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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
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328 空中からの実況報告と人命救助

「今、僕は上空から魔獣の群れを見ています。場所は西ザイツ平原。ヴィルドから約50キロメルのところです。」

50キロメル。遠いといえば遠いが、あと数時間でヴィルドに到着する位置だ。

「平原の端から端まで、魔獣の群れは広がっています。その総数は最後尾が見えないので推定ですが、およそ3万。」

3万!?

ギルド長とカークはちらと目配せする。相当の数だ。

普通、スタンピードといえど、その総数は数千。

それが今回はケタが違う。


この町は、冒険者の数は多くみても1,500人。領主の兵で現在ヴィルドに駐留中の人数がお抱え魔術師をいれて2,000、街を守る守備隊1,500とを併せても5,000。一般市民が約8万人。ちなみにこの数字は地球の中世ではパリに匹敵する大都会である。うち魔獣と戦えそうな成人男子は3万もいないだろう。このままではヴィルドは滅ぶ。


ユリアの声は続く。

「空にはワイバーン、およそ50頭。岩のゴーレム20。マンティコアが10。ミノタウロス10。あとはほとんどは魔熊、オーク、コボルト、魔猪、魔狼、エイプ、ゴブリンなどです。ただし、その中に毒針魔狼も含まれているようです。」


絶望的な数と種類だ。

そして、例の毒針持ちの魔狼が含まれている。

ということは、このスタンピードが誰かの意思によって引き起こされた可能性がぐんと上がったということだ。

いくらヴィルドの冒険者は強いといっても、これだけの種類、そして3万という数。どうしろというのだ。


「索敵できる範囲での話ですが、今のところ龍はいません。繰り返します。龍はいません。ですので、ヴィルドの冒険者で十分対処できる種類です。数はたしかに多いですが。」

数が問題なのだ。それに、マンティコア10頭と言われただけで、目の前が真っ暗だ。1頭が現れただけで、ひとつの街が滅ぶといわれる災害獣なのだ。


「僕はこれから岩の壁つまり防御壁を適宜作ります。壁造り、得意なので。

そして魔獣がうまくヴィルドのみに向かうように誘導します。時間稼ぎをしますので、そちらに第一波が到着するのは…あと3時間後というところでしょうか。」

サキよ、何故そんなに冷静なのだ?とギルド長もカークも言いたかった。


「数減らしもしておきます。なるべく上位種を討つようにしますが、討ち漏らしはどうしても出ると思いますので、冒険者の皆さんには張り切って仕事をしてもらいましょう。」

おいおい。

「なお、ワイバーンがいるので、念のため防衛結界は上空も厚くしてくださるよう、御領主様におつたえください。」

む。防衛結界が領主お抱えの魔術師たちだと、知っていたのか。


「ではそろそろユリアも相当に疲れたと思いますので、報告はこのへんで。僕はこれから商人の馬車と農家のみなさんの救助に向かいます。そのあとで防壁を作りますね。ではまた。」


