331 決戦!スタンピード 迎撃態勢
僕はシンハの背に乗り、魔獣たちより前方の上空にいる。
魔獣たちが他に行ってしまわないよう、戦力のあるヴィルドへと誘導中だ。
わざと弱者のふりをして、魔力や殺気は押さえて、ふらふらと彼らの前方を飛んでいる。
そして端のほうが逸れようすると、わざとそこに飛んでいって、ほらほらこっちですよーというように、いかにもすぐにでも倒されそうな振りをして、わざと奴らが魔法を放ったり物理攻撃しやすいようにしている。
結界は10枚で万全だから、実際怪我することはない。ヴィルドに着くまでに、奴らの魔力が少しでも減っていることを狙っている。
「しかし、このスタンピード、どうしてヴィルドに向かってるのかなあ。」
どう考えても不思議なのだ。
たしかにザイツ王国時代は治安が悪く、森にあるダンジョンや魔力だまりの維持管理はできていなかったのだろう。だが王国領となってからは、それなりに管理しており、スタンピードが起きるほどの魔力だまりはできないよう、注意していたはずだ。
大きな魔獣に追われてスタンピードが起きる場合もあるが、マンティコアまで逃げ出すような強い魔獣は龍しかいない。だが龍は1頭も居なかった。
それに、なぜ進む方向がヴィルドなのだろう。自然に森から魔物が拡散するなら、こちらではなく単純にまっすぐ南とか、無秩序に半円状に広がりそうなものなのに。ヴィルドは奴らのいたはずの森よりはるか南西だ。
疑問だ。
『俺にもよくわからん。』
シンハも首をかしげている。
「魔物にとって、ヴィルドを滅ぼしたい理由なんか、あるのかなあ。」
『なるほど。そういう考え方もあるか。』
「うー。わかんない。」
街に戻ったら、ギルド長あたりに聞いてみよう。
さて。そろそろヴィルドが見えてくる。
僕の役目はここまで。
あまりスタンピードの魔獣らと一緒にいると、事情を知らない街の人たちに、まるで僕が魔獣をけしかけてヴィルドに先導してきた犯人みたいに見えるからな。実際そうだけど。
「街が見えてきた。ここまで来ればもういいよね。あとは短距離テレポートで街に帰ろう。」
『わかった。』
シュン!とテレポートして、僕とシンハは草原の岩陰に転移し、そこから街道にあがり、東門へ向かう。
街を守る結界が今日は当然ながらいつもと違ってとても強いので、さすがにテレポートで街に入ることは出来ない。
ちなみにこういう結界があるのは王都とヴィルド、ユーゲンティアの他には数都市しかないとのこと。
それだけ此処には外敵がいるということか。
農民をたくさん乗せた例の荷馬車も、無事に着いたようでよかった。
僕たちが出撃したあとは死人がでていない。その前に、どれだけの人がスタンピードに飲み込まれたのかを、僕は知らないが。
東の外壁よりさらに外側に、堀が設けられ、内側に土嚢が積まれていた。まずは外壁の手前で迎撃しようということらしい。短時間によくここまでやれたな。守備隊とか領主様の魔術師とかが活躍したのかな?まだ外壁とその堀の間には人がいない。東門のほぼ正面の街道だけは堀で切られずに続いており、普段より広い道にしてある。ここは逃げ遅れた人のためでもあるが、わざと魔物達が堀を渡れるようにしてあるのだろう。あちこちから攻められるより1カ所からやってこられた方が対処しやすいからだ。
正規の東門はすでに閉ざされていたが、僕たちを見るともちろん扉が開いた。
中から真っ先に出てきたのはなんとユリアだった。
僕に走って飛びついてくる。涙をいっぱいためて。
「ユリア…。ごめん。心配掛けた。」
コクコクと頷く。
「心配したんだから。」
感動の抱擁をしていると、門の奥から殺気が。
ギルド長だった。
「さんざんウチのユリアを心配させやがって。」
「う…。ごめんなさい。」
「こほん。今から作戦の最終確認です。こちらへ。」
と冷静なカークさんの言葉に、ちょっと救われた。
僕とシンハはカークさんの案内で、仮本部となっている東門の脇にある守備隊詰め所に入った。ここのロビーが当面は指令本部となるらしい。
ロビーの中央に設えたテーブルの奥に座っていたのはコーネリア様。領主だものね。顔には黒いヴェールを掛けている。傍にはエルガー執事長とミネルヴァさん、近衛隊長レクシス・ド・ガイヤールさん。それから、僕は初対面のキラ・コールドウェル魔術師長。黒ずくめで、顔がほとんど見えず、性別も不詳。
あとは守備隊のケネス隊長、テッド副隊長、ギルド長、カーク副長。それから、王都中心に活動していて、今ヴィルドにたまたま来ていたAランク冒険者パーティー「風の輪廻」のリーダー、エセル・ジャンド。彼はエルフだ。噂ではかなりの風使いらしい。
僕が壁修理で不在の時もヴィルドに来ていて、ユリアにちょっかい出していたAランカーというのが、実はこの人。これまでも何度かヴィルドで見かけたことはあったが、正式に名乗り合うのは始めてだ。
イケメンだが確かに「軽い」感じがする…。でも冒険者の実力としては、それなり凄いのだろう。
僕はコーネリア様の姿を見ると、直ちに礼儀正しくこの国の貴族の作法でお辞儀をした。
「かしこまらずともよい。」
とコーネリア様から無礼講の許しが出たので姿勢を直した。
「此度は先駆けの役目、ご苦労であった。逐次報告を受けていたが、まさに鬼神のような大活躍だったの。見事である。」
「恐れ入ります。」
「戦が終わったらわらわからも褒美を出すぞよ。大義であった。」
「はっ!」
次にギルド長から。
「疲れているところすまないが、サキ、お前の口から皆に現状を説明してやってくれ。」
「わかりました。」
そして、僕はなるべく様子がわかるように、かつなるべく簡潔を心掛けつつ報告した。
「僕がシンハと一緒にザイツ平原に到着した当初は、大量の魔獣が、平原の端から端までひろがっておりました。その数およそ3万。種類もさまざま。上位ではおそらくワイバーン約50、ゴーレム20、マンティコア10、ミノタウロス20。あとは魔熊、魔猪、魔狼、オーク、コボルト、ゴブリン…エイプもいました。
両サイドから土魔法で中央に向かって斜めに岩壁を作り、幅を強制的に狭めさせました。そこで後続に押しつぶされる魔物が続出。小川を広げて深い堀のようにもしたので、さらに数を減らすことができました。
ワイバーンとマンティコア、それからやっかいな毒針魔狼はどうにか全滅させることに成功しましたが、ゴーレム8、ミノタウロス10はまだ残っています。総数は、今は当初の約3分の1といったところでしょうか。」
「約1万か。それならなんとかなりそうだ。残る上位魔物は…ゴーレムとミノタウロス、だったな。」
「おそらく。ただゴブリンメイジが、意外に魔術力が強いです。」
帰路、マンティコア亡きあと、上空に火の玉を発射したのはゴブリンメイジだったからだ。
「また変異種か?気を引きしめんとな。」




