329 魔獣の天敵
「端から壁を作る。シンハ、さらに上に行くよ。」
『了解!』
さらに上空に駆け上がり、両端が見える位置まで上がった。かなりの高度だ。空気が薄い。
「うわあ。耳が痛い。急に上がったからだ。えーと…結界!ヒール!」
自分とシンハに防御とヒールをかけると、ようやく気圧変化への対応ができた。
それから、
「グラント!召喚!」
と言って、魔力内にグラントを召喚した。
「ばぶう?」
ここどこ?というわけだ。いつもは庭とか土の上なのに、と不思議がるが、上空から下を見て、驚いたようだ。なにしろ、たくさんの魔獣の群れがすぐ目の前。
「ば、ばぶぶ!」
「大丈夫だよ、あんなところに君を送りこんだりはしないから。これから此処で土魔法を使うから、グラント、手伝ってくれる?」
「ば、ばぶ。」
「よし、いくよ。」
そしてフルバージョンの長い杖に魔力を送り魔法を唱える。
「イ・ハロヌ・セクエトー…大地よ。壁を作れ。」
「ばぶう!」
すると両端から順にゴゴゴゴ…と鳴動して堅牢な石壁が大地から立ち上がる。
本当は大地に手をついて発動するのが基本だが、ほら、今手にしているのはぶっ壊れ性能の世界樹製かつミスリル、サファイア、アダマンタイト搭載の杖ですから。しかも土の一番君、グラントと一緒。だからすっごい上空からでもまったく魔力を気にせず発動できている。
でもこれからいくつも作らないといけないけど…。
「ばぶ!ばぶ!」
「いくつでも大丈夫って?ありがとう!それじゃ、いくよ。」
グラントがやる気だ。
魔物が中央に寄るように、斜めに壁が出来ていく。壁は断続的にわざと隙間を作って作られた。壁にぶち当たった魔物は自然に端から中央のほうへと流れていく。同時に、壁に阻まれた先頭の魔物は斜めに進もうとするが、後ろから来た集団に押しつぶされていく。それでも歩みは止まらない。あちこちで阿鼻叫喚と血の臭いが始まった。
壁は相当に高いが、押しつぶされた魔物たちを踏み台にして、後続の魔物達が進む。
壁の隙間を抜けたり乗り越えてきた者たちは、また目の前にできあがっていく壁にぶち当たり、また同じように押しつぶされ、土台にされ、乗り越えられていく。
中央付近に壁はなく、広がっていた魔物の集団はその幅を狭められ、ようやく2キロメルくらいの幅に落ち着きつつあった。
と、
ギャウア!
このような壁細工をした張本人に気づいたのはワイバーンだった。
空中にいるシンハと僕に気づいた個体が迫ってくる!
シンハは十分そいつを引きつけると、
『かまいたち!』
ブヒュッと音がして、そいつの首が胴から離れ、吹っ飛んだ。胴体も浮力を失って落下していった。
「気づかれたか。」
僕はエリクサーを1本飲んで、全魔力を回復し、シンハとグラントには僕から魔力団子を食わせた。
「けぷ。グラント、恐かった?ありがとねー。」
魔力をあげて、ひとまずグラントの召喚を解除。森に帰す。
「ばぶ!(また呼んで!)」
「うん。ありがとー。」
グラントを帰すと、すぐに次の呪文の準備。
「じゃ次、いくね。イ・ハロヌ・セクエトー…轟雷槍雨!!」
バリバリバリバリ!
すさまじい音がして、無数の雷が魔物達を襲った。
もちろん、僕たちは球状に展開している結界魔法で身の安全は確保している。
この一つの魔法とさっきの石壁で、相当数の魔物が削られた。
特に轟雷槍雨は落雷の性質上、空中にいるものや背の高い大型魔獣に当たりやすい。そのため、主要な戦力のうちワイバーンの相当数が即死または瀕死の重傷、気を失って落下したところを他の魔獣に踏まれ生きながら食い殺された。ゴーレムやマンティコアは数頭だけ動きを止めた。
「ワイバーンは全滅させるよ。」
そう言ってシンハから降り、空中に並び立つ。
『なるべく回収できないか。肉がもったいない。』
「ぷぷ。こうなっても食い気かい。シンハはさすがだねえ。わかった。かまいたちかバレットで仕留めよう。なるべく落下前に収納する。」
『了解!まずは俺から。かまいたち!』
襲ってきたのは残り10頭のうちまず3頭。それの1頭の首をシンハのかまいたちが仕留め、余波でもう1頭。
落下する2頭の近くに短距離テレポートで移動し、杖を向けると2頭がシュンと空中から消えた。
もう1頭がシンハに向かって火を吹いた。
さっとシンハが避ける。
僕がほぼ真横から
「バレット!」
僕の魔弾が敵の頭に命中。即死。これも即回収。
僕は、飛びながら考えている。
ラルド領で退治した魔熊。ああいう「呪われた」存在はいないかと。
だがどうも、大型魔獣には、あの時のような狂ったやつはおらず、「呪い」が強いのはマンティコアが目立つだけで、魔熊は普通の魔熊に見える。
食糧として回収したワイバーンも、普通だった。
もし、僕の予想が当たっていれば、毒針魔狼がいるのだから、どろどろに溶ける魔熊とかワイバーンとかが居てもおかしくないのだが。見当たらない。
それは少しほっとすることだった。
と、その時、下からファイヤーボールが飛んできた。
僕の脇をかすめる。
「おぉ、でかい。どいつだ?」
ゴブリンメイジではできるはずもない大きさだった。
殺気の来る方向を見ると、1頭のマンティコアと目があう。
だがもちろん、すでに石化防止サングラスは装着済だし、この距離では石化魔法は届かないだろうけど。
「ワイバーンだけじゃなく、マンティコアと毒針魔狼も退治だ。あれらがヴィルドに向かうとやりにくい。」
『わかった。で、どうする?』
「シンハは残りのワイバーンを。僕はマンティコアと毒針魔狼に対処する。」
『なるべく上空で対処する。フライの重ねがけを頼む。』
「わかった。ワイバーンは下方でなるべく回収するよ。」
『できるか?』
「だいじょぶ。僕もワイバーン肉、好きだしね。フライ!」
シンハにフライを重ね掛けし、シンハはわざと上空へ逃げるように飛び回る。
それを見たワイバーンは、シンハが怖じ気づいたと勘違いし、血気盛んに次々上へと飛び上がった。
僕は下からばんばん火の玉を発射されている。
それをひらりひらりとかわしながら、まずは毒針魔狼をスキャン。そして狙いを定めて
「ストーンバレット!」
ピュンピュンと螺旋回転している石つぶてが、サーチした毒針魔狼めがけて飛んでいく。
ギャン!ギャン!ギャウン!
悲鳴を出して絶命していく。
その数は意外に多くは無かった。50匹にも満たないだろう。
だが、これが街に入るとやっかいだ。全方向に毒針を発射されると、毒消しが間に合わなくなる。
索敵をして
「生存する毒針魔狼…なし」とでた。
ふう。なんとか全滅させられた。




