332 決戦!スタンピード 戦闘開始!
「雷鳴が轟いたのも、君の魔法だね。」
と「風の輪廻」のエセルさん。
「ええ。まあ。うまくワイバーンに命中してくれたので、かなり助かりました。」
「まるで偶然みたいに言わなくてもいいよ。狙ってやったんだろう?」
「いえいえ。必ず当たるとは限りませんから。」
「ワイバーン50にマンティコアも全滅とは。凄いルーキーだねえ。よく魔力が持ったね。」
「おかげでふらふらですよ。不味いエリ…んん、回復ポーションをがぶ飲みです。」
やばいやばい、自前のエリクサーを栄養ドリンクにしていることはナイショだった。しかもとーっても美味なんだけどさ。
「戦えぬ町の者たちは、教会や町の西側広場、辺境伯が解放くださった城の庭園などにすでに避難が完了しています。この付近にいる者たちはすべて戦闘要員です。騎士、守備隊、冒険者そして町の義勇兵たちです。」
とケリス隊長が説明した。
「よし。辺境伯閣下のお許しを得て、魔物退治の総指揮は、いつものように俺がとることとなった。皆、いつものスタンピードのように、よろしく頼む。」
とギルド長。
「まずは東門を死守。敵は約1万の魔獣だ。尋常ではない数だ。迷わずすべて殺せ!一歩も町へ入れるな!」
「「おう!!」」
そうか。スタンピードの規模としては、「尋常ではない」のだなと、ようやく僕は理解した。
と、その時、カンカンカカン!!と街の危機を知らせる鐘の音がふたたび大音響で、真上で響いた。東門の上にある鐘が、鳴らされたのだ。
「魔物多数、近づいています!!」
「よし!戦闘配置につけ。冒険者パーティーDランク以上は東門の外で迎撃!堀の内側で迎え撃つ!E以下は後方で支援にまわれ!ただし弓、魔法職で遠距離攻撃可能な者はランク問わず城壁から迎撃だ!」
とギルド長。
「我が騎士たちにも伝えよ。騎馬、歩兵いずれも門から出て迎撃。盾隊は堀の縁に沿って防御!弓隊は城壁へ!魔術師隊は引き続き結界維持および城壁上から迎撃だ!」
と騎士団長。
「「了解!」」
「魔術師隊は、半数を迎撃にまわす。残り半数は引き続き結界維持に勤めよ!」
コーネリア様もきびきびと指示した。
「「ははっ!」」
僕はギルド長の指示に従い、門の外に行こうとしていた。
「サキ。お前は俺と一緒に城壁上に来い。」
「?」
僕はAだよ。外の堀前で迎撃では?腑に落ちぬ。
「お前は活躍しすぎだ。まずは回復が先だ。あとでまた魔法をぶっ放してもらうかもしれんしな。」
「…わかりました。」
「あとは俺たちに任せて、高いところで見学しててよ。ルーキーばかりに活躍されちゃ、Aランクパーティーとしても示しがつかないからね。」
とぽんぽんとエセルさんに肩を叩かれた。
「わかりました。」
そういうことなら仕方が無い。
「(シンハ、下で暴れたかった?)」
『俺はお前のボディーガードだ。』
あくまで僕の傍にいると。
「(ありがと。)」
「わらわも上に参るぞ。」
とコーネリア様。
え!?普通は領主の屋敷とかにいるもんじゃないの?
