わっていますから。」

「カイセキ?」

「あ、解読、という意味です。でも、僕は未熟なので、どういう魔法陣か、よくわかりませんでした。古代魔法だろうということだけしか。」

実はもう読み解いているが、いちおうそう言った。隷属と能力強化が呪いレベルでかかる古代の複合黒魔法陣だ。

僕のような新参者が、それを言えばまた「お前はナニモノ?」となるから、あえて言わないことにしたのだ。

カークさんやケリスさん、あるいはコーネリア様とかレビエント枢機卿なら、解読できるだろうから。

「カーク。解りそうか?」

「…すぐにはなんとも。ケリスのほうが詳しいかもしれないです。」

「どちらもギルドに差し上げます。どうぞ。」

「わかった。」


単純なスタンピードではない様子。

謎だらけの事件です。

なお、首輪についた黒い石は、魔熊のものとは成分が少し違うのですが、見た目はどちらも黒でした。

(これについてはいずれ種明かしを書く予定です。)


残暑お見舞い申し上げます。

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