そこまで言い終えて、ユリアは崩れるように床に座り込んだ。

「ユリア。ありがとう。」

「ご苦労様でした。別室で休んでください。さあ、これを飲んで。」

カークにポーションをもらい、すぐに飲む。相当に疲弊したようだ。


ようよう立ち上がったユリアは、別室に行く前にギルド長に訊ねる。

「サキは大丈夫かしら。防御壁を作るっていうし、上位種を討つと言ってるし、空も飛べる。お父さん、サキって、何者なの?…聖者、なの?」


自分には、手の届かない遠い存在、なのだろうか…。まさかサキ自身を犠牲にして、この街を救うつもりなのだろうか…。

「さあな。それは俺たちも聞きたいところだ。」

「…」

「でもユリア。これだけは言える。サキはサキだ。そしてものすごく、強い冒険者だ。あいつを信じろ。」


ユリアはギルドを束ねる長である義父にそう言われ、はっとする。そうだ。彼が何者であっても、たとえ聖者のような遠い存在だったとしても、サキはサキ。

いつもユリアには優しいし、笑顔は素敵だし、そして自分をあの窮地から救ってくれた英雄だ。冒険者を束ねる義父が、認めるほどの実力を持った冒険者なのだ。


「そうね。そうだったわ。もう大丈夫。ありがとう。お父さん。」

そう言って。ユリアは笑顔を見せ、まだふらつきながらもすっきりした顔で去って行った。


「…本当に。サキ君はいったい何者なんでしょうね。」

「聖者、か…。世界樹が遣わしてくれた「使徒」、かもな。」

「ええ。でも。だからといって彼にばかり頼っている訳にはいきませんね。」

「ああ。俺たちも、出来ることをやるだけだ。」

ヴィルド支部の首脳陣は、互いにそう言って頷き合った。



僕は西ザイツ平原の上空で、向こうに黒い帯のように見えている魔物の大群をどうするか、手順を考えていた。

幸いにも奴らがヴィルドに到達するまで、まだ時間の余裕はある。

だが目の前で危険にさらされている人たちがいる。

まずは彼らをなんとかしないと。


今最も危険なのは、商人の荷馬車だろう。荷物満載らしく、必死で馬をせかしているが、なかなかスピードが出ない。

と、そこに魔物の先頭集団の中から、ファイヤーボールが飛んだ。

「結界!」

ドドォン!!

かろうじて間に合った。結界魔法で、ファイヤーボールは爆発して消えた。

「うひゃあ!」

首をすくめる商人。

とそこへ僕がシンハに乗って目の前に登場だ。手には魔術師らしく杖を持っている。


「ちょっとお邪魔しますねー。」

「ひっ。」

「ああ、怪しい者じゃありません。ヴィルドの冒険者のサキです。っといっても空から来たら、十分怪しいかな。あはは。」

そう言って商人の荷台を覗く。確かに荷物が満載だ。

「荷物だいぶ重いですよね。僕が大サービスで、無料で運んであげますから、一つお願いがあるんです。いいですか?いいですよね?」

「な、何をしろと言うんだ?」


「まず荷台を空にしますねー。えい!」

そう言いながら荷物に杖を向けた。すると、荷物はすべてぱっと消えた。無論、亜空間収納に入れただけだ。

「!」

「荷物はヴィルドの冒険者ギルドでお渡しします。馬も疲れてるから、無料でヒールしておきますねー。」

「…」

馬が一瞬光ると、

「ヒヒーン(ありがとー!)」

と喜んでいなないた。確かに速度が段違いであがった。


僕は真面目に言った。

「前を走っている人たちを全員乗せてあげてください。もれなく全員です。いいですね。」

僕にじっと見つめられて、嫌とは言えないだろう。荷物が質に取られているし、さっきの結界魔法も僕だとわかっているし、見た目少年だがエルフのようにも見えるから、本当の年齢はわからない。いずれにしても空も飛べるような相当の手練れだ。ここで逆らう理由はない。それに、自分だって悪人ではないつもりだ。人助けはしたい。

そんな商人の考えが、僕にはみてとれる。


「わ、わかった。」

コクコクとうなずく。

僕はなるべく天使のようににっこり笑った。

「ありがとうございます。世界樹の恵みが貴方にありますように。」

と僧侶のようなことを言ってみた。


「ああ、ついでに軽減魔法と揺れ止めもしときますねー。」

あくまでのんびりな口調でそう言うと、魔法陣が二種類出て4つにわかれ、車輪に張り付き消える。すると酷い揺れもおさまり、ますます馬足があがった。

「じゃ、よろしくです!」

「まかせろ!兄ちゃんも死ぬなよ!」

商人さんはようやく自分が頼られていると自覚したみたいだ。

「はい!おたがい、がんばりましょう!」

「おう!」


僕は再びシンハに乗って上空へ。振り返るとさっそく商人は

「みんな乗れ!」

と必死に走っている農民たちに声を掛け始めていた。

よしよし。

これで逃げ遅れた人は助かるだろう。



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