33 妖精達と畑
広げた畑では、ニンジン、ジャガイモ、タマネギといった常備野菜だけでなく、トマト、ナス、キュウリ、レタス、キャベツ、アスパラ、セロリ、ルッコラ、それからニンニク。
中央部は麦畑。小麦、大麦、ライ麦だ。
薬草畑は家の一番近くで小さいがいろいろ植えている。
一番遠いエリアは果樹園にすることにした。
果樹エリアで作るのはオリーブ、ポムロル(リンゴ)、ナシ、ミカン、ブドウ、カキ、桃、ビワ、ゆず、スイカ。チャノキも見つけて植えた。
これらは苗からではいつ収穫できるかわからないので、成木を亜空間収納にいったん入れ、畑に持ち帰って移植したから、すぐに実が収穫できる。なにしろこの森ではあっという間に実がなるんだから。
特にオリーブは、オリーブオイルを取りたいので結構な本数を植えた。それからブドウも食用以外にもワインやワインビネガー用にこれもそれなりに植えてみた。
チャノキからはお茶の葉をとる。青い葉を蒸せば緑茶に。発酵させれば紅茶。そこは鑑定さんと亜空間収納を駆使して作った。ちゃんと飲める美味しいお茶を手に入れることが出来た。
僕の亜空間収納は、魔獣や獣、魚などは殺してからでないと入らないのに、植物だけは、引き抜いてすぐ入れられる。土ごとやってみたがそれもできた。つまり、植物に限っては、生きている状態で運べるのだ。もちろん、収納している間は時間が停止しているようで、熱い料理は熱いまま、冷たいものは冷たいままなので、いつも新鮮な食材を食べられる。ただしトレントや人食い植物は魔物なので、仕留めてからでないと入らないが。
畑が広いから水やりはそれなりに大変だけど、毎日することもないらしいので助かっている。
水やりは魔法の練習もかねて、両手からスプリンクラーみたいに放水している。
雑草の除去、つまり草むしりは、まず役に立つ雑草かどうかを鑑定し、有用なものは根ごと掘り出して収納。薬草エリアで株を増やす。
不要な草は火魔法で根絶やしにできることがわかった。そこで、雑草は畝の間に抜いた状態で放置し、あとで一斉に弱い火魔法で焼いたら、必要な野菜などは焼けず、雑草だけ焼けてうまくいった。
そうしはじめたら、僕の魔力団子と引き換えに、サラマンダが出てきて手伝ってくれるようになった。不要な雑草を抜いて畝の間に放置して、
「サラマンダ、お願い。」
と言うと、キャウアと啼いてタタタっと畝と畝の間をすり抜けていく。
すると倒れた雑草だけ焼いてくれる。それを完全に熱気を取ってから土にすき込むといい肥料になった。そして
「今日もありがとね。」
と言って僕の魔力を野球ボールくらいのお団子にしてあげると、すっごくうれしそうに食べて
「キャウイ!」
と言って消えるんだ。結構かわいい。
地球ではあり得ない農法だ。
このやり方で、手間が大変省けている。
湖で僕がはっきり妖精が見えるようになると、妖精達は畑を積極的に手伝ってくれるようになった。
以前からなんかきらきらしたものが飛んでるなーとは思っていたが、見えるようになってますますだ。
何も言っていないのに、せっせと土をいい物にしてくれている。
僕が見えるのはそれなりに力のある妖精らしい。あとはホタルみたいに、ふよふよと光が飛んでいるように見える。妖精の幼体だ。
「ありがとねー。」
と言って妖精や妖精の幼体である光珠たちに魔力を渡すと、それはもう喜んで、すっかり棲み着くようになってしまった。
特に土妖精のボスは、赤ん坊みたいな妖精の子で、湖で挨拶した子だ。「バブ!」と敬礼してくれる。むっちゃ可愛い。
