336 もう一つの戦い 災厄襲来!
食事から戻ると、城壁にはちょうどコーネリア様も戻ってきた。
「ありましたか?」
「うむ。これじゃ。」
小箱からでてきたのは、なんと世界樹の葉の形をした黄金の首飾り。
葉っぱが大小7枚ついている。端が一番小さい葉っぱで、だんだん大きくなり、中央が一番大きな葉っぱとなっている。
不思議なことに、本物の葉ではなく金細工なのに、たしかに世界樹の雰囲気がするのだ。
見た瞬間にわかった。これは本物の世界樹の葉。葉っぱが擬態している感じがした。
渓谷で見た光球と同じだ。
しかも、小箱を開けただけで、僕の杖と共鳴し、どちらもきらきら輝きだした。
「おお!」
「光っている。」
「サキ君、もしかして、君の杖は…」
「ええ。世界樹の枝が素材です。シンハにもらったんです。ね。シンハ。」
僕が撫でると
「ばう。」
と尻尾を振る。
「さっすが!やっぱりシンハ様は、聖獣フェンリル様だったかあ。」
とエセルさん。
ぎく。さすがAランク。見破られちゃった。
あわてて周囲を見渡すと…ここにいる幹部はみんな驚かない。
やっぱり察しておられましたか皆さん。
「えと。エセルさん。他言無用でお願いシマス。」
「はいはーい。」
かっるいなあ。
「こほん。他の皆さんも。他言無用でお願いします。」
「承知した。」
と近衛隊長。魔術師長もうむ、と頷いている。
「これはサキ、そなたに預けよう。うまく使え。」
「えっと。」
「杖を増幅できるじゃろ。おそらくおまえさんのほうが、それは詳しいと思うが?」
「はあ。」
コーネリア様が訳知り顔でにやり。
もしや、僕がアカシックレコードに接触できるとご存じなんですかねえ。
「こほん。わかりました。しばらくお預かりいたします。」
「うむ。」
うやうやしく押し頂いて、僕が首に装着させていただくことにした。
おお、確かに。装着したとたんに、すがすがしい気持ちになったよ。
世界樹のほのかな香りもする。気分がいい。
なんか、強くなったみたいな気がする!と思ってステイタスを見ると、上がってました!ナニコレ!
HP950万が1,950万。MP3,900万が5,200万!
わっほ。しゅごい!
「(…シンハ、僕、ますます人外確定だわ。)」
城壁の誰もいない柱の陰に移動しながら念話で言うと、
『今更だろう。まあ、慣れろ。俺はお前が人外でも、ちゃんと相棒でいてやるからな。泣くなよ。』
泣いてないやい!
「(ぐしゅ…。でもこれでどうにか古龍といい勝負ができそうだ。数字だけだけど。)」
『大丈夫だ。お前なら敵の10分の1の能力でもやれる。』
「(うえー。ソレハナイ。)」
『とにかく、あとは自分を信じることだ。』
「(んー。自分のことはイマイチ信じ切れないけど、シンハの言うことなら信じられるよ。)」
『ではそれでいい。』
「(わかった。)」
心はやっと静かになった。
「(シンハ、これを。)」
僕はたった今、即席で作ったミスリルの鎖に、生の世界樹の葉をトップにしたネックレスを、シンハの首につけた。この葉はさっきまで杖に付けていた、世界樹の葉。
『…いいのか?お前が持っていたほうがいいのではないか?』
「(ううん。だって僕にはコーネリア様からお借りした増幅ネックレスがあるから十分だ。むしろ僕の近くで一緒に戦う君をこれで増幅したほうがいい。相手の威圧とか毒攻撃とかも、はんぱないと思うから。君が「いざという時」にも傍にいてくれれば、僕も安心だ。)」
『…わかった。俺も最善を尽くそう。』
「(うん!よろしく相棒!)」
『おう!』
僕は拳を出すと、シンハがちょんと僕の拳に触れた。
