340 スーリアの登録と黒幕の情報
壁直しについては、戦争の勝利に貢献したということで、国王陛下から呼び出されそうになったが、ユーゲント辺境伯とコーネリア様にお願いして、謁見は丁寧にご辞退させていただいた。
最初は平民でまだBランクだから、というのも口実には使えたし、僕が表彰されると、魔塔の立場がない、というのもあったようだ。金一封と感謝状がコーネリア様経由で届き、それでおしまいとなった。
ところが、その後の「パンドール砦攻防戦」で、壁も砦も、僕のとんでもない功績だったことがバレて、とうとう名誉子爵とAランクとなってしまったのだった。
「ランクがあがるのは悪いことじゃないですよ。いろいろ優遇措置もありますから。ね。」
とカーク副長に諭された。
「はあ。」
「さて、ではギルド長室へどうぞ。彼も待っていたようですので。」
と書類をいろいろ持ってカークさんは僕たちを促す。
「あ、はい…。」
いや、ギルド長、別に待っていなくてもいいんだけど。
ぴきゅう。
うんうん。慰めてくれるのは、スーリアだけだよ。
まあギルド長も、昨夜一緒に登録種族の件を考えてくれたしな、と思い直しカークさんに続いた。
今朝はまだユリアには会っていない。昨夜は店の給仕を手伝ったりして、くるくるとよく働いていた。彼女だってへとへとだったろうに。一応特製ポーションは差し入れしておいたよ。僕のポーションは効き目だけでなく、とてもおいしいのでね。
ちなみに、今回のスタンピード対応で、ランクが上がった人は多い。テオさんもそうだ。彼はもともとBだった。そこにあの「龍のアギト」討伐や今回の討伐で、順調に点数を伸ばし、堂々のAランク入りだ。彼の実力からしたら、遅いくらいだ。僕だけがイレギュラーに速いのだが。まあ、魔獣2万匹討伐なら、上がりもするか。仕方が無い。
「おはようございまーす。」
とギルド長室に入ると
「おう!おはよう、ルーキー。来たか。」
とこちらも全然酒が残っていない様子。もともと酒に強いのか。それともカークさんにキュアしてもらったのか。まあ、どっちにしろしゃっきりしていた。
「従魔登録だそうです。」
「そうか。」
ギルド長も白い子龍に目が優しくなっている。
カークさんが、例の情報石版を持ってやってくる。
あ、まずい。このままだとまた僕のステイタスがばれる。
その手に乗るもんか。よおし、今日は、従魔の所以外は、全部隠微だ!へっへっ。
すでに隠微はMAXを取得してるもんねー。
「ではカードを此処に乗せて、軽く魔力を流してください。軽くですよ。」
「はい。」
何食わぬ顔でカードを乗せていわれた通りにする。
さりげなくギルド長もステイタスが見えるよう、カークさんの後ろに立っている。
「ん?」
「んん?」
僕はにやり。
「こほん。サキ君。隠微を使いましたね。」
「さあ。なんのことでしょう?それより、早く従魔登録、お願いします。」
「ちっ。このくそガキ。」
と僕の後頭部を狙ってくるので、さっと結界で避けておく。
「また誓約書を書くのはお嫌でしょ。「思いやり、気働き」というやつです。ささ、はやくスーリアの登録を。」
「わかりました。…はい、これでいいでしょうか?」
僕が確かめると、ちゃんと『従魔1:種族 魔犬(推定)、名前 シンハ/従魔2:種族 小ワイバーン(推定)、名前 スーリア』となっていた。
僕が確認して了承すると、
「はい…。これで完了です。」
とカークさんが僕にカードを戻した。
「ふん。今のステイタスは俺たちにも非公開ということか。つれないねえ、あんなに相談に乗ってやったのに。」
「あはは。すみませんね。でも企業秘密ですから。」
実は2万匹の魔獣を屠ったものだから、「魔獣の天敵」「殺戮者」っていう称号までついちゃったんだよね。隠微1でも消せたけどさ。
「まあ今日のところはいいさ。だがな、お前のことは今回のスタンピードの報告書と一緒に王都にSランク申請するから、HPとMP、それと従魔くらいは書いてやらんといかん。それだけはあとで見せてもらうからな。」
「えー。だったら、Aのままがいいですう。」
「そういう訳にはいかんと、説明しただろう。」
ちぇ。今回は古代龍まで倒しているから、隠微で低く見せても限界がある。それでまた驚かれるんだよなあ。
「はぁー…冒険者、やめようかな。」
とついつぶやく。
「おいおい!」
「まあちょっと考えます。…ところで、またひとつご相談なんですが。」
「冒険者やめるなんていうなら、もう聞いてやらんぞ。」
「もう。大人げないなあ。拗ねないでください。これ、真面目な話なんですから。…昨日、スーリアの母龍から昇天する前に聞き出しました。彼女をよみがえらせ、闇落ちさせたのは、こんな紋章の信仰集団だそうです。」
僕は昨日古龍に聞いたシンボルマークを書いた紙を取りだし、二人に見せた。
「心当たり、ありますか?」
「!これは!…」
「むう。」
心当たりアリらしい。
「『闇を照らす杖』という信仰集団だ。もともとは世界樹を信奉していたのだが過激派でな。各地で問題を起こして、神聖皇国の教皇から、ついに破門と強制解散させられた。それが10年前。」
「…しかし、どうしてこの街を狙ったのでしょう。」
とカークさん。やはりカークさんもそれが疑問だったか。
「ヴィルドを滅ぼして、誰が得をする?」
「…隣国のアルムンド帝国でしょうか。」
「その線が濃厚かな。だが、そう単純な話かどうか…。」
「たとえば、辺境伯を陥れたいこの国の貴族、とかも?」
と僕が二人の話に加わると
「確かに。辺境伯は力がある。それを削ぎたい輩はいるだろうな。」
「となると…毛皮の件も、ひっかかりますね。」
とカークさん。
「確か、魔兎の毛皮300の件も、貴族の確執が関係していたとか。」
と僕。
「ああ。『辺境伯なら魔兎300などたやすいでしょう』、とあおった貴族がいたという話だ。王妃にもぜひにと乞われて、どうしても用意せねばならなくなったらしい。」
その王妃様だが、「パンドール砦攻防戦」により、非常に立場が微妙らしい。何しろ敵国から嫁いできた訳だし。ただ、これまでも小競り合いはあった。王妃は一応、表向きは帝国とは絶縁している、ということになっているそうだ。