でも勝手に名前を付けると、使役妖精になってしまうそうなので、あえて名前はつけていない。他の妖精たちが呼ぶように、「土の一番くん」と呼んでいる。
風妖精も、ミツバチのように受粉に協力してくれている。
もちろん報酬は僕の魔力。
雑草も次第に生えなくなって、サラマンダはちょっと暇そうだ。
だが相変わらず竈では独壇場なので、そっちでがんばってもらおう。
土の一番くんを筆頭に、他の属性の妖精達も協力して、僕の畑はますます調子がいい。
妖精たちには、ドライフルーツ入りの菓子パンなんかもお裾分けした。すごく喜んでくれた。
『畑を妖精にさせている人間なんぞ、聞いたことがない。』
とシンハは呆れているが、まあいいじゃない。妖精たちも楽しそうだ。
そして農業に不可欠な緑妖精は、グリューネ。それとたくさんの光珠たちだ。
グリューネに突っかかっていた赤い服の女の子妖精も来ている。彼女は火妖精だが、火は温度にも関係するので、同じく農業には必要な妖精とのことだ。
「ここの日当たりがいまいちね。もっと間引かないとだめよ。サキ。」
「こんなもんでもいけるって。だいじょぶだいじょぶ。」
彼女とグリューネの意見が一致しない。
「グリューネはおおざっぱすぎなのよ。サキ、まともに聞いてちゃだめよ。」
「なんだと。俺だってちゃんと考えてるさ。サキは魔力が多いんだ。その魔力を含んだ水をやってるんだぜ。まったく問題ないんだよ!」
「それくらい、私だってちゃんと考えて言ってるわ!土妖精さんたちともお話して助言してるのよ!」
「うっさいなあ。そんなきゃんきゃん言ってるからモテないんだよ。」
「まっ!失礼ねっ!」
ぷいっと赤い服の子がそっぽ向いて飛んで行ってしまった。
「ふう。グリューネ。意見が違うのは構わないけど、最後の発言、あれは良くないな。」
「だ、だってよう。」
「あとでちゃんと謝ろうね。」
「うう。」
本当はあの子のこと、グリューネも憎からず思っているようなので、それなりにフォローしてあげたい。
「(シンハ、聞こえる?)」
『(どうした?)』
「(ごめんね、っていう意味の花言葉を持つお花ってあるかな。)」
『(花言葉には詳しくはないが…。謝罪という意味なら薬草のペルウ草の花ならいいかもしれん。)』
「(ペルウ草?)」
『(傷薬になる黄色い花だ。昔、セシルがそれで花束を作っていたな。)』
「(ああ、これか。確かに、妖精向きの小さい花だね。さすがシンハ。ありがと!)」
『(フフン。礼ならワイバーンの焼き肉でいいぞ。)』
「(はいはい。)グリューネ、ちょっと。」
僕は内心落ち込んでいるグリューネを薬草エリアに呼び出し、ペルウ草の花言葉を教え、花束を作ることを提案した。すると、ちょっと恥ずかしそうにしながらも、
「な、なるほどな。ニンゲンはそうするのか。うん。やってみてやらなくもないでもない。」
などとややこしい言い回しをしていたが、いそいそとさっそく作り始めた。
ふふ。かわいいな。
「がんばって。」
とエールを贈り、僕はさりげなく傍を離れた。グリューネはフンフンと鼻歌を歌いながら、花束作りに夢中だ。
果樹エリアのポムロルの木の下で寝そべっているシンハのもとに行くと
『まったく。お前は意外に世話好きだな。』
とのご感想。
「ふふ。妖精だって人だって、仲良きことは良きことだからね。」
『ご苦労なことだ。』
「さてと。あと今日することはトマトの収穫…」
とその時だった。
シンハが急に殺気立って身を起こすのと、僕が接近する魔物の魔力を感じてはっと振り返ったのと、空からギャギャ!!という声が聞こえたのは同時だった。