西の空はすでに黒い靄の塊が相当大きく見えていた。あの中にアンデッドの龍がいる。
その気配はビンビン伝わってくる。
小さな黒い太陽のように見えていたアンデッド龍は、街に近づくにつれ、その大きさがわかってきた。
で、でかい。
生前は黒龍より4倍はでかかっただろうという大きさだ。
骨だけになっても、翼を広げたら小さな街一つすっぽり覆いそうなほどのでかさだ。
「でかいな。」
だれかがつぶやいた。
本当に。
聖属性の魔術師が集められ、結界に聖属性を織り交ぜる。
「相手はおそらく闇系のブレスだろう。これで結界は強まるはずじゃ。」
とコーネリア様。
少し顔色がよくないのは、聖属性魔法を近くで使われたからだろう。
僕はこっそりと
「コーネリア様、ミネルヴァさん、ご気分が良くない時は、これを少しずつ舐めてください。」
と「コーネリア様達用に即席で加工した」エリクサーを二人に1本ずつ渡した。
「!これ、は…」
鑑定したのだろう。二人とも驚いている。
普通の僕用エリクサーでは聖属性が強すぎて、かえってよくないだろうと思い、亜空間収納内で闇属性を強くしたエリクサーにした。即席だが森の奥のワイバーンの血も入れた。鑑定すると、「ヴァンパイアに最適なエリクサー」と出たから大丈夫だろう。
しい、と指を立てて
「ナイショですよ。」
とウインクしておく。
「う、うむ。」
と言ってコーネリア様は手の中に小瓶を隠すように握る。
なんで耳を赤くするかな。
ミネルヴァさんはそんなコーネリア様を見て、ウフフ、と笑い
「ありがとうございます。サキ様。」
と言っていたが。
さて、問題のアンデッド龍は、東門の正面、あの大地の亀裂と化した堀の前まで来ると、
GUGYAUAAAAAAAAAA!!
とすんごい声で叫んだ。
「ひっ!耳壊れそう!」
「頭に響く!!」
皆がうずくまるほどのいやな鳴き声だ。まるでクモリガラスをひっかいた時のような音や、急ブレーキの音や、女性の断末魔の悲鳴や、とにかく危機的な鳴き声だった。
これも攻撃のひとつか。
シンハが伏せの格好で耳を寝かせ、かつ両前足で耳を塞ぐ仕草をしている。
かっわいい!
「シンハ、かわいい!」
『馬鹿!何を言っている!?俺にとっては地獄だ!とっとと倒すぞ!』
と言っていると
件の龍は、ブレスをなんと堀の亀裂の底に向かって吐いた。
ぶわあああああああ!!
黒い靄が堀全体へと広がっていく。
すると、亀裂の中から気配と音、いや、魔獣の鳴き声が!
「!死んだ魔獣をアンデッド化しやがった!!」
亀裂から這いだしてきたのは、腕のないオーク、頭のない魔熊、無数のゴブリン…。
またあいつらと戦うのか。
皆の戦意喪失だ。
あぜんとする中、アンデッド龍は我々のいる城壁に向けてぶわああああ!!と黒いブレスを吐いた!
「伏せろ!」
結界が光る。どうやら第一波はなんとか防いだようだ。
「皆、怪我はないか!具合の悪い者は!?」
「大丈夫です!」
「なんとか第一波は防いだな。だが、これが続くと不味いな。」
黒い靄は堀の周辺の緑を一瞬で枯らしている。生命力を奪う靄なのだろう。
「死のブレスか。あれにあたると、おそらく命はないな。」
それに、あの大量のアンデッド魔獣!どうやって対応すべきか。
僕がエリアヒールで昇天させても、またあのブレスで堀から上がってくる。それだけの数が、あの堀の底にはいるはずだ。
どうしようか。
僕のバレットに聖属性を込めても、限界がある。僕は龍を相手しないといけない。ほかのアンデッドは別の人たちに任せたい。
ふと、城壁で弓隊にいるミシェラさんの弓矢が目に入った。