34 畑での攻防
「ワイバーン?でもこの魔力は…」
『うむ。龍に近い。変異種だな。』
と言っていると、そのワイバーンは穂を出し始めた麦畑に向かってブレスを吐いた!
バチバチバチッドガアン!
雷鳴とともに結界に雷が当たり、それを突破されてしまう。麦が焼け吹き飛ぶ。
「きゃあ!」
妖精たちが悲鳴をあげる。
雷を操るワイバーンだ。珍しい。これはやっかいだ。
畑に置いている僕の結界石は、魔猪や魔熊、カラス程度の忌避効果程度は十分にあるが、完全結界ではない。まして空中高いところからのワイバーンの攻撃までは想定外だ。
「あの野郎っ、まもなく麦の収穫だったのに!」
食べ物の恨みは根深いんだぞ!
『手強いぞ。覚悟を決めろよ!』
シンハがむくむくと巨大化した。
僕はでかくなったシンハに飛び乗る。
「こわいよお。サキ!」
「王様!たしゅけてぇ!」
「みんなは森に逃げて!僕とシンハでなんとかするから!」
妖精たちがきゃあきゃあと慌てて森へと逃げ出す。
逃げる妖精たちとすれ違いながら僕は叫ぶ。
「シンハ!向こうの空き地に誘導!なるべく畑から遠ざけて!」
『承知した!』
僕はワイバーンにお返しの雷を発射。
バチバチッと相手を包むが、やはり効果なし。
ただ同じ雷を操る敵が居ることを知らしめた。
ギャウア!
一鳴きしてワイバーンが通り過ぎると、悠然と反転し僕とシンハをロックオンし向かってくる。
「シンハ!風を起こして!」
『ああ!』
ごおおっと凄い音とともに突風を起こすシンハ。
「かまいたち!」
僕はシンハの強い風を利用して、複数の風刃を相手に向かわせる。
ブヒュッ、ブヒュッとワイバーンの皮膚を斬るが、致命傷にはならない。
「くそっ!固いなあ。」
ギャギャギャとワイバーンはせせら笑ったように見えた。
そして、また間髪入れずに雷ブレスを吐いた。
ドガアン!
「おっと!」
これから作付けしようと畝を作った空き地にいた僕らに向けて放たれたブレスは、正確に僕たちが一秒前に居た足元を狙って落ちた。
とっさにシンハが身を翻らせ避ける。同時に僕は雷属性のないシンハが感電しないよう、バリアを強化する。
バチバチバチ!ドッガーン!
悠然と変異種ワイバーンはターンして、またしても畑にわざと雷ブレスを落とす。
「くっそー僕たちを怒らせて楽しんでやがる!」
つい僕の口調も荒くなる。
「ストーンバレット!!」
僕はまた翼を翻らせて僕たちに向かってきたワイバーンめがけて、最近ようやく20弾コントロールできるようになった、ストーンバレットを超回転で撃ちだした!
ギャウ!
20発のうち、何発かは翼や腹などに当たったようだ。
ピシュッピシュッ!と甲高い音はした。
しかし表面傷つけただけ…いや、効いている。翼の根元に当たったところから出血していた。
「当たった!」
『馬鹿!頭を低くしろ!』
すれ違いざまに僕の背中に爪を立てようとする。そのまま攫おうとしたか。
僕はとっさにバリアを楯のように板状にして背中をつかまれるのを阻止した。
ガリガリガリ!
結界が不気味な悲鳴を上げた。
「おうふ。あぶねー。2枚バリアが消し飛んだ。」
『サキ!怪我は!?』
「大丈夫!シンハ!もう一度風を!追い風を!」
『どうするつもりだ!?』
「次はこれを試してみる!」
僕はストーンバレットに氷をまとわせ、先をさらに鋭角にしたものを、回転をかけた状態で20発、空中に待機させた。
さらに、エルダートレント製の斧を取り出す。
『なるほど。』
シンハも斧を担いだ僕が何をしたいのか、理解したようだ。
ワイバーンはさっきのストーンバレットが痛かったのだろう、ギャアア!と雄たけびをあげながら目を血走らせて方向転換し、全速で真っ向から僕たちに突っ込んでくる。
「シンハ!風、起こしながら突っ込んで!」
『了解!』
全速力でワイバーンに突っ込んでいく。ビュウビュウと風を起こしながら。
「アイスストーンバレット!からのブーメラン斧!」
ゴオオオッという風の音とともに、アイスストーンバレットがビュッと発射され、同時に魔力で威力と追尾機能を付与した斧もぶん回し投げた!
「いっけー!!!」
さすがに風に乗って何か飛んでくるのを察知し、身を翻そうとするワイバーン。
だがもう遅い。
ピュン!ピュン!ピュン!
という軽い音とともに、全弾ワイバーンに命中。自慢の翼に穴を開け、腹に、喉にと次々当たる。そしてそのうちの1発は、狙い通り、ワイバーンの眉間を貫通した。
GYA!!
と短い断末魔の悲鳴。それがワイバーンの生きていた最期となった。
次の瞬間には、ダメ押しに思いっきり飛ばした斧が、ヒュルルっと風を切って飛びながら、ワイバーンの首を見事に切り飛ばしていたからだ。
まるでスローモーション。
離れた頭と胴、そして血しぶきが宙を舞う。
何が起きた!?どうして!?と思ったか。だがもう遅い。害獣は速やかに抹殺すべし。特に愛情込めて世話してきた畑に何度も雷ブレスを落としたんだ。その罪は重い。
ワイバーンの頭と胴体は、ドサッと地に落ちた。
胴はヒクヒクッと数回痙攣し心臓の鼓動を止めた。痙攣は筋肉の反射だろう。
ふわわと光の粒が立ち上り天へと昇っていく。生き物が死んだ証拠だ。
シンハが、ガオオン!と勝利の雄叫びを上げた。
「勝った!勝った!サキと王様、ワイバーンに勝った!!」
妖精たち、小鳥たちがきゃぴきゃぴと森から出てきて騒いでいる。小躍りして勝利を喜んでいる。
僕は変異種ワイバーンが死んだ瞬間から体内で魔力や経験値が跳ね上がったのを感じて、めまいをおこして崩れるようにシンハから降り、しゃがみ込んだ。
『む。サキ!?…大丈夫か?』
「うう。急に魔力とかが跳ね上がった。」
『斃した相手が上位種だったからな。急激にレベルが上がったからだろう。じきに慣れる。』
「うう。なんとか落ち着いた。はー驚いた。」
『ふん。ワイバーンごときでふらついていては、龍は倒せんぞ。』
「倒したくないよ。変なフラグたてないでよ。」
『ふらぐ?』
「予告、みたいなものだよ。これから起こるんじゃないか、と思っていると、実際そうなるって話さ。」
『なるほどな。まあ、安心しろ。龍も倒せるくらいに、特訓してやるから。楽しみにしていろよ。』
「ええー。」