「忘れたか?わらわはこう見えて強いのだぞ。」
とひそひそと言う。あ、そか。ハーフヴァンパイアだもんね。しかも始祖様の愛娘。そりゃ強いわ。
「ああ、そうでしたね。」
でも隣でエルガー執事長がため息ついてるよ。
ミネルヴァさんは、いつも通り、笑顔でコーネリア様を見ていた。
魔物たちが行進してくる。ヴィルドが見えてその速度が一挙に上がったようだ。
魔物達が近づくにつれ、地面がドドド…と振動する。避難している市民にとっては、これだけでも恐怖だろう。
「弓隊構え!…………放てえ!!」
射程圏内に入り、それまで我慢していた弓隊が、一気に斜め上空に矢を放つ。
無数の矢雨が、放物線を描いて魔物に届き、次々に倒していく。中には奥にいるミノタウロスにまで届く強弓もあった。
敵に向かってほぼまっすぐに矢を射る人たちがいる。大抵はエルフ。彼らは矢に魔法を乗せているので、まっすぐでかつ威力ある矢を放てるのだ。エセルさんと同じ黄緑のスカーフをしている人たちがいた。「風の輪廻」のメンバーだ。そのうちの一人が、やはり城壁上からエルフの弓を引いていた。耳が長い。彼女もエルフだ。
「おーい!ミシェラ!ミノはいいからメイジを狙え!メイジのほうがめんどくせえから!」
「あいよ!」
下で近接攻撃のためにスタンバっているエセルさんが、僕の近くにいたミシェラさんという弓使いに指示出ししている。
そうだ、その通り。
走ってきた魔獣たちは、堀の前でその足が止まるかに見えたが、なんとさすが魔獣。後ろから押されて次々に堀に落ちる。そいつらを踏み台にして、後続の魔獣がやってくる。
ヴィルド側はすでに戦闘配置についている。
城壁上には弓隊、魔術師隊、冒険者たちも同様。ただしパーティーによっては魔術職もすべて下にいる場合もある。付与魔術師や、治癒が得意な魔術師は、アタッカーの強化や仲間の回復などのため、近いほうが動きやすいからだ。騎士隊と守備隊はそれぞれ部隊ごとに固まって上司の指示に従い、それぞれの持ち場についている。
魔物たちが接近し、火の玉が単発でブオオン、ブオオン!と結界にぶつかっては消える。あれはやはり変異体のゴブリンメイジが放ったようだ。
だが結界はびくともしない。領主お抱えの魔術師たちの張った結界はなかなかのもので、こちらからの攻撃は通すが、敵の攻撃は通さない。練度が高くないと、こうはならない。
魔獣たちは堀の前でも止まらず、次々に堀に落ちる。だがよじ登ればそこに盾隊が待っていて串刺しにして堀にまた落とす。
「火を放て!」
「「応!」」
火矢と火魔法が堀に打ち込まれると、あっという間に火の堀となる。焦熱地獄だ。中には火だるまのままよじ登ることに成功する奴も現れはじめた。
うーん、ちょっとやばいぞ。
「ちょっと堀、深く広くしておきますねー。」
と誰に言うともなくつぶやいて、杖を持つとこもこもと唱え、「ディグ!」と魔法を放つ。
すると、堀は騎士や冒険者たちの居る内側のラインはそのままに、魔獣のいる外側が崩れ落ち、まるで地割れのように深くなる。そして以前の倍以上の広さになった。魔獣の先頭にいたゴブリンメイジたちが一気に堀に落ちる。もう奴らは這い上がれない。それほど深い大地の亀裂だ。
いつの間にか暴れたくて、屋上から降りて戦っていたギルド長が、堀の縁から底を覗き、呆れた顔で僕を見上げた。
「よそ見しないで!ギルド長!」
僕は彼の後頭部を狙ったゴブリンメイジの魔法を、結界を飛ばして跳ね返し、ついでにストーンバレットで魔法を放ったメイジの眉間に風穴をあけた。
「おうふっ。わりい。ありがとなっ!」
と言いながら、堀をかろうじて飛び越えてきたミノタウロスの首を跳ね飛ばし、かつ左手で風魔法を出してミノタウロスを堀に落とす。
へえ。ギルド長も「魔法剣士」じゃん。かっこいいチョイワルおやじ系だ。
「あいついつの間に!俺に此処で指揮しろとか言っといて勝手な!」
とおいてけぼりを食らった近衛隊長が歯がみしていた。やはり暴れたいのだろう。
「隊長、貴方がいないと領主様をお守りしきれません。」
とエルガー執事長がクギを刺す。
「むむ。」
「いや、わらわのことはよい。だが確かに指揮する者は、此処にいたほうが良かろう。全方位が見えるでな。そなたはわらわのお守りで我慢せい。」
「お、お守りだなんてそんな。恐れ多い。」
近衛隊長が冷や汗を拭っている。大人の世界もいろいろあるよな。